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杞憂
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きゆう
ふりがな文庫
“
杞憂
(
きゆう
)” の例文
が、これも、考えてみれば
杞憂
(
きゆう
)
に過ぎない。片方が組与頭の戸部氏である。まさか一時の怒りに任せて、そんな
愚
(
ぐ
)
をするはずはない。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
そうしてそういう漠とした
杞憂
(
きゆう
)
のために、面倒な引越しや書物の置き換えなどをすることが、なんとなく
滑稽
(
こっけい
)
に思えたからである。
地異印象記
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
親分は廊下に立って待っているんだが、出発に際しての彼の心配は全然
杞憂
(
きゆう
)
に帰して、隊員は、しわぶきどころか
呼吸
(
いき
)
を凝らしている。
踊る地平線:06 ノウトルダムの妖怪
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
阿賀妻の
杞憂
(
きゆう
)
や大野順平らの復命が裏書きされた。そのとき彼は、有力な家臣以上の仕事は出来ないという自覚を持たされたのである。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
彼の
杞憂
(
きゆう
)
は、果たして単なる杞憂ではすまなかった。この十六、七日のあいだに、早くも憂うべき
破綻
(
はたん
)
の
兆
(
きざ
)
しが事実となってあらわれた。
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
▼ もっと見る
また古文の教育は大学その他の高等教育機関において特別に施しさえすれば決して反対論者の
杞憂
(
きゆう
)
のように廃絶するものでないと思います。
教育の民主主義化を要求す
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
そのような懸念はほとんど
杞憂
(
きゆう
)
でしょうし、他のものが編集名義人となっている時、万一そのような危険性のある場合でも
平野義太郎宛書簡:04 一九三二年四月三十日
(新字新仮名)
/
野呂栄太郎
(著)
鉄造船にたいする半世紀にわたる頑強な
杞憂
(
きゆう
)
を永遠に吹飛ばした、「自然にたいする闘争」のこの方面における決定的勝利のシンボルだった。
黒船前後
(新字新仮名)
/
服部之総
(著)
彼が自動車を買ったかと思うと、すぐ
様
(
さま
)
芙蓉が殺されたのでは、少々危険だと考えたのである。だが、これは寧ろ
杞憂
(
きゆう
)
であったかも知れない。
虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
よもやと考えていた我らの
杞憂
(
きゆう
)
はついに事実となって、わずかそれから十日の後船はいよいよ米国領海に近付かんとして、
布哇
(
ハワイ
)
出航二日の後
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
ところが、少し
杞憂
(
きゆう
)
かもしれないが、別のことも考えられる。それは現在の気温上昇が、人為的なことに起因するのではないかという点である。
白い月の世界
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
私が笠神博士と親しくしている事などを訊かれるとそれは私の
杞憂
(
きゆう
)
に過ぎないだろうけれども、何となく気味が悪いのだ。
血液型殺人事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
若しAとの友達関係に於て、Bが多少なりとも損害を被ると
杞憂
(
きゆう
)
せられんか、最早AとBとの「友達」はおしまいである。
青べか日記:――吾が生活 し・さ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
なれなれしすぎはすまいか、こんなことをしては自分の
沽券
(
こけん
)
にかかわりはせぬか、などといった
杞憂
(
きゆう
)
に阻まれてしまう。
外套
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
「いちずに思い詰める
性質
(
たち
)
だからねえ。……よくないことでも起こらなければよいが」鈴江の心配は
杞憂
(
きゆう
)
ではなかった。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
いささか
杞憂
(
きゆう
)
を抱くものなれば、もっぱら霊魂不滅の理を講究して、これを国民に伝え、もって精神上の砲台を建設せんことを望むものであります。
通俗講義 霊魂不滅論
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
さては
木振
(
きぶり
)
のよい石付の小松や、春蘭などが心ない登山者のために掘取られるのではないかと、
杞憂
(
きゆう
)
に
堪
(
た
)
えない。
雲仙岳
(新字新仮名)
/
菊池幽芳
(著)
察するに、世間で好く云う
病附
(
やみつき
)
ということがありはすまいかとお思なすったのだろう。それは
杞憂
(
きゆう
)
であった。
ヰタ・セクスアリス
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
この空間に於いては、空虚なる樹木は倒れはしまいかという
杞憂
(
きゆう
)
のために、空虚なる根を張っている。寺院も、宮殿も、馬も実在しているが、みな空虚である。
世界怪談名作集:14 ラザルス
(新字新仮名)
/
レオニード・ニコラーエヴィチ・アンドレーエフ
(著)
彼は今日の忠直卿の常軌を逸したとも思われる振舞いについて、微かながら
杞憂
(
きゆう
)
を懐く一人であった。
忠直卿行状記
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
今となればこうした思いも
杞憂
(
きゆう
)
にすぎなかったが、しかしこの思いを僕はいまなお捨てない。同じ思いで平和の日も貫きたいのである。幸いにして大和の古寺は残った。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
こういうこの世の地獄の出現は、歴史の教うるところから判断して決して単なる
杞憂
(
きゆう
)
ではない。
天災と国防
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
私は十円
紙幣
(
さつ
)
を
抛
(
ほう
)
り出して、沢山の風船を買った。小僧さんが包んでくれる間も、誰かが
邪魔
(
じゃま
)
にやって来ないかと、気が気じゃなかった。だがそれは
杞憂
(
きゆう
)
にすぎなかった。
柿色の紙風船
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
云うまでもなく、ディグスビイの
無稽
(
むけい
)
な妄想と僕の
杞憂
(
きゆう
)
とが、偶然一致したのかもしれません。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
が、忠義と云うものは現在
仕
(
つか
)
えている主人を
蔑
(
ないがしろ
)
にしてまでも、「家」のためを計るべきものであろうか。しかも、林右衛門の「家」を
憂
(
うれ
)
えるのは、
杞憂
(
きゆう
)
と云えば杞憂である。
忠義
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
竹藪
(
たけやぶ
)
の外にも、中にも、本尊が無いと心配した最初の
杞憂
(
きゆう
)
もどこへやら、新たにこの木柱に向って、信仰の象徴が掲げられるわけですから、その現わす文字の
如何
(
いかん
)
によって
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
必ずしも社会生活と順応することが出来ないだろうとの
杞憂
(
きゆう
)
は起りがちに見えるからである。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
杞憂
(
きゆう
)
ではあろうけれど、万一のためにどなたかひとりお差立てねがい、一家の生命の瀬戸ぎわをお護りくださるわけにはまいりますまいか、という鉄五郎からの早文で、それで
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
が、前者は家が乱れはせぬかといふ打算的
杞憂
(
きゆう
)
から、後者は、例の彼の
矜持
(
きょうじ
)
が、彼を逐々、何の間違ひもないうちに引きとめた。お作は、倉のみすぼらしい
米搗
(
こめつき
)
男の娘であつた。
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
そんなことはお前の
杞憂
(
きゆう
)
に過ぎない、いくら奥畑が不良青年的傾向があると云っても、そこはお上品な
坊々
(
ぼんぼん
)
育ちであるから、まさか無頼漢じみた
真似
(
まね
)
なんか出来ないであろうし
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
俺の身を思うてそんなに言うてくれるのは
嬉
(
うれし
)
いけど、お前のはそれは
杞憂
(
きゆう
)
と謂ふんじや。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
ところがそういうわたしの解釈は
杞憂
(
きゆう
)
にすぎなかったことがすぐにわかりました。
人魚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
八丁堀同心や半七らがうたがっていたような勤王や討幕などの陰謀はまるで跡方もないことで、一種の
杞憂
(
きゆう
)
に過ぎなかった。かれはやはり初めに云ったような、
偽公家
(
にせくげ
)
の
山師
(
やまし
)
であった。
半七捕物帳:26 女行者
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
天下再び乱れんとするの
杞憂
(
きゆう
)
となり、ついには朝廷御危しとの恐怖となり、世間はみずから想像してみずから
驚愕
(
きょうがく
)
せり、ただ生活に窮せる士族、病人に棄てられたる医者、信用なき商人
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
讃美者よりも、実は
贔屓
(
ひいき
)
の引き倒しの方に害がかえって多く、また今では利得主義の人々がなおもこの窯の外敵なのを覚えるのである。これは果して私の単なる
杞憂
(
きゆう
)
に過ぎないであろうか。
小鹿田窯への懸念
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
わしは、その気持を、いままで誰にも打ち明けず、自分ひとりの胸に畳んで、おのずから明朗に解決される日を待っていました。
杞憂
(
きゆう
)
であってくれたらいいと、ひそかに念じていたのです。
新ハムレット
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
既に装飾部員が仕事をしている以上、「三枚の扉」の
杞憂
(
きゆう
)
は抹殺していい。
扉は語らず:(又は二直線の延長に就て)
(新字新仮名)
/
小舟勝二
(著)
兄は、その頃、すでに、共産党のシンパサイザァだったらしいのですから、ぼくや母の
杞憂
(
きゆう
)
は、てんで茶化していたようでしたが、さすがに、一人の弟の
晴衣
(
はれぎ
)
とて心配してくれたとみえます。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
丈夫に暮してると、
後
(
あと
)
で病気になりはすまいかと考えて気をもんだ。そういうふうにして、生活は絶えざる
杞憂
(
きゆう
)
のうちに過ぎていった。けれども、そのためにだれも加減が悪くなる者はなかった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
これまたその
杞憂
(
きゆう
)
の一理由なり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
今思えば
杞憂
(
きゆう
)
に過ぎなかった。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
「お体を、おこわしにならないように——」と性善坊は、日夜の彼の精進に、口ぐせのようにいっていたが、それは
杞憂
(
きゆう
)
にすぎなかった。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
次に女子解放運動が、女子をして、その母性を失わしめると論じるのも理由のないことで、事実を離れた、一種の
杞憂
(
きゆう
)
です。
「女らしさ」とは何か
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
品川四郎が
嘗
(
か
)
つて、どんな大陰謀を企らんでいるかも知れぬと、恐れ
戦
(
おのの
)
いたのは、考えて見ると決して
杞憂
(
きゆう
)
ではなかった。
猟奇の果
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
青塚の郷での戦いにおいて、充分の働きの出来なかったのは、萩丸様のお身の上など、もしものことがあったら大変と、そういう
杞憂
(
きゆう
)
があったからである。
猫の蚤とり武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「これは私の
杞憂
(
きゆう
)
かもしれませんが、まあたぶん杞憂だろうと思うんですが、そういうことだとすると貴方がこのまま江戸へ帰られるのは、私としてはどうかと思いますね」
日日平安
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
しかしそれは事にあたれば何でもなく行なわれることであり、
杞憂
(
きゆう
)
であるかもしれぬ。
海野十三敗戦日記
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
一度肺炎をやったものは再び肺炎に罹り易いと云うことを聞いてもいましたし、おまけに彼女は病後の衰弱から十分
恢復
(
かいふく
)
しきらずにいた時ですから、僕のこの心配は
杞憂
(
きゆう
)
ではなかったのです。
途上
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
どうも、
配役
(
キャスト
)
の意味がさっぱり嚥み込めんのだよ——何故リュッツェン役を
筋書
(
プロット
)
にして、黒死館の虐殺史が起らねばならなかったのだろうか。それに、あるいは
杞憂
(
きゆう
)
にすぎんかもしれんがね。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
宿役人の
杞憂
(
きゆう
)
は、現実となった。春は
御殿山
(
ごてんやま
)
のさくら。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
“杞憂”の意味
《名詞》
杞憂(きゆう)
将来のことについて、する必要のない心配をすること。根拠のない心配。取り越し苦労。杞人憂天。
(出典:Wiktionary)
杞
漢検1級
部首:⽊
7画
憂
常用漢字
中学
部首:⼼
15画
“杞憂”で始まる語句
杞憂道人