此室ここ)” の例文
まず、女が情夫と二人で此室ここへ忍びこんだことは、疑う余地がありませんね。彼等は主人が眠っていると思ってそっと戸を開けました。
見開いた眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
この室はちょうどかの雪峰チーセを見るに都合がし、夜分はごく美しい月を見ることが出来ますから此室ここにお休みなさいという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
此室ここかろうという蔵海のことばのままその室の前に立っていると、蔵海は其処そこだけ雨戸をった。庭の樹〻きぎは皆雨に悩んでいた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それをあの時、お許には、どうして、後へ戻って、庭さきから、此室ここの縁側へと、お廻りになられたのか? ……それが伺いたいものじゃて
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主税は、夫人が此室ここを出て、大廻りに行った通りに、声も大廻りに遠い処に聞き取って、静にその跡を辿たどりつつ返事が遅いと
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渠は成るべく音のしない様に、入口の硝子戸を開けて、てて、下駄を脱いで、上框あがりがまちの障子をも開けて閉てた。此室ここは長火鉢の置いてある六畳間。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「イヤ、拙者らもここで、いただいてかまわぬとおおせらるる。お手数ながら、拙者らの膳も、此室ここへお運びねがおう」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
覚ましたら此室ここへ来てくれるようにって云っておくれ。誰にも知れないように、そっと云うのですよ。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
乃公おれは何だか嬉しかった。会が済んだ後で、奥さんが一寸ちょっとというから乃公はいてった。演説の御褒美を上げるから此室ここにお入りなさいと言って、にやにや笑っている。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「廊下の向うさ、この翼屋よくやで、向うとえば此室ここと廊下の向うと二部屋しか無いじゃないか」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつかお梅も此室ここに来て、驚いて手も出ないで、ぼんやり突ッ立ッていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
此室ここは客間と違い重要な書類があったが、しかし少しもそれ等の抽斗ひきだしには手を触れていない処から判断すると、怪しの女はジルベールの手紙をねらったほかには何等の目的もなかった事が知れる。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
女一 (禹徳淳へ低声に)ちょっと此室ここを貸して下さいね。
で、私は飛ぶように階段を降りて、庭を突切って、お届けに行ったんですが、その間に誰も此室ここから逃げ出せる筈がありません。
見開いた眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
此室ここも亦六畳間で、左の隅に据ゑた小さい机の上に、赤インキやら黒インキやらで散々楽書をした紙笠の、三分心の洋燈が、螢火ほどに点つて居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今ほど此室ここかけり来て、赫々かくかくたる洋燈ランプ周囲めぐりを、飛びめぐり、飛び狂い、火にあくがれていたりしが、ぱっと羽たたき火屋ほやの中へ逆さまに飛び入りつ
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
故十方斎先生は、此室ここ皆伝かいでんの秘密の口述くちずをしたもので、大廊下からわかれてこっちへ通ずる小廊下のゆかが、鶯張うぐいすばりになっている。むと音がするんです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いいえ、——もっとも今まで此室ここを留守にしていましたが、ちょっと帳場へ訊いてみましょう」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(柳麗玉へ)今夜は此室ここで我慢して下さいね。
此室ここですか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそのあわれむという感情も、此室ここへ入ればこんなものを見せられると予期したために、よほど薄らいで大方貴方と同じぐらいの程度になっています。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
まばゆい許りの戸外そとの明るさに慣れた眼には、人一人居ない此室ここの暗さは土窟つちあなにでも入つた様で、暫しは何物なにも見えず、グラ/\と眩暈めまひがしさうになつたので
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「サ、今にも源三郎さまが、お帰りになりましょう。あなたのおためです。早く此室ここをお出になってください」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
といいつつ四辺あたりを見廻すに、今しがた泰助の手より奪い返してお録に此室ここへ入れ置くよう、いいつけたりしお藤の姿、またもや消えて見えざりければ、啊呀あなやとばかり顔色がんしょく変じぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それにこの告白書だって他で書くよりも此室ここで書く方がいいんだ。何でも過去の事件は、それの起った場所へ行けばもっとも如実に思いだせるものなのだ。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
おや、あの人はどこへ行ったのでございましょう。此室ここにいると小僧さんがしらせてくれましたので、おどろかしてあげようと思ってこっそり来たのでございますがねえ
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
やどでもついこの間、窓を開けて寝られるから涼しくっていてって、此室ここふせりましてね、夜中に戸迷とまどいをして、それは貴下あなた、方々へ打附ぶつかりなんかして、飛んだ可笑おかしかったことがござんすの。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此室ここには、(と声を落して、目で壁隣りの室を指し乍ら、)君、S——新聞の主筆の従弟といふ奴が居るんだ。恁麽処で一時間も二時間も密談してると人にも怪まれるし、第一此方こつちも気がつまる。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
此室ここで三十分間休息して、その間によく考えて、子供をおいて行くかつれて帰るかをきめなさい」
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
跫音が廊下を走ってきて、やにわにふすまを引きあける者があるので、振りかえってみると、どうだ! 血達磨のような左膳が、かこみを切りやぶって此室ここまで来たのだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此室ここ貴方あなたと、離室はなれの茶室をお好みで、御隠居様御夫婦のお泊りがあるばかり、よい処で、よい折から——と言った癖に……客がぜんの上の猪口ちょくをちょっと控えて、それはお前さんたちさぞ疲れたろう
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『秋になつたら私が此室ここにゐる様にしようか知ら!』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さアそうなると、わたしの手紙が此室ここにあると剣難けんのんです。わたしの名誉だって危いわ。いいえ、貴方が何処へ隠したって駄目。結局嗅ぎ出されるにきまっていますからね。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ゆうべこの宿の風呂場で近づきになったというカムフラアジで、いま此室ここへ茶菓を運ばせて話しに来ている老人は、土佐の茶道と偽っている同志中の元老、小野寺十内だった。
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「きっと責任のある返答を、此室ここに居るみんなに聞かしてもらおう。」
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何處へでも可い。歩きながら話すんだ。此室ここには
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今に他のひとがわたしと入れ代って、此室ここへせっせと通って来るでしょう。そして、わたしの坐った席へそのひとが坐って、わたしがしたあらゆることをそのひとがするでしょう。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「私は、命を投げだして此室ここへまいったのです。こんなにあなたさまを思っておりますものを、すこしでもあわれと思召おぼしめすお心があったら、どうか、萩乃様、このおもいを——」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
きっと責任のある返答を、此室ここにゐるみんなに聞かしてもらはう。」
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『よろしい。此室ここへお通し申して呉れ。』
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あの騒ぎを起したのは、恰度このへやだ。人々はもうおれを此室ここには住まわせまいとしたけれど、おれはどこまでも頑張って帰って来たのだ。おれは幽霊なんか恐れはしない。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
此室ここだナ! うむ、お艶め、これへ逃げこんでひそんでおるに相違ない」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此室ここぞかの人形を置ける室なる。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此室ここにも誰も居ないが。』
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いつの間に首になったか? 誰が首にして此室ここへ持ち込んだか——?
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)