接吻せつぷん)” の例文
しかし、突然夫に接吻せつぷんしたと思ふと、その次の瞬間には、夫の手を振りはらひながら露台のはしへ駆けてくが早いか、はるか下へ身を投げてしまつた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
濱萵苣はまさじ、すました女、おまへには道義のにほひがする、はかりにかけた接吻せつぷんの智慧もある、かしの箪笥に下着したぎが十二枚、をつ容子ようす濱萵苣はまさじ、しかも優しい濱萵苣はまさじ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
このときなみだはらはらといてた。地面ぢめんせ、気味きびわるくちびるではあるが、つちうへ接吻せつぷんして大声おほごゑさけんだ。
アンドレイ、エヒミチは體裁惡きまりわるおもひながら、聖像せいざう接吻せつぷんした。ミハイル、アウエリヤヌヰチはくちびる突出つきだして、あたまりながら、また小聲こゞゑ祈祷きたうしてなみだながしてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「まあ、今になればつて、むしろ悲しい方だつて。私の大事な小さいお孃さんはつめたいことを云ふわね。私が今接吻せつぷんして頂戴と云つたら、きつといやだと云ふわね、むしろいやだつて。」
何事なにごと天命てんめいです、しか吾等われらこの急難きふなんのぞんでも、わが日本につぽんほまれきづゝけなかつたのがせめてもの滿足まんぞくです。』とかたると、夫人ふじんかすかにうち點頭うなづき、俯伏ひれふして愛兒あいじくれないなるほう最後さいご接吻せつぷんあた
み込みし片唾かたづおとか、接吻せつぷんの熱きねがひか。
どんな接吻せつぷんも、どんな告別アデイユ此処ここにある。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
接吻せつぷん…………
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
櫻草さくらさう毛莨うまのあしがた鈴蘭すゞらんつゝしみの足りない接吻せつぷんよりも、おまへたちのはうが、わたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
縱令たとひしんじなくとも、祈祷きたうをすると、なんともはれんくらゐこゝろやすまる、きみ接吻せつぷん爲給したまへ。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さうさう、いつか見た古備前こびぜんの徳利の口もちよいと接吻せつぷん位したかつたつけ。鼻の先に染めつけの皿が一枚。藍色あゐいろの柳の枝垂しだれた下にやはり藍色の人が一人ひとり莫迦ばかに長い釣竿つりざをを伸ばしてゐる。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夕暮色ゆふぐれいろ薔薇ばらの花、うれひなかばんでゐる、あゝたそがれどききり夕暮色ゆふぐれいろ薔薇ばらの花、ぐつたりした手に接吻せつぷんしながら、おまへは戀死こひじにでもしさうだ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)