臭気しゅうき)” の例文
口中に臭気しゅうきあるをさとらず師の前に出でて稽古しけるに、春琴例のごとく三のいと鏗然こうぜんはじきてそのまま三味線を置き、顰蹙ひんしゅくして一語を発せず
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
気のせいか、にわかにたまらない野獣の臭気しゅうきが鼻をついた。臭気ばかりではない。このいやにむし暑いのは、なんであろう。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
帆村君に云わせると、いい霊媒れいばいを得さえすれば、わけのない事だそうです。いわば、鬼川の身体は、不逞団ふていだんの秘密という臭気しゅうきを持っているのです。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
室内しつないわず、廊下ろうかわず、にわわず、なんともわれぬ臭気しゅうきはないて、呼吸いきをするさえくるしいほど
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ドクダミと呼ぶ宿根草しゅっこんそうがあって、たいていどこでも見られる。人家じんかのまわりの地にも多く生じており、むといやな一種の臭気しゅうきを感ずるので、よく人が知っている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
……と思う間もなく、バタと犬の臭気しゅうきにしみた両手をさし伸ばして、イキナリ私の首にカジリつくと、ガソリンくさいキスを幾度となく私の頬に押しつけるのであった。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分も一の球を取って人々のすがごとくにした。球は野蒜のびるであった。焼味噌の塩味しおみ香気こうきがっしたその辛味からみ臭気しゅうきは酒をくだすにちょっとおもしろいおかしみがあった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたしはいよいよ彼女の体に野蛮やばんな力を感じ出した。のみならず彼女のわきしたや何かにあるにおいも感じ出した。その匀はちょっと黒色人種こくしょくじんしゅ皮膚ひふ臭気しゅうきに近いものだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが場ちがいのもので、しかも古びた、さかなでいうなら、色のせた、臭気しゅうきのあるようなものでは、いかに腕のある料理人でも、どうしたって美味くはならないものである。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
昼間でさえ陽がとどかないで、年中しめった木の臭気しゅうきがむれている小屋のうしろ。いまは夕ぐれ間近いうそ寒さがほの暗くこめて、上にかぶさるしいの枝から落葉が雨と降るところに。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あれが解剖室かと思うと、遠くから形容のできないたまらなくいやな臭気しゅうきがする。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
異様な臭気しゅうきがした。驚いて二階へ上り、戸を開けた。団扇でパタパタそこらをあおった。医者を呼んだ。それで蝶子は助かった。新聞に出た。新聞記者はに居て乱を忘れなかったのだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
学問とはこんないや臭気しゅうきのするものかと思わしむる場合もしばしばある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
血眼ちまなこになりながら、一種の臭気しゅうきを吐き合っているのだそうである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アルボースのにおいまじって臭い臭気しゅうきが鼻と目とをうった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この臭気しゅうきが、と、あの黒表紙に肖然そっくりだと思った。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
侍従たちは、その腐った物の臭気しゅうきに面をそむけた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、彼の全身にみなぎっている真実を求める心は、主人公の気づかぬ間に、いつしか彼を散歩と称して、臭気しゅうきただよ真只中まっただなかに押しやっていたのだった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うごきもせぬ大食おおぐいな、不汚ふけつきわま動物どうぶつで、始終しじゅうはなくような、むねわるくなる臭気しゅうきはなっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
草の臭気しゅうきもとづきイヌノヘドクサといい、その地下茎ちかけいは白く細長いからジゴクソバの名がある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
野良犬のらいぬや拾い屋(バタ屋)が芥箱ごみばこをあさっているほかに人通りもなく、静まりかえった中にただ魚の生臭なまぐさ臭気しゅうきただようている黒門市場の中を通り、路地へはいるとプンプン良いにおいがした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
松の木をよじ登った両人も下りて来て、その鞄が半分は自分たちのもののような顔で鞄のそばへ近づいたが、その臭気しゅうきには顔をしかめずにはいられなかった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
またボウズグサ、ホトケグサ、ヘビクサ、ドクグサ、シビトバナなどの各地方言があるが、みなこの草を唾棄だきしたような称で、畢竟ひっきょう不快なこの草の臭気しゅうき衆人しゅうじんきらうから、このように呼ぶのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ふーっというあらあらしい息が顔にかかると、たとえようもない臭気しゅうきがクーパーの胸をむかむかさせた。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっと緩慢かんまんなる麻痺性のものでないといけぬ。わしの作った神経瓦斯は、全然当人に自覚じかくがないような性質のものだ。臭気しゅうきはない、色もなくて透明だ、もちろん味もない、刺戟しげきもない。
と、事務長はふと気がついて、れいのいやな臭気しゅうきについてたずねてみた。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)