粉微塵こなみじん)” の例文
が、とにかく大空を行くのだから、落つれば一堪ひとたまりもなく、粉微塵こなみじんに成ると覚悟して、風を切る黒き帆のやうな翼の下に成るがまゝに身をすくめた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、此の花瓶が、超人の手によって、百尺の高さから、花崗岩かこうがんの庭石の上へ投げつけられ、物の見事に文字通り、粉微塵こなみじんに破壊されたらどうだろう。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
それからさらだのほたりだのが粉微塵こなみじんに砕ける音、——今まで笑い声に満ちていた洞穴ほらあなの中も、一しきりはまるで嵐のような、混乱の底に投げこまれてしまった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
悪魔は絶望の極、恨み重なる明智を道づれに、船もろとも、我身を粉微塵こなみじんにしようと決心したのだ。まことに一代の兇賊にふさわしい最期と云わねばならぬ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一どきに、わしの一身なぞは、粉微塵こなみじんにされてしまうであろう——こうしてはおられぬ。あのお初とやらのことにしろ、魔が差したのだというてもよろしい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
山吹の里公園の小暗こぐらい繁みの中に入ったとき、思いがけなくドカンという銃声と共に、ウィンドー・グラスが粉微塵こなみじんにくだけちった。私はウムと左腕をおさえた。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
落ちれば鷲よりも弁信さんが先に粉微塵こなみじんに砕けてしまうではないか、米友さんという人も考えが浅い!
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いきなり飛び出した途端に砲丸にやられ、五体は粉微塵こなみじんに飛び、やっと軍帽だけが送りかえされた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はちょっと用を足しにわきへ行っていたのでしたが、帰って見ると、店は粉微塵こなみじんになっている。池へ落ちた群衆が溝渠鼠どぶねずみのようになってい上がって、寒さに震えている。
その他のアラユル唯物的な文化思想を粉微塵こなみじんに踏み潰して、その代りに人間の魂をドン底まで赤裸々に解放した、痛快この上なしの精神文化をこの地上にタタキ出すべく
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして自己保存の本能に駆られて、身を守るために攻勢を取った。彼女はまだオリヴィエを愛してはいたが、自分に敵対する彼の信念をば、粉微塵こなみじんにしてやろうとつとめた。
又この人並ひとなみならぬ雲雀骨ひばりぼね粉微塵こなみじんに散つてせざりしこそ、まことに夢なりけれと、身柱ちりけひややかにひとみこらす彼のかたはらより、これこそ名にし負ふ天狗巌てんぐいわ、とたりがほにも車夫は案内あないす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もう一押し押されたなら、紋太夫の体はひとたまりもなく、粉微塵こなみじんになろうと思われた。と、その時、彼の寝ている厚い石畳の真下に当たって、コツコツコツコツと音がした。
「いやもう、なにも言いたくありません。貴女あなたは、貴女のお考えで、男性をもてあそぶことをおつゞけなさい! その中に、純真な男性の怒が、貴女を粉微塵こなみじんに砕く日が来るでしょう。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
小さいながらその光景は、そうした興味をそそり立てるだけの力を持っていた。もっと激しく、ありったけの瓶が一度に地面に散らばり出て、ある限りが粉微塵こなみじんになりでもすれば……
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お島め乃公をポチか何かと思って、お膳を投出ほうりだして、御丁寧に悲鳴を揚げた。馬鹿な奴だ。家中うちじゅうの人が井戸がえでも始ったように寄ってたかって来た。茶碗も何も粉微塵こなみじんになって了った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それにしても、面白いのは、トルストイがその内部の光景をいつも粉微塵こなみじん粉韲ふんさいしながら、常にその内部の光景に向つて進んで行つた形である。かれは何遍となくその内部を破壊した。
心の絵 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
この恋が成功さえすれば天地が粉微塵こなみじんコッパイになっても少しも驚きはせぬ。もしまたこの恋がどうしても成功せぬときまった暁にははりつけに逢うが火あぶりに逢うが少しもくやむ処はない。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
物をもいわず裲襠を剥取はぎとってずたずたに引裂き鼈甲の櫛笄や珊瑚さんごかんざしをば惜気おしげもなく粉微塵こなみじん踏砕ふみくだいたのち、女を川の中へ投込んだなり、いかにもせわしそうに川岸をどんどん駈けて行く。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
時計爆弾の爆発でそれに引火すれば船は一瞬の間に粉微塵こなみじんになってしまうのだ。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あやうくお杉ばばあに殺される所を、若旦那が早く気がいたんで、お杉の方が反対あべこべに穴の底へ墜落おっこちて死んだんですとさ。何でも人の話で聞くと、お杉婆の身体は粉微塵こなみじんになって居ましたとさ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もっとも敵の地雷火じらいかすさまじい火柱ひばしらをあげるが早いか、味かたの少将を粉微塵こなみじんにした。が、敵軍も大佐を失い、その次にはまた保吉の恐れる唯一の工兵を失ってしまった。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それに気が小さいから、取詰めて、持ってる洋燈をこの荷車に叩きつけよう、そして粉微塵こなみじんに砕けたら、石油に火が移ってめらめらと燃えて無くなるであろうとまで思った。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちまち足を踏みすべらしまして、数丈の石垣から転がり落ちつつ、粉微塵こなみじんとなって相果てました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
か様にして、人見廣介の五体は、花火と共に、粉微塵こなみじんにくだけ、彼の創造したパノラマ国の、各々の景色の隅々までも、血液と肉塊の雨となって、降りそそいだのでありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
というのはその断崖の山の半腹から道がその絶壁の谷へと流れていて、それを我々はじているのですから、ひょっと踏みはずせば、千尋の谷底へ身体からだは落ちて粉微塵こなみじんとなるわけです。
それを認めるよりもむしろ自分を粉微塵こなみじんにされたかった。そして今や、自分から進んで!……彼は幾度となく引返そうとした。宮邸に着こうとするとまた足を返しながら、二三度町を歩き回った。
くろがね天狗めがけて、粉微塵こなみじんになれよとばかり射かけた。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「可哀そうに粉微塵こなみじんだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
するとその途端にかめが一つ、どこからか彼の頭を目がけて、勢い好く宙を飛んで来た。が、さいわいそれはねらいがれて、彼の足もとへ落ちると共に、粉微塵こなみじんに砕けてしまった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
携帯電灯は粉微塵こなみじんになってとび散った。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)