膝行いざ)” の例文
などと注意をすると、この極端に内気な人にも、人の言うことは何でもそむけないところがあって、姿を繕いながら膝行いざって出た。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
膝行いざり寄る。なかば夢心地の屑屋は、前後の事を知らぬのであるから、武士さむらいて、其の剣術にすがつても助かりたいと思つたのである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
倅の又次郎が手を出しそうにするのを止めて、自分で膝行いざり寄って、壁際に立てかけてあった吹矢筒を取って、平次に渡します。
そうすると健斎老が、これは無言で膝行いざり寄り、患者の枕許へ手を入れて、しずかに取り上げた小腕を見ると細くて白い。
主水は朋輩のうしろにすわって、ひざに手を置いてうつむいていたが、そう言われると、逃げ隠れもできない。はっといって広間の閾際しきいぎわまで膝行いざり出て、そこで平伏した。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
屋敷から、一歩はおろか、女部屋を膝行いざり出ることすら、たまさかにもせぬ、郎女のことである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ですから、外に出たと思って中に入ろうとし、紙帳の垂れをまくって一足膝行いざると、今度は反対に外へ出てしまうのですが、その眼の前に、一つのあなしつらえてあるのです。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「はい」と云って出て行くお米、主人庄司甚右衛門はスルスルと前へ膝行いざったが
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
医師は、横わっている勝平の傍近く、膝行いざり寄りながら、瑠璃子にそういた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お糸さんは床をって了うと、火鉢のそば膝行いざり寄って火を直しながら
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
邪慳じゃけんに彼の手を払いのけるとまた一にじり膝行いざり出て
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
膝行いざり寄るようにして義兄玄正が訊ねた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そこで、戸を膝行いざって出た私ですが、ふらふらと外へ出たのは一枚の開戸口ひらきどぐちで。——これがいたのを、さきには一本松の幹だと思った。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床の上に寝かして、簡単な供え物をしただけ、膝行いざり寄って、それを一と眼見た平次が、ハッと息を呑んだほど、それはよく兄の岩太郎に似て居りました。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
源氏が弾くのを少し長く聞いていれば得る所があるであろう、少しでも多く弾いてほしいと思う玉鬘であった。いつとなく源氏のほうへ膝行いざり寄っていた。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
郎女の手に、此巻が渡った時、姫は端近く膝行いざり出て、元興寺の方を礼拝した。其後で
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「憐れんで貰う必要はない。もっとも……」と云うと膝行いざり寄り
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お銀様は、幸内の寝ている枕許へ膝行いざり寄って来ました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
形ばかりの台の上に載せた香炉こうろに線香を立てて、平次は膝行いざり寄るように、死骸の上に掛けた布を取りました。
明石あかしはやっと膝行いざって出て、そして姿は見せないように几帳きちょうかげへはいるようにしている様子に気品が見えて
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一さし舞うて見せむとて、とどむるを強いて、立たぬ足膝行いざり出でつ。小稲が肩貸して立たせたれば、手酌して酒飲むとは人かわりて、おとなしく身繕いして、粛然と向直る。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お耳を」と云いながら膝行いざり寄った。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次は部屋の四方から、家の構造をひと通り見て、地理的な関係を胸に畳んでから、膝行いざるように中に入って、惨憺たる死骸を、恐ろしく丁寧に見ました。
源氏はこの手習い紙をながめながら微笑ほほえんでいた。書いた人はきまりの悪い話である。筆に墨をつけて、源氏もその横へ何かを書きすさんでいる時に明石は膝行いざり出た。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あかはかまにて膝行いざり出で、桶を皺手しわでにひしとおさえ、白髪しらがを、ざっとさばき、染めたる歯をけたに開け、三尺ばかりの長き舌にて生首の顔の血をなめる)汚穢や、(ぺろぺろ)汚穢やの。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「殿」と郷介は膝行いざり寄った。
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お舟は膝行いざり寄って、和助の激情にふるえる手を取るのです。涙はお互の顔も見えないほど降りそそぎました。
と言って、御簾みすを巻き上げて、縁側に近く女王にょおうを誘うと、泣き沈んでいた夫人はためらいながら膝行いざって出た。月の光のさすところに非常に美しく女王はすわっていた。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
膝行いざつて、……雪枝ゆきえ伸上のびあがるやうにひざいて、そでのあたりををがんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
膝行いざり寄って線香をあげて、死骸をおおったきれを取りのけて、物馴れたガラッ八も思わず声を立てました。
と言いながら部屋の奥のほうへ膝行いざって行くのがういういしく見えた。命婦は笑いながら
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
生命いのちがけで、いて文部省の展覧会で、へえつくばって、いか、洋服の膝を膨らまして膝行いざってな、いい図じゃないぜ、審査所のお玄関で頓首とんしゅ再拝とつかまつったやつを、紙鉄砲で、ポンとねられて
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お篠はそう言って、自分の両手を後ろに廻し、平次の方へ膝行いざり寄るのです。白粉気おしろいけのない顔は青ざめ、まぶたあふれる涙が、豊かな頬を濡らして襟に落ちるのでした。
生命いのちがけで、いて文部省の展覧会で、へえつくばつて、いか、洋服のひざを膨らまして膝行いざつてな、いゝ図ぢやないぜ、審査所のお玄関で頓首とんしゅ再拝さいはいつかまつつた奴を、紙鉄砲かみでっぽうで、ポンとねられて
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
外から御簾みすを引き上げながらこう言った。玉鬘は膝行いざって出て言った。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
案内されて、中へ通った平次、お品の勧める座蒲団ざぶとんを押やって、利助の枕元に膝行いざり寄りました。
心当りがあるか、ごほりと咳きつつ、甘酒の釜の蔭を膝行いざって出る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
泣く泣く病床へ衛門督は膝行いざり入るのであった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
奥の間に寝かしたまま、検屍けんしを待っている娘お吉の死体を、平次は膝行いざり寄って一目見せて貰いました。醜かるべき絞殺死体ですが、これはまたなんという美しさでしょう。
僧は燈火ともしびもと膝行いざり寄った。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
静かに膝行いざって出た。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
八五郎は咄嗟とっさのあいだに二人の若い女を観察すると、死骸の傍に膝行いざり寄って、いつも親分の平次がするように、ていねいに拝んでから、顔をおおってある白い布を取りました。
ノソリと帰って来た八五郎は、火鉢の側へ膝行いざり寄ると、もうこんなことを言うのです。
お金は驚いて膝行いざり下りました。躾みは無くとも、相手の身分は一と目でわかります。
膝行いざり寄って渋茶の茶碗を引寄せながら、こう振り仰いだ八五郎の鼻は少しうごめきます。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
などといいながら、欄干らんかんの方へよちよち膝行いざって、しなを作って柱にからむとそのまま『美人欄に寄るの図』になろうといった——少なくとも本人はそう信じて疑わないなちの女だったのです。
ガラッ八の八五郎は、いきなり銭形平次の寝ている枕許に膝行いざり寄りました。
お倉は平次の方に膝行いざり寄って、その羽織の裾にひしとすがり付くのでした。
八五郎はそれでも犬にも噛み付かれず、障子の外から膝行いざり込みました。
笹野新三郎は自分も膝行いざり寄って、平次を小手招こてまねぎました。