瓢箪へうたん)” の例文
田圃の中の流れの岸で、たつた一人で毒死して居るとすれば、その原因は、側に轉がつて居る、見事な瓢箪へうたんの中味の外はありません。
この「仙人」は琵琶湖びはこに近いO町の裁判官を勤めてゐた。彼の道楽は何よりも先に古い瓢箪へうたんを集めることだつた。
仙人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すぐまへの大きい鏡に、あまりにはつきり、じぶんの瓢箪へうたん顔がうつりましたので、はづかしくなりました。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そこには、瓢箪へうたんのやうに出張つて禿はげたおでこを持つた男と、厚司あつしを着た赤髯の男とが將棋をさしてゐた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
『困つて居たツて、余りだ、瓢箪へうたんの一つ位持つて来たツて誰も悪いツて言はない……何もおれだツて、そんなことをやかましく言ふぢやないけれどな……義理と言ふものがあらア』
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
たゞこしらつき貳尺四寸無名物むめいものふち赤銅しやくどうつるほりかしらつの目貫りよう純金むくつば瓢箪へうたんすかぼりさや黒塗くろぬりこじりぎん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かねがね坂田はよく「栓ぬき瓢箪へうたん」のやうな気持で指さんとあかんと言つてゐる。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
ト僕ガ言つてはヤツパリ広目屋臭ひろめやくさい、おい悪言あくげんていするこれは前駆ぜんくさ、齷齪あくせくするばかりが平民へいみんの能でもないから、今一段の風流ふうりう加味かみしたまへたゞ風流ふうりうとは墨斗やたて短冊たんざく瓢箪へうたんいひにあらず(十五日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
ぺたんこともゆがんだとも、おほきな下駄げた引摺ひきずつて、前屈まへかゞみに俯向うつむいた、瓢箪へうたん俯向うつむきに、出額おでこしりすぼけ、なさけらずことさらにいたやうなのが、ピイロロロピイと仰向あふむいていて、すぐ
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
軽い瓢箪へうたん
朝おき雀 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
伜の瓢箪へうたん野郎をお通夜にでもよこしやがれ、間拔因業爺いんごふぢゝい奴、相模屋の身上、逆樣に振つて持つて來たつて、勘辨なんかしてやるものか
瓢箪へうたんなりの池も澄んでゐれば、築山つきやまの松の枝もしだれてゐた。栖鶴軒せいかくけん洗心亭せんしんてい、——さう云ふ四阿あづまやも残つてゐた。池のきはまる裏山の崖には、白々しろじろと滝も落ち続けてゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
子供は車の上の袋から、からこと、こまかく刻んだわら飼葉桶かひばをけに入れた。それから、瓢箪へうたんを二つに割つて作つた器をもつて、道の下の綺麗きれいな小川から水をすくつて来て、餌にまぜた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
引出し振つて見て二人は吃驚びつくりヤアたツた一分の本尊樣ほんぞんさま淺草の觀音樣は一寸八分だたツた一とは情ないと何分不審ふしんはれやらず今朝見て置た此仕事どうした表裡へうり瓢箪へうたんぢやとあきれ果たるばかりなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「そいつは一段と面白からう、酒が殘つて居るから、瓢箪へうたんに詰めて、もう一度橋の上に引返さう、人波に揉まれ乍ら、欄干らんかんの酒盛なんざ洒落しやれて居るぜ」
三年ばかりたつたのち、この「仙人」はO町からH市へ転任することになつた。家具家財を運ぶのは勿論彼には何でもなかつた。が、彼是二百余りの瓢箪へうたんを運ぶことだけはどうすることも出来なかつた。
仙人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
手に取上とりあげ能々よく/\見ば鞘は黒塗くろぬりこじりぎんつばは丸く瓢箪へうたんすかしありかしらつのふち赤銅しやくどうにてつるの高彫目貫は龍の純金なりしかば直八は心に合點うなづきモシ/\道具屋さん此脇差わきざし何程いくらで御座りますハイそれは無名なれども關物せきものと見えます直價ねだんの所は一兩三分に致しませうとふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
第三番目に出たのは、背中へ櫻の一と枝に瓢箪へうたん、寛政天保以後のやうに手のこんだ文身ほりものではありませんが、これもその時分の人の眼には、相當立派にうつります。
「大變り、お篠の傳で、三尺で絞められてゐるんだ。今度は眞田紐ぢやねえが、水の中でふやけて居るから、瓢箪へうたんのやうにくゝれて居やがる。見られた圖ぢやあねエ」
「ところで、玄關の上にブラ下げた瓢箪へうたんはありア何んの禁呪まじなひです」