怨敵おんてき)” の例文
さかしげな百説、どれもこれも採るに足らぬ。吉良は無事に生きているのだ。ただ、亡君の怨敵おんてきたる彼のしるしを申しうければそれで足る)
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことごとく能く一切の怨敵おんてきを消滅せしむ。この縁を以て九億銭の償金代りに、この三物を出し、月支国王大いに喜んで納受したそうだ。
しかればすなわち、かつは神道の冥助めいじょにまかせ、かつは勅旨の旨趣しいしゅを守って、早く平氏の一類を亡ぼして、朝家ちょうけ怨敵おんてきを退けよ。
……しかし、そのT子の昔の情人は、二人とも二十年来の……否、宿命的の仇讐あだがたき同志であった。人情世界の怨敵おんてき、学界の怨敵同志であった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かにの握り飯を奪ったさるはとうとう蟹にかたきを取られた。蟹はうすはち、卵と共に、怨敵おんてきの猿を殺したのである。——その話はいまさらしないでもい。
猿蟹合戦 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蒲田が一切を引受けて見事にらち開けんといふに励されて、さては一生の怨敵おんてき退散のいはひと、おのおのそぞろすすむ膝をあつめて、長夜ちようやの宴を催さんとぞひしめいたる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これだけの動機で人の命を絶とうとする際に、生命の貴さに打たれて「にわか怨敵おんてきの思ひを忘れ、たちまち武意の気をなげうつ」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵おんてきたるオオソリテイ——国家というものに対抗するために政略的に行われた結婚であるとしていることである。
いかなるところへ逃げ隠れようとも、この怨敵おんてきを突き伏せずしては置かずという意気込みで、燈籠の屋根の上や、台石の横から無二無三に突き立てました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すわこそ怨敵おんてきござんなれと、意気込む市之丞、恐れる芳江、その両人を眼で抑えてオースチン師は膝を進めた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
江戸下り初舞台、初日の日に、早くも怨敵おんてきの一人を引き合せてれようとする運命に対して……
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
要らぬと言えば、黙然だんまりで、腰からさきへ、板廊下の暗い方へ、スーと消えたり……怨敵おんてき退散たいさん
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
将軍の命を狙う怨敵おんてきを平らげましたが、笹野新三郎に約束した御鷹野以前に曲者を挙げることが出来なかったのと、事件の性質が性質なので、表向きはその手柄に酬いられませんでした。
出陣間際に縁起でもないことをわざわざ報告に来たわけである。義元も敗けて居ずに「汝は我が怨敵おんてきである、どうして我に吉凶を告げよう」、人間でなくても虚言うそをつくかも知れないとやり込めた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
怨敵おんてき人間豹への憤怒ふんぬが、今さらのように彼の胸をかきむしった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当の怨敵おんてき黄文炳は、その夜、江州奉行所か蔡九さいきゅうの官邸かにいて、無為軍の家にはいず、ついに討ち洩らしていたのであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて魚住氏のいわゆる共通の怨敵おんてきが実際において存在しないことは明らかになった。むろんそれは、かの敵が敵たる性質をもっていないということでない。
兵衛はすでに平太郎へいたろう一人のかたきではなく、左近さこんの敵でもあれば、求馬もとめの敵でもあった。が、それよりも先にこの三年間、彼に幾多の艱難をめさせた彼自身の怨敵おんてきであった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ヘッ、いや怨敵おんてき退散。真面目な所へ吃逆はなさけない。そうじゃあございませんか、深川の家に居なすった時なんざ、団扇を持って、自分を煽いだ事だって滅多には無かったでしょう。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怨敵おんてき『鬼火のうば』などを相手に競争される場合には、老婆姿にもなられるのじゃ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わずか五年前をかえりみれば、執権しっけん高時は、後醍醐の怨敵おんてきだった。また義貞は、その北条九代の府を、一ちょうのまに、瓦礫がれきとなさしめた人だった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「万歳! 日本にっぽん万歳! 悪魔降伏。怨敵おんてき退散たいさん。第×聯隊万歳! 万歳! 万々歳!」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
衆を率いて御岳以来の怨敵おんてき、伊集院五郎現われた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
怨敵おんてき退散の貼御符はりごふうかと思ったが。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さらに、しばらくこらえて小太郎山こたろうざん味方みかたをすぐり、怨敵おんてき家康いえやすに一をむくいたのちに死ぬとも、けっして若君わかぎみのおともにおくれはいたしますまい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『こうしては居られぬぞ、吉良上野介のありかは何うしたか。——まだ合図の笛も鳴らぬ。それッ、目ざす怨敵おんてきへ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「兄上は尊氏が恐ろしいのですか。宮(大塔ノ宮)を殺した怨敵おんてき、みかどの逆臣、世をみだす乱賊。あの尊氏が」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法は、なるべく、単純がいい。そして法の要は、人のなげきがなくなることだ。天下よく治まり、怨敵おんてきも不安をなくし、みな嘆きのない人の世となることを
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怨敵おんてき梅雪が道なきしげみへげこんだと見るや、ヒラリと黒鹿毛くろかげを乗りすてて右手めてなる戒刀かいとうを引ッさげたまま
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このうえは、とりでにのこる兵をあげて、小勢こぜいながら裾野すそのへくだり、怨敵おんてき家康いえやす城地じょうちへ、さいごの一戦を」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日は大津から小浜街道へして見ようかどうしようかと、捜索の方向に迷っていたところを、フイと、眼先をかすっていったのが忘れもしない、怨敵おんてき鐘巻自斎の姿であるから
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怨敵おんてきござんなれ」と、鳴りをしずめたまま、兵船の近づくまで、一矢も放たなかった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、とう怨敵おんてき尊氏は海上だった。自然、義貞の注意はしじゅう海上へ引かれていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怨敵おんてき毛利家と戦いつづけ、父子二代三代にかけて、尼子の再興を念願し、こうして織田軍の西下を機に、信長公におすがりして、味方となって一功をも挙げて来た者なのに——今
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくら北条氏の怨敵おんてきとはいえ、きのうまでは、万乗の天子と、幕府も立てていたお方を
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目と鼻のさきに当の怨敵おんてきは、いとも軽装で逗留している。またなき機会だ、絶好な天運だとする——出来心にも似た野望と自身で意識しては、なおさら神のみ前に祈願はこめられまい。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
板敷山の呪壇じゅだんに、一七日いちしちにちのあいだ、護摩ごまき、呪念じゅねんをこらして、眼に描きだしていた怨敵おんてき親鸞は、さながら自分をのろう悪鬼とばかり見えていたが——今、眼のまえにある親鸞を仰げば
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この勝久とて、一度は出家しゅっけして、まったく世から葬られていたのを、そちのため、家名再興の志を立て、尠なくも今日まで、何十度の合戦に、怨敵おんてき毛利家をなやまし苦しめて来たことは事実だった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「討ってたも、怨敵おんてきを」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怨敵おんてき
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)