ちが)” の例文
気もちがいましょう、武蔵様は、わたしの心の中の人です。……その人が、なぶり殺しになるかと思えば、じっとしてはいられません。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『どうしてまあ兄弟喧嘩きやうだいげんくわを為るんだねえ。』と細君は怒つて、『左様さうお前達にはたで騒がれると、母さんは最早もう気がちがひさうに成る。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
又は赤児の襁褓おしめや下駄傘、台所の流しなぞを、気のちがつたやうな凄じい勢ひで、洗つたり干したりして、大声に話して居る罵つてゐる。
根津遊草 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
鉄也さんというのは今井の叔父さんのひとで、不幸にも四、五年前から気がちがって、乱暴は働かないが全くの廃人であった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ぞっとする程凄かったが、仕方がないから気がちがってなどと云立て、ず名主へも届けて野辺送りをする事になりました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ロミオ ちがはぬが、狂人きちがひよりもつら境界きゃうがい……牢獄らうごく鎖込とぢこめられ、しょくたれ、むちうたれ、苛責かしゃくせられ……(下人の近づいたのを見て)や、機嫌きげんよう。
「民子さん。僕今日は気がちがつてるかも知れません。許して下さい。どうぞ許して下さい。」
男ごゝろ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
コノ間ノ涙ハ気ガちがッタ證拠カト思ッタガ、今日ノコノ涙ハ何ノ證拠ダロウ。コノ間ノ涙ハ豫期シナイデモナカッタ涙ダガ、今日ノ涙ハ少シモ豫期シテイナカッタ涙デアル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「其の匕首はあの人の寶物たからもんや。肌身離さず持つてゐやはつたんやさかい、それを取り上げると氣もちがひまへう。……拔けんやうにして持たしとかはつたら、よろしいやろ。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
妾は気でもちがったのか知らと、お葉はつくづく自分の馬鹿馬鹿しさに愛想あいそつかした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……わたくしは目をつぶった、ほとんだ気がちがったのだとお察しを願いたい。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気がちがふので無いか知ら……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
奈何どう考へて見ても、其様な量見を起す和尚さんでは無いはずです。必定きつと、奈何かしたんです。まあ、気でもちがつて居るに相違ないんです。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うしても動かない馬を、足軽たちが槍の柄でなぐりつけると、馬は気がちがってしまったらしく、田の中へ飛びこんで、ひとりで暴れ廻った。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
福「旦那が腹ア切ったッてえ知らせが………妻恋坂下で旦那が腹ア切って居るって、気がちがったんでしょうか」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『そうよふところが寒くなると血がみんな頭へ上って、それで気がちがうんだろうよ』と言ったのは長屋の者らしい。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
アヽ己ハ実際気ガちがッタンジャナイカナ、コレガ気狂イト云ウモンジャナイカナ?
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長屋中の女房にようぼが長雨に着古したつぎはぎの汚れた襦袢や腰卷や、又は赤兒の襁褓おしめや下駄からかさ、臺所の流しなぞを、氣のちがつたやうなすさまじい勢で、洗つたり干したりして、大聲に話して居る
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ベンヺ ローミオー、貴下こなたちがうたのか?
室へ戻って見るとお房は一時気のちがった少女のようで、母親の鼻の穴へ指を突込み、顔をつかみ、急に泣き出したりなぞしていた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
な桃畑も黒く見える。負傷者の群れがそこにうめきあっていた。負傷した将兵は半分気がちがっているように
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お通は、丑之助が気でもちがったかと思った。丑之助の動作は、それほど、はやくて、向う見ずな仕方だった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあどうなすったんですか。ほんとに、吃驚びっくりしてしまいましたよ。そんなことを言っちゃ悪いけれども、岸本さんは気でもちがったんじゃないかとそう思いましたよ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
苦しい、気がちがいそうになる。これは、白河上皇か母にあったものにちがいない。上皇か母がおれに持たせたものだ。おれのすることは、おれだけの責任ではない。
気がちがつて独語ひとりごとを言ひ乍ら歩く女、酔つてうちを忘れたやうな男、そんな手合が時々二人に突当つた。敬之進は覚束おぼつかない足許あしもとで、やゝともすれば往来の真中へ倒れさうに成る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「気はちがっていない! 町人のなかにも男はいる、天にかわって、なんじらをこらしてやるのだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「母さん、母さん、母さん——母さんちゃん——ちゃん——ちゃん——ちゃん」宛然まるで、気がちがったような声だ……それは三吉の耳についてしまって、何処に居ても頭脳あたまへ響けるように聞えた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「気がちがッちゃいやですよッ、気をたしかにして下さいッ、気を……お父さーんッ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんだか俺は気でもちがいそうに成って来た。一寸磯部まで行って来る」
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「えい、この体にとッつくなッ、貴様がさわると、わしはよけいに気がちがいそうだ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何だか俺は気でもちがいそうに成って来た。一寸磯辺いそべまで行って来る」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「……気がちがったか、朱実、大勢の人中だぞ、青空の下だぞ、なにをいうのか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんだか、俺は——気でもちがいそうだ」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは足利殿のおもものとも見えない狂女のまなじりだった。世の姫君そだちの女性とは根本からちがっている。たとえば、走るにしても、気のちがッた白鷺しらさぎなぎさに何かを探し廻るような迅さであった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ちッ……お離しよ、この気ちがいめ! 何さ! 人聞きの悪い」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空も地も気をそろえて気がちがったような瞬間が起った。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(——おらは、気がちがったのかな?)
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)