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真面
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まとも
ふりがな文庫
“
真面
(
まとも
)” の例文
旧字:
眞面
日の光が斜めに窓からさし込むので、それを
真面
(
まとも
)
に受けた大尉の
垢
(
あか
)
じみた横顔には
剃
(
そ
)
らない
無性髯
(
ぶしょうひげ
)
が一本々々針のように光っている。
深川の唄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「ですが……」と、娘もその時は、だいぶ度胸がすわって来たものでしょう、押し返して、
彫
(
ほり
)
のふかい面だちを
真面
(
まとも
)
に白くふり向けて
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
クレバネットのレイン・コートに身を包んで烈しい風を
真面
(
まとも
)
に受けながら、線路伝いに殺人現場のW停車場へ向って速足に歩き続けていた。
気狂い機関車
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
私たちの常識は、こういう望みがこの世の中に在るということに対してすら、ひょっとかすれば
真面
(
まとも
)
に
嘲笑
(
ちょうしょう
)
を浴びせてしまうかも知れない。
宝永噴火
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
始め、誰も彼も狂気のようなこの法廷の中で、只一人、
真面
(
まとも
)
な人間らしい人は、ジュッドさんだけだ。ジュッド氏の眠りを妨げてはいけない
アリゾナの女虎
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
▼ もっと見る
丁度午後の日を
真面
(
まとも
)
にうけて、
宏壮
(
おほき
)
な白壁は燃える火のやうに見える。建物
幾棟
(
いくむね
)
かあつて、長い
塀
(
へい
)
は其
周囲
(
まはり
)
を
厳
(
いかめ
)
しく
取繞
(
とりかこ
)
んだ。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
強制団員の中には、この
真面
(
まとも
)
な放送に、大満足の意を表したものさえあった。だが、敵機は、本当に、帝都の上空から、引揚げていったのだろうか?
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
前後の事情から考え合せてみると、家光の手に持っている茶碗の中に、
真面
(
まとも
)
な薬湯が入っているわけはありません。
銭形平次捕物控:001 金色の処女
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
人の顔をジロ/\と
偸
(
ぬす
)
み見はするが、決して
真面
(
まとも
)
には見ず、人に顔を見られる事を臆したやうな風で口籠る如く丁寧な言葉をつかふ此男の様を見ると
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
ところが、残念にも、私はそれを、手もなく捲き上げられてしまつたのです。あの方は、妖婦です。僕達には、とても
真面
(
まとも
)
に太刀打は出来ない人です。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
落ちかけた夏の日が、熟して割れた
柘榴
(
ざくろ
)
の色の光線を、青々とした麦畑の上に流して、
真面
(
まとも
)
に二人の顔を彩つた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
丁度、白峰山脈からいえば、農鳥山の支峰の下で、河原から、赤石山脈の
間
(
あい
)
の
岳
(
たけ
)
とは、
真面
(
まとも
)
に向き合っている。
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
「君、送れ」——野田が彼を
真面
(
まとも
)
に見て、無造作に合図した。と、不思議に和作は、自分の細々した感情をその野田にすつかり預けてしまふ心持になつた。
朧夜
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
万三郎はその光りを
真面
(
まとも
)
に受け、
眩
(
まぶ
)
しさに思わず顔をそむけようとした。そのとき、半兵衛が踏込んで来た。
風流太平記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
民子はそれに気がついてゐたが、
真面
(
まとも
)
に見据ゑられるよりも気が楽で、わざわざ代らうともしなかつた。
花問答
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
のみならず小林は
真面
(
まとも
)
にこっちを向いていなかった。彼は津田のまだ見知らない青年と
立談
(
たちばなし
)
をしていた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
穂さきが
空
(
くう
)
を流れずに
真面
(
まとも
)
に下へ下へと突きおろして来た工合が、百姓にしてはちっと出来過ぎるとおれも実は不思議に思っていたが、猟師とはちょいと気がつかなかった。
半七捕物帳:18 槍突き
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
凍り付いた戸をガタピシさせて五寸
許
(
ばか
)
り開くと、寒い風に、粉のような雪が混って顔に
真面
(
まとも
)
に吹き付けた。老婆の体は、いつしか
温
(
ぬく
)
みが消えて、外界と同じく冷え切っていた。
凍える女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
初め横なぐりに来た
雨脚
(
あまあし
)
は、
半蓋馬車
(
ブリーチカ
)
の車体の片側を打つかと思うと次ぎには反対側にまわり、それから今度は上から真直ぐに降りつけて、
真面
(
まとも
)
に馬車の上をざんざん叩いて
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
Y君はとても
真面
(
まとも
)
に家を見上げる勇気がなかったので、池の中を覗き込んだ。日覆を取り外しているらしい白い顔が小さく揺いでいた。Y君は軍服の背中じゅうを硬わばらせた。
アンドロギュノスの裔
(新字新仮名)
/
渡辺温
(著)
細かに細かに
千絶
(
ちぎ
)
れた雲の一つ一つが夕映の光を
真面
(
まとも
)
に浴びて、紅に紫に青に輝き、その中に、黄金、白銀の糸をさえまじえて、思いもかけぬ、尊い、綾が織りなされるのである。
農村
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
それが
真面
(
まとも
)
に石燈籠へ当ったら、槍の穂先もポッキリと折れるのでしょうが、燈籠の屋根の上を
掠
(
かす
)
めて流れたから、そのハズミで主膳は石燈籠へブッつかって、
摚
(
どう
)
と後ろへ倒れました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
泪のない、
真面
(
まとも
)
に見上げた泣き顔というのは、ひどく荒涼としたものであった。
脳波操縦士
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
「ここは顕官の泊るところです。有名な家です」桂三郎は縁側の
手摺
(
てすり
)
にもたれながら言った。淡路がまるで盆石のように
真面
(
まとも
)
に眺められた。裾の方にある人家の群れも
仄
(
ほの
)
かに眺められた。
蒼白い月
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
上げて
真面
(
まとも
)
に見る事が出来た者はありませんでした。
金銀の衣裳
(新字旧仮名)
/
夢野久作
(著)
ところが、残念にも、私はそれを、手もなく
捲
(
ま
)
き上げられてしまったのです。あの方は、
妖婦
(
ようふ
)
です。僕達には、とても
真面
(
まとも
)
に太刀打は出来ない人です。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
それは
大川口
(
おおかわぐち
)
から
真面
(
まとも
)
に
日本橋区
(
にほんばしく
)
の岸へと吹き付けて来る風を
避
(
よ
)
けようがためで、されば水死人の
屍
(
しかばね
)
が風と
夕汐
(
ゆうしお
)
とに流れ寄るのはきまって中洲の方の岸である。
夏の町
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
まぶしい夕日の反射を
真面
(
まとも
)
に受けて、鉄砲のねらいを定めるだけにも浪士側は不利の位置に立つようになった。それを見て一策を案じたのは参謀の山国兵部だ。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
梅雨後
(
つゆあがり
)
の勢のよい青草が
熱蒸
(
いき
)
れて、
真面
(
まとも
)
に照りつける日射が、深張の
女傘
(
かさ
)
の
投影
(
かげ
)
を、鮮かに
地
(
つち
)
に
印
(
しる
)
した。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
殆ど
切断
(
きりた
)
った様な断崖で、洋風の小さな岸田家の別荘は、その静かな海岸に面した見晴の好い処に雑木林に囲まれながら暖い南風を
真面
(
まとも
)
に受ける様にして建てられていた。
花束の虫
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
一たん眼を
冥
(
つむ
)
つた友はまたぱつと開いて私の顔を
真面
(
まとも
)
に見た。これも昔見た友の癖である。
過去世
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
窓越しに太陽が彼の顔へ
真面
(
まとも
)
に照りつけ、
昨夜
(
ゆうべ
)
は壁や天井にとまって静かに寝ていた蠅が今や彼に向って総攻撃を開始していた。一匹は彼の唇にとまり、また一匹は耳にとまっていた。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
お延はいざとなると口で云った通りを
真面
(
まとも
)
に断行する女であった。たとい違約であろうとあるまいと、津田を代表して、小林を撃退する役割なら進んで引き受けないとも限らなかった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その夜は非常に
吹雪
(
ふぶき
)
のした晩であった。普通の者は
迚
(
とて
)
も、この広い野原を歩けない。
勿論
(
むろん
)
道の付いている筈がなし、北西の風を
真面
(
まとも
)
に受けて、雪が
目口
(
めくち
)
に入って一足も踏み出せるものでない。
北の冬
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
山岳にも河川にも用のない机竜之助は、日当りのよいことが何より結構で、お銀様が風景に
見恍
(
みと
)
れている時に、竜之助はよい気持であたりの芝生の上へ腰を卸して、日の光を
真面
(
まとも
)
に浴びている。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
いや、そればかりではなく、彼の恋女房である綾子をさえ、
真面
(
まとも
)
に見ることができなくなったのです。それは、勝見が笛吹川画伯の埋葬を済ませて帰って来てから、一週間ほどのちの出来事でした。
赤耀館事件の真相
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
殊
(
こと
)
に亜米利加から新規に赴任して来たばかりの少壮な教授なぞは、
真面
(
まとも
)
に彼の方を見て講義を続けたり、時間中に何度となく彼の名を呼んで質問に答えさせたりした。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
平素は、何の隔てもない妻の顔が、眩しいもののやうに、
真面
(
まとも
)
から見ることが出来なかつた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
その祠の
階段
(
だん
)
に腰を掛けると、此処よりは
少許
(
すこし
)
低目の、同じ形の西山に
真面
(
まとも
)
に
対合
(
むかひあ
)
つた。
赤痢
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
裏の山からこの水を
真面
(
まとも
)
に受けたこの家の一部を、メリメリと外から裂いているうちに余の水は、もう軒を浸してしまいました。水が軒を浸す時分には、家の全体が浮き出さない限りはありません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
平素は、何の隔てもない妻の顔が、
眩
(
まぶ
)
しいもののように、
真面
(
まとも
)
から見ることが出来なかった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
その日まで彼はなるべく彼女を避けるようにし、直接に言葉を掛けることをすら
謹
(
つつし
)
み、唯遠くから彼女を眺めて来た。言葉を替えて言えば、彼はまだ
真面
(
まとも
)
に節子を見得なかった。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
『アノネ……』と、富江は探る様な目付をして、笑ひ乍ら
真面
(
まとも
)
に信吾を見てゐる。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
真面
(
まとも
)
に受けた駒井甚三郎は、よろよろと、それを受留めながら、これも自分の力で自分の足もとを支えることができず、最初から
楯
(
たて
)
に取っていた椰子の大木に支えられて、そこで、烈しい泣き声が
大菩薩峠:41 椰子林の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それを
真面
(
まとも
)
に受けるのが米友の米友たる
所以
(
ゆえん
)
で
大菩薩峠:20 禹門三級の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
真
常用漢字
小3
部首:⽬
10画
面
常用漢字
小3
部首:⾯
9画
“真面”で始まる語句
真面目
真面目顔