あずさ)” の例文
山小屋ヒュッテの入口から、アストラカン・クロスの上衣カーディガンに派手なマフラアを巻きつけた森川氏の末娘のあずささんがヒョックリと出てくる。
「取って頂くよ。」とおとなしく会釈する、これが神月と呼ばれた客で、名をあずさという同窓の文学士、いずれも歴々の人物である。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
森林の中で新醸にいしぼる玉の水が、上高地を作って、ここが渓流中、色の純美たぐいありともおぼえない、あずさ川の上流になっている。
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
これによりて従来乱用せられつつある国権を制し国帑こくど濫費らんぴを防ぐが故にこれを実行し、あずさ君は今日の会計検査官の地位を占めたのである。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
わしなんぞも今はまだ、腰にあずさも張らぬものの、やがてはあの庭先で、箒木ほうきを取っている下僕しもべのように、ヨボヨボしてしまわねばならぬのじゃ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そうして、森からは弓材になるまゆみつきあずさが切り出され、鹿矢ししやの骨片の矢の根は征矢そや雁股かりまたになった矢鏃やじりととり変えられた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それからずっと後は、この辺の御領主だった京極家きょうごくけに仕えましたが、いつの頃からか浪人して、あずさせきの近所に住み、郷士になってしまいました
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すがの荒野」を地名とすると、和名鈔わみょうしょうの筑摩郡苧賀ソガ郷で、あずさ川と楢井ならい川との間の曠野こうやだとする説(地名辞書)が有力だが、他にも説があって一定しない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
女は五十以上であるらしく、片手に小さい風呂敷包みとあずさの弓を持ち、片手に市女笠いちめがさを持っているのを見て、それが市子いちこであることを半七らはすぐに覚った。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信州のあずさ川は、岩魚の釣り場としてあまりにも有名である。それだけに四、五年前に比べると、魚の数は減った。奥飛騨の高原川の上流は笠ヶ岳近くで蒲田川となる。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
姉川は、琵琶湖の東北、近江の北境に在る金糞かねくそ岳に発したあずさ川が伊吹山の西に至って西に折れて流るる辺りを姉川と称する。なお西流して長浜の北で湖水へ入っている。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして吉川十兵衛、あずさ久也、田上安之助らのほか、二十余人の同志を集め、上方かみがたと連絡をとって、全藩の意見をまとめるために、手分けをして裏面工作をやっていたのです。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あずさ川の右岸に沿い、数丁登って河童橋かっぱばしを渡り、坦道たんどうを一里ばかり行くと、徳合とくごうの小屋、左に折れ川を越えて、少々下れば、穂高仙人、嘉門次の住居、ほうけん余、屋根・四壁等皆板張り
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
見えるものは、明神みょうじん岳の裾と、それに続くあずさ川の白い河床、白っぽい川柳の木立。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
あずさの神、うからやからの諸精霊、弓ととのつがいの親、一郎どのより三郎どの、人もかわれ、水もかわれ、かわらぬものは五尺の弓、一打うてば寺々の仏壇に響くめり、穴とうとしや
つづめて言えば、楸はわが国のあずさかきささげかという疑いである。牧野さんはいう。普通あかめがしわをあずさに当てているが、昔わが国で弓を作った木は、今でも秩父ちちぶであずさと称している。
見ると、ふみはさんだあずさの木を手にした文使ふづかいである。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
隈公かつあずさに語てえるあり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
あずさの弓のように立つにしても
これよりさき帝国大学に在学しておった高田、天野諸氏は、当時橋場はしばすまったあずさ君を休日に訪問し、我が国の時事を談論することを常としていた。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
槇子まきこ麻耶子まやこあずささんをはじめ五人のやんちゃなお嬢さんたち。秋作氏。久世くぜ氏。保羅ぽうるさんに礼奴れいぬさん。四人の科学者たち。それから、まだ続々。
つのゆみ——または李満弓りまんきゅうともいう半弓型のものである。けれどあずさに薄板金を貼り、漆巻うるしまきめてあるので、弓勢ゆんぜいの強いことは、強弓とよぶ物以上である。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しんの時、武都ぶとの故道に怒特どとくやしろというのがあって、その祠のほとりに大きいあずさの樹が立っていた。
先ず兵士つわものたちは周囲の森から野牛の群れを狩り集めることを命ぜられると、次に数千の投げ槍とたてと矢とを造るかたわら、弓材となるあずさまゆみ弓矯ゆみためけねばならなかった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
古女房の老巫女いちこに、しおしおと、青くなって次第を話して、……その筋へなのって出るのに、すぐにはりへ掛けたそうにふんどしをしめなおすと、あずさの弓を看板に掛けて家業にはしないで
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さとの常盤ときわ家には父母と兄や姉たちがいる。わたくしは常盤家の末娘として育って来たが、実の子ではなかった。本当の父は杉守あずさといい、萩原はぎわら宗固派の国学をまなんで、藩校の教官をしていた。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
我が国の立憲政治はあずさ君等の力、大いにあずかって今日あるに至ったのであるが、しかし我が憲政の現状は決して完全なりとはどうしても思われない。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
年ももう八十を越えた三河武士であったが、竹千代が岡崎逗留とうりゅう中の一夜あるよ、そっと、あずさの腰を運んで目通りを乞い、そして幼君へ向って沁々しみじみというには。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
レエヌさんと保羅ぽうるさん。……碧い池の水にあぶなく呑まれかかったあずささん。
あずさの弓を取り出す。)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)