しゅく)” の例文
旧字:
しゅくと泣いた。けれどたれも彼を恨みには思わなかった。みなひじをまげて顔をおおった。そしてはっとその顔をまた何かにました……。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慶長年間わが賈舶の安南に赴くや、当時の碩儒せきじゅすなわち徳川時代文学の開山たる藤原しゅくはその舟中の規約を作り与えて曰く
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
さすがの燕王も心に之をにくみて色よろこばず、風声雨声、竹折るゝ声、裂くる声、物凄ものすさまじき天地を睥睨へいげいして、惨として隻語無く、王の左右もまたしゅくとしてものいわず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この時のごとく声を揚げて二たび三たび呼ぶとともに、帳内深き処しゅくとして物を縫う女、物差を棄て、針をきて、ただちに謙三郎にきたりつつ、笑顔を合すが例なりしなり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「皇居にお近いから、ふと内裏をおおどろかせ申してもならぬ。しゅくとして、馬蹄喊声ばていかんせいをつつしみ、ただ横着公方くぼうの罪を責めればそれで足る——」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燕師いよ/\東昌に至るに及んで、盛庸、鉄鉉うしを宰して将士をねぎらい、義をとなえ衆を励まし、東昌の府城を背にして陣し、ひそかに火器毒弩どくどつらねて、しゅくとして敵を待ったり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夜が白みかけると、城外の馬揃いの広場には、すでに、約一万四、五千の兵馬と旌旗せいきが、朝霧の底に、しゅくとして濡れていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第十三子けいだい王とし、大同府だいどうふに居き、第十四子えいしゅく王とし、藩に甘州府かんしゅうふに就かしめ、第十五子しょくを封じてりょう王とし、広寧府こうねいふに居き、第十六子せんけい王として寧夏ねいかに居き、第十七子けんねい王に封じ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし、初冬の空はすみ風は冴えて、山下の数万の兵も、その間、しゅくとひそまり返って、祷りの心をひとつにしていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、一斉に、河原の仮屋を中心に馳せ集まって、またたく間に、三列四列、横隊になった軍馬がしゅくとして、主君のすがたが鞍に乗るのを待っていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オオ願おう。一同もこれに集まってしゅくと下にいて聞くがいい。そうだ、蕭譲しょうじょうは筆をとって黄紙こうしにそれを書き写せ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しゅくとして、彼の友だちは皆、彼の挙止を見まもった。だが、五郎次が落着いているのを見ると、やや安心して
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と思い当るところがあったか、家臣たちは高張提灯たかはりぢょうちんを高く掲げ出して、しゅくとはしていたが、隣家の異変に対して、万一の備えを固めているらしく思われる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「武者かくしには、猛者もさどもをひそめ、聟殿が通ったら、わざとせきばらいさせい、庭前には、弓鉄砲の兵、しゅくとして立たせ、そのほか息づまるまで、威圧を」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
義経の眼も心も、しばしその崇厳すうごんな光に溶かされていた。吉次も凝視していた。うしろの木々の蔭を立ち出た将士も、面をかれながらしゅくとして見まもっていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉水の講堂では、きょうも厳粛のうちになごやかな半日が禅房のひさしに過ぎた。講義をしている上人の声は、しゅくとしている奥の方から表まで聞えてくるのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百八人になっていたのかと、急に自他を見まわして一同もまたしゅくと、感慨に打たれたようなふうだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とらの一天(午前四時)といえば初夏でもまだ暗かった。やしろは小さい。祈願が行われるあいだ、万余の兵は村道から森にあふれ、しゅくと、黒い霧の下に濡れ沈んでいた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しゅくとして、将兵はみな、低く頭を下げ、各〻の心の鏡に、神を映し取って、祈念の眼をふさいでいた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとりが不用意に笑ったが、他はみなしゅくと黙してしまった。金五の涙に真摯しんしな光を見たからである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々は、巌流の姿が、近づいて来るにつれ、しゅくとして、おのずから列をなし、彼の道を開いていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云う声は、さすがに、議論や焦躁しょうそうに暮れていた在府組の意気を、しゅくと、めた感じがある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、しゅくとはしているが、そのおもてには、不平だの、疑惑だの、思い思いな感情がまだ動いていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
述べおわって、周瑜が、席へついても、しばらくは皆、感じ合ったまま、しゅくとしていた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
客は、さすがに、しゅくとした。——渡にとって、それは、名誉と努力をけた野心的な大仕事と、たれにも気持は分かるからだ。それでは、約束がちがうぞとぜ返す者もなかった。
院の御使みつかいの船は、まもなく、尊氏の乗船の横へ着いた。すぐ右馬介の介添かいぞえで、自船から大船の上へと移った日野賢俊けんしゅんと薬師丸の影は、一とき湾内の者の視線をしゅくとあつめていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将門以下、豊田の将兵は、そのとき、しゅくとして、心に、凱歌の用意をしていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或る厳粛なる奇蹟に対する心地で、一同は、しゅくとしてかたちをあらためていた。わけて秀吉は、えりを正し、うなじを垂れ、両手を膝にのせたまま、慎んでその一語一語も聞きもらすまいとしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はや森々しんしんたる華岳の参道を踏み登っていたのである。奏楽が起る。喨々りょうりょうと笛の音、金鈴きんれいのひびき。そして身は仙境を思わせるこうのけむりと一山の僧衆がしゅくと、整列するなかをすすんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ごとのふすま境を取りのぞけば、邸内はただ一つの広い武者床むしゃゆかとなる。だがそこにさえ入りきれぬ七、八十名の甲冑かっちゅうと硬ばッた顔は廊にまで溢れた。そして深夜のしょくも人もすべてしゅくとなった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行儀は、しゅくと、構えているが、においにすら、はらわたが、鳴くのである。
しゅくとして、影に影を寄せ合せている。そこへ、燭台が運ばれた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとにしゅくたる大勢が涙をすすり合うのも聞えぬ振りして——
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜀陣の旌旗せいきは依然、しゅくとして寸毫すんごう惰気だきも見えませぬ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しゅくと、すべての顔が、光る眼を持って、聞き終った。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伽藍がらんには、一山の僧が、居ならんで、しゅくとしていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嗚咽おえつする者もあった。しゅくとした一瞬に
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しゅくとして整列した。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、すぐしゅくとなる。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)