しろ)” の例文
おもふに、ゑがける美人びじんは、ける醜女しうぢよよりもなりつたく、かん武帝ぶてい宮人きうじん麗娟りけんとしはじめて十四。たまはだへつややかにしてしろく、うるほふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やや大きなる目少しく釣りて、どこやらちと険なる所あり。地色の黒きにうっすりきて、くちびるをまれに漏るる歯はまばゆきまでしろくみがきぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
眼も、鼻も、口も、りっぱで、大きくて、ゴヤの絵にある西班牙スペインの踊り子のような顔をしています。しろい歯で真っ赤な花をんでいる、あんな感じ。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
両手は左右にひろげていた。——肌はまぶしいほどしろく、水が冷たいためだろう、ぜんたいが薄桃色にあかるんでいた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きんは吃驚びっくりした眼をして、「駄目よ。こんな私をからかわないで下さい」と、眼尻めじりしわをわざとちぢめるようにして笑った。美しいしろい入れ歯が光る。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
明るくしろ初夏はつなつの日ざしが、茂り合ったみどり草の網をすかして、淡く美しく、庭のもに照り渡り、やわらかな光線は浅いひさしから部屋の中へも送って来ます。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
遠い山に歯のようなしろい縄のように雪がれかかり、前の山は暗い茜にそまって秋のままの姿だった。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しろい歯に交る一筋の金の耀かがやいてまた消えんとする間際まぎわまで、男は何の返事も出なかった。女の年は二十四である。小野さんは、自分と三つ違である事をうから知っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陽気にしろい歯並をキラメかせている同僚の女の子であるだろうのに、お濠のまわりの人目の多いところでは、殆どいつも男が男の仲間をとってやっているのも如何にも日本らしい。
カメラの焦点 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ふっくりしていて、幼くてしかも濡れ色に燃えている。それはやや頬の高い彼の青白い顔に配合して、病的に美しかった。彼の歯は結核性にしろく、硬いものをばりばり噛むのを好いた。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かんにうちふるしろ歯列はならびは、いつしか唇を噛み破って真赤な血に染み、軟かな頭髪は指先で激しぐかきむしられてよもぎのように乱れ、そのすさまじい形相は地獄にちた幽鬼のように見えた。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
しろい歯が覗いて、ほころびた顔の両鬢りょうびんには、柔らかそうな黒褐色の髪が渦巻いていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
宮殿は人の心であり、その王座にせる王は理性であり、窓はであり、真珠と紅玉とできらめく宮殿のとびらは、あかくちびるしろい歯とを持つ口であり、「こだま」はその口から出る美しい言葉であろうか。
彼女はしろい歯を見せて語りかけながら、彼の腕につかまった。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そのしろい歯で真紅まつかな花を咬んでゐる。
歯石しせきはづす 夜のしろさに
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
ただこの観世音の麗相を、やや細面にして、玉のしろきがごとく、そして御髪みぐしが黒く、やっぱり唇は一点の紅である。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
野性的のしろい齒並の美しさが、笑ふ度に、何とも云へない魅力を持つてゐたし、太い眉と眼はつまつてゐたけれども、眼は大きく情をたゝへてよく光つてゐた。
崩浪亭主人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
そう申されましたが、童子はしろい歯をあらわして弱々しく笑いました。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ずんぐりした医者らしくない体つきだつたが、柔和な細い眼と、しろい美しい歯並びが印象的だつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
見れば島田まげの娘の、紫地の雨合羽あまがっぱに、黒天鵝絨びろうどの襟を深く、拝んで俯向うつむいたえりしろさ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歯のしろい少年は、沈黙って侘し気に笑っていた。私たち三人は手をつなぎあって波止場の山下公園の方へ行ってみる。赤い吃水線きっすいせんの見える船が、沖にいくつも碇泊ていはくしていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
鼻の間せはしからず次第高しだいだかに、口小さく、歯並はならびあら/\としてしろく、耳長みあつて縁浅く、身を離れて根まで見透き、額はわざとならず自然の生えどまり、首筋立伸びて後れなしの後髪おくれがみ
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そういって、ひもでくくったかさとバナナの籠を土間に置いて、より江の頭をなぜてくれました。より江はおじさんが、如何いかにもうれしそうに声をたてて笑うしろい歯をみていました。
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
「暑い、暑い。」と腰紐こしひもを取る。「暑いんだもの。」とすらりと脱ぐ。そのしろさは、雪よりもひきしまって、玉のようであった。おきゃんで、りんとしているから、いささかもみだりがましい処がない。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓の外は、裾野の紫雲英げんげ高嶺たかねの雪、富士しろく、雨紫なり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)