くるし)” の例文
所が、昨年の秋からまた精神に何か動揺が起ったらしく、この頃では何かと異常な言動を発して、私をくるしめる事も少くはございません。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こぼれたる柱、碎けたる石の間には、放飼はなしがひうさぎうまあり、牛ありて草をみたり。あはれ、こゝには猶我に迫り、我をくるしめざる生物こそあれ。
彼はこの長者のくるしめるをよそに見かねて、貫一が枕に近く差寄りてうかがへば、涙の顔をしとね擦付すりつけて、急上せきあげ急上げ肩息かたいきしてゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
夫れにくみを天にうくる一切の邪惡はその目的めあて非を行ふにあり、しかしてすべてかゝる目的は或は力により或は欺罔たばかりによりて他をくるしむ 二二—二四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今日は鼓腹撃壌とて安堵あんどするも、たちまち国難に逢うて財政にくるしめらるるときは、またたちまち艱難の民たるべし。
政事と教育と分離すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今や北米合衆国は有色人種をくるしめて、あきらかに国祖清教徒の自由平等の大信条にそむいている。彼らはその優秀なる軍備を以て他国を屈服せしめ得るかも知れぬ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
お浪もこのはや父母ちちははを失った不幸の児がむご叔母おばくるしめられるはなしを前々から聞いて知っている上に、しかも今のような話を聞いたのでいささかなみだぐんで茫然ぼうぜんとして
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
城に籠つてゐたら、他からの侵略は無いが、てもなく兵粮攻ひやうらうぜめと謂つたもので、自分で自分をくるしめなければならぬ。自體周三等の籠つてゐる城は、兵粮に欠乏けつぼふがちだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
毒蛇がくるしめられた時思い切って自分の身を咬んで絶命するという事しばしば聞いたが、毒蛇を酒精に浸すとくるしんで七転八倒し、怒って自分の体に咬み付いたまま死ぬ事あり
さらば逍遙子は空間にいましめられ、時間にしばられ、はては論理にくるしめられむ。衆理想皆是なりとは、逍遙子え言はざるべし。彼は衆理想の中に於て論理にたがひたるものを發見すべければなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「これは滅相な。御主おぬし父親てておやが気を失ったのは、この摩利信乃法師まりしのほうしがなせるわざではないぞ。さればわしをくるしめたとて、父親が生きて返ろう次第はない。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
既にして人々は乞丐かたゐの群にくるしめられて、酒店の軒に避けたれば、獨り立ち戻りて、盾銀たてぎん一つ握らせたり。
然るに何ぞ図らん此の俊徳成功の太祖が熟慮遠謀して、ばかり思いしことの、その死すると共にただち禍端乱階かたんらんかいとなりて、懿文いぶんの子の允炆いんぶん、七国反漢のいにしえを今にしてくるしまんとは。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
座敷にはくるしめる遊佐と沈着おちつきたる貫一と相対して、莨盆たばこぼんの火の消えんとすれど呼ばず、彼のかたはら茶托ちやたくの上に伏せたる茶碗ちやわんは、かつて肺病患者と知らでいだせしを恐れて除物のけものにしたりしをば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
文久三年亥歳いどしから明治元年まで五、六年のあいだと云うものは、時の政府に対してあたかも首の負債を背負しょいながら、他人に言われず家内にも語らず、自分で自分の身をくるしめて居たのは随分ずいぶん悪い心持でした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、クリストが十字架くるすにかけられた時に、彼をくるしめたものは、独りこの猶太人ばかりではない。あるものは、彼に荊棘いばらかんむりいただかせた。あるものは、彼に紫のころもまとわせた。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
汝はかの猶太の翁の事をおぼえたりや。聖母のがんの前にて、惡少年にくるしめられし翁の事なり。
いつも他の勢力や威力や道理らしいことやを味方にして敵をくるしめることにけたものだ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
直行のまなこは再び輝けり。貫一はなまじひに彼をくるしめじと、かたはらよりことばを添へぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
或る一人が他の一人をくるしめようと思って、非常に字引を調べて——勿論平常から字引をよく調べる男でしたが、文字の成立まで調べて置いて、そして敵が講じ了るのを待ち兼ねて
学生時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
妻は、私のあらゆる異常な言動が、皆その疑から来たものと思っているらしいのでございます。この上私が沈黙を守るとすればそれはいたずらに妻をくるしめる事になるよりほかはございません。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こころけだし今の朝廷また建文をくるしめずして厚くこれを奉ず可きをおもえるなり。えいはこれを聞きておおいに驚き、ことごと同寓どうぐうの僧を得て之を京師けいしに送り、飛章ひしょうして以聞いぶんす。帝及び程済ていせいけいに至るのすうに在り。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
追窮ついきゅうする。追窮されてもくるしまぬ源三は
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)