ふご)” の例文
ビクビクしていた私の眼に、百姓の息子の四郎次と次郎とが二人でふごをかついで、上の畑のくろをこちらにやって来るのが眼についた。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
小さいふごにそれを入れて、川柳の細い枝を折取って跳出はねださぬように押え蔽った少年は、その手を小草おぐさでふきながら予の方を見て
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
このふごの中の白魚がよじれるような、小さい指の戯れを純一が見ていると、おちゃらもやはり目をぬすむようにして、ちょいちょい純一の方を見るのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
松明たいまつったる巡査とほか数名の勇者は、頼光らいこう四天王してんのう大江山おおえやまったような態度で、再び窟へ引返ひっかえした。巡査がふごに乗って降りた。の者も順々に降りた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さて十月の頃にいたり雪る日には鮏も多く獲易えやすきものゆゑ、一日あるひる雪をもいとは蓑笠みのかさをかため、朝よりたなにありてさけをとり、ふごにとりためたる時はふごにもなはをつけおけば
常吉はうしろからぽきぽきとそれをもぎ取ってふごへ入れる。一と畚溜ればうんと引っ抱えて、くろに放した馬の両腹の、網の袋へうつしこむ。馬は畠へ影を投げて笹の葉を喰っている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
其時そのときはこの時雨榎しぐれえのきえだ両股ふたまたになつてるところに、仰向あをむけ寝転ねころんでて、からすあしつかまへた、それからふごれてある、あのしめぢたけつた、沙魚はぜをぶちまけて、散々さんざ悪巫山戯わるふざけをした揚句あげく
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
警戒所でとった煖炉ペーチカの温度は、ドアから出て二分間も歩かないうちに、黒龍江の下流から吹き上げて来る嵐に奪われてしまった。防寒靴は雪の中へずりこみ、歩くたびにふごのようにがく/\動いた。
氷河 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
幕府砲臺はうだいを神奈川にきづき、外人の來り觀るを許さず、木戸公役徒えきとに雜り、自らふごになうて之を觀る。茶店の老嫗らうをうあり、公の常人に非ざるを知り、善く之を遇す。公志を得るに及んで、厚く之に報ゆ。
ふごに盛り山をかつぐといにしへは笑ひぞめきぬ神楽囃子に
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
朝顔の苗なだれ出しふごのふち
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
わきばさむふごの重きに
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
この場合、ふごをおろすよりほかに方法はなさそうであったが、その畚も近所には見当らないので、四人はいたずらに上から声をかけて彼に力を添えるにすぎなかった。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
花崗石みかげいし門柱もんばしらを並べて扉が左右に開いて居る、門の内の横手の格子こうしの前に、萌黄もえぎに塗った中に南と白で抜いたポンプがすわって、そのふち釣棹つりざおふごとがぶらりとかかって居る、まことにもの静かな
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年は川上へ堤上を辿たどって行った。暮色はようやせまった。肩にした竿、手にしたふご筒袖つつそで裾短すそみじかな頬冠り姿の小さな影は、長い土堤の小草の路のあなたに段〻と小さくなって行く踽〻然くくぜんたるその様。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うなると、巡査の身の上も益々不安である。権次ごんじという若者を乗せたふごただちにおろされた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
普請小屋ふしんごやと、花崗石みかげいし門柱もんばしらならべてとびら左右さいうひらいてる、もんうち横手よこて格子かうしまへに、萌黄もえぎつたなかみなみしろいたポンプがすわつて、そのふち釣棹つりざをふごとがぶらりとかゝつてる、まことにものしづかな
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
飛騨の山人やまびと打寄うちよって、この国特有のふごを作ることを案じ出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)