得手えて)” の例文
彼はそういう事を事こまかに大阪弁おおさかべんで話した。しかし僕は大阪弁を写生することが得手えてでないから、そのまま書くことが出来ない。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その神工鬼斧しんこうきふに驚嘆して歌をつくり、またはいにしえの浦島の子の伝説を懐古してあこがれたりするようなことは得手えてではありません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だれでも得手えてというものがあるから、それをのばせば、成功せいこうすると先生せんせいがいったので、ぼく、元気げんきて、うれしくなったよ。
空にわく金色の雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きいておこうぞ。いずれあの建札知って参ったからには、それぞれ得手えてがある筈、右の奴は何と申す名前の何が得手じゃ
これらの彫刻は掛かりの方から下絵が出ているので、そうむずかしく意匠することも入らず、得手えて々々に彫刻して雲形の透かしに配置したものです。
私がやつたやうに、あなたといふ人は、自分のことを話すのが得手えてではなくて、人の話を聞いてやる方だといふことが人には本能的にわかるのです。
得手えてとやら、お門出かどでは上々吉です。が、野分のあとを見てくると、東へ行くほど、荒れがひどいようですが」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いろいろと工夫くふうをして自分の得手えてに合うようなのを削り上げ、それには名前をつけておいたりする子どももある。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
得手えてでないところは早間はやまになるうれいがある。彼女の芸は鴈治郎がんじろうの芸と一脈共通のところがあるかと思われる。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
くだいてへば、夜逃よにげ得手えてでも、朝旅あさたび出來できない野郎やらうである。あけがた三時さんじきて、たきたての御飯ごはん掻込かつこんで、四時よじ東京驛とうきやうえきなどとはおもひもらない。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
は、は、は、とんだ幕が、一幕はさまってしまった。それじゃあ、又、あいましょうぜ。もう、風は、得手えてだ。潮は、一ぺえに充ちている——思い切って、帆を
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さればや僕少壮の頃吉原よしわら洲崎すさきに遊びても廓内かくない第一と噂に高き女を相方あいかたにして床の番する愚を学ばず、二、三枚下つたところを買つて気楽にあそぶを得手えてとなしけり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「お、危ねえ。俺は河童かつぱの眞似は得手えてぢやねえから、飛込まれたら最後見殺しにしなきアならねえ」
ともかく智恵伊豆は敵の得手えてを封じ策つきたのを見はからって軽く攻略し、味方の損害は甚しく少なかったが、それにもかかわらず、攻略に長い日数を要したと云って叱られ
安吾史譚:01 天草四郎 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
今も職掌により猴のはなしを聞いてもその日休業する者多し。予の知れる料理屋の小女夙慧なるが、小学読本をさらえるとては必ず得手えてかにという風に猴の字を得手と読み居る。
武芸にすぐれ、度胸満点の忠盛も、舞の方は余り得手えてではない。それにこの人は生れつきの眇目すがめである。眇目の踊りは、どうひいき目にみても、余り優美ではなかったろう。
「三人行けば必ず師あり」で、彼等が寄り合うと、その中にはきっと得手えてが出て来る。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
人のざんげを聞くことが得手えてじゃないのです。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ところが、拙者は投網の方はあんまり得手えてではございませんよ、その代り釣りと来たら、御隠居の前だが、おそらく当今では稀人まれびとの部でござんしょうな」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兵庫くずしの姿を目あてに、七番堂から馳け出した釘勘の跳足! かれの得手えてとする捕繩の風を切るより早く。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三味線ひくやつだって、忍びの得手えてがねえとはかぎらねえよ。夜忍びするは男と決まったもんじゃねえからな
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
父のガイヤーは絵画を稽古させたがデッサンと粉本ふんぽんとに囚えられるのは我慢が出来なかったらしく、音楽においても同じような課程の修業はワグナーの得手えてではなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一時剣術に凝つたり、砲術を習つたりした名残なごりで、どちらかといへば、さういふ時に槍など持つことを好んでゐた。父はさういふとき『得手えてまへ』といふ言葉をく使つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
あくまで素人らしく見せるが高等の得手えてなれば、女中の仕度して下へ行くまでは座敷の隅に小さくなつて顔も得上えあげず、話しかけても返事さへ気まりわるくて口の中といふ風なり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
差免さしゆるすとは相成ず然るを強て申立ること其方は町人の身故に公儀おかみの御定法を相わきまへぬ所なり得手えて勝手かつて而已のみ申立るなり如何樣汝が願ひに及べばとて天下の御定法には替難かへがたしと申さるゝを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
虹の目玉だ、やあ、八千年生延いきのびろ、と逆落さかおとしのひさしはづれ、鵯越ひよどりごえつたがよ、生命いのちがけの仕事と思へ。とびなら油揚あぶらげさらはうが、人間の手に持つたまゝを引手繰ひったぐる段は、お互に得手えてでない。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
甚だ得手えて勝手な申し分のようでは御座いますが、万一の場合を予想しまして、この種の犯罪の予防方法と、犯罪の検出探索方法とを、出来る限り周到に研究しておかねばならぬ……と考えましたので
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「まだ宵の口でございますから、あえて急ぐ必要もございますまい、関ヶ原までは僅か一里の道、それもこの良夜を、得手えてに帆を揚げたような下り坂でございますから」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小我な欲望は、とどきそうなことでも得手えてとどかないが、忠節からほとばしる真心なら、どんな至難と思われることでも貫けるものではある——ということをひしと感じた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
併し僕は大阪弁を写生することが得手えてでないから、そのまま書くことが出来ない。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
四十五六のさかんな年頃ですが、ひどい跛者びつこで蒼白くて、二本差としてモノの役に立ちさうもありませんが、雜俳ざつぱい席畫せきぐわ得手えてで、散らしを描いたり、配り物、刷り物の圖案をしたり、代作、代筆
 同じく人の悪口きくを好み、人のアラ探り出すが得手えてなる者。
あいつは青いかおをして書物と首っ引きをしていたのだから、相当に理窟は言えるようになったろうけれど、それよりもあいつの得手えては上役に取入ることだ、老中ろうじゅうあたりに縁があって
乱暴な口ならいくらもたたくが、主君に忠諫ちゅうかんなどは、得手えてでない限りである。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
得手えてに帆揚げる四藩の奸物かんぶつ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)