後々のちのち)” の例文
けれど、いやな思いもしたし、かなり迷惑もした。人をもって警察の力も借りて、後々のちのちそういうことのないようにしてもらいはしたが——
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かつて一度は同じ連衆に参加した者の間にすら、後々のちのちは異説を生じ、越人えつじん支考しこう許六きょりく惟然いぜんなどは互いにののしりまた争っていたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
歌舞伎座稽古は後々のちのちまで三階運動場を使用するが例なり。稽古にかかる前破笠子より葉書にて作者部屋のものを呼集め手分てわけなして書抜かきぬきをかく。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この時の事は後々のちのちまで渋江の家の一つ話になっていたが、五百は人のその功を称するごとに、じて席をのがれたそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私の様な不運の母の手で育つより継母御なり御手かけなり気にかなふた人に育てて貰ふたら、少しは父御ててご可愛かわゆがつて後々のちのちあの子の為にも成ませう
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その人物は、後々のちのちまで、この物語に重大な関係を持っているので、ここにやや詳しくその風丰ふうぼうしるしておく必要がある。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
通させたんじゃ後々のちのちの為にならないから、帰って来なければ縁談のことは一切構いつけないとお父さんは仰有っています。ういうもんだろうね?
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「まだ一ノ宮の城も、岩倉城も守りささえている間こそ、降伏するにも、有利ですし、後々のちのちの大きなおためと存じまする。何とぞ、ここは御賢慮ごけんりょあって……」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
但し、斯うして次から次へと故知らずみ出されて來る言葉共を後々のちのち迄も傳へるべき文字といふ道具があつてもいい筈だといふことに、彼は未だ思ひ到らない。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
わしも感ちがいをして眼の色を変えたが、後々のちのちに、ありようが知れたよ。お娘たちは、ああいう窮屈な世界にいて、半年も前から江戸の土産を待ちこがれている。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
後々のちのちのことを思えば、それも分別あるしかたと申すもの、近松どの、貴殿はいかがなされた?」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「御父さまが後々のちのちのためにちゃんと一纏ひとまとめにして取って御置おおきになったんですって」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人の害にもならず自分の損にもならず後々のちのちまでも円満にこの事が成就じょうじゅする訳ですけれども、チベット人は誠の事をわざわざげて言いもし信じもするへいがありますので誠に困った国民です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「うむ——追ってはそういうときもくるに違いない、まあ後々のちのちをみておれ」
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
それで最早もうこんな家にはおられないからと早速さっそくまた転居をしようと思ったが、彼の職務上もあるし、一つは後々のちのちの人のめにもと思ったので、近所の人達を集めて僧侶をへいし、この老婆のため
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
(やあおとっさん——彼処あすこおっかさんと、よその姉さんが。……)——後々のちのち私は、何故、あの時、その船へ飛込とびこまなかったろうと思う事が度々たびたびあります。世をはかなむ時、病にくるしんだ時、恋に離れた時です。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新仏しんぼとけの○○村の豪家ごうか○○氏の娘の霊である、何かゆえのあって、今宵こよい娘の霊が来たのであろうから、お前だち後々のちのちめにひそかにこれを見ておけと告げて、彼等徒弟は、そっと一室ひとまに隠れさしておき
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
山の神も女神でまた山全体の刀自と認められていたために、後々のちのち杓子を献ずることになったのかも知れないのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
枳園の妻は後々のちのちまでも、衣服を欲するごとに五百に請うので、おかつさんはわたしの支度を無尽蔵だと思っているらしいといって、五百が歎息したことがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこで馬春堂は、このこま家の一室にほうり込まれた当時から、退屈まぎれの後々のちのちのよすがにもと、半紙を四つ折にじて書きためた自分の日記をくりひろげて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただし、こうして次から次へと故知らず生み出されて来る言葉共を後々のちのちまでも伝えるべき文字という道具があってもいいはずだということに、彼はいまだ思いいたらない。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これは後々のちのちにも関係のあることだから、読者の記憶の一ぐうとどめて置いてもらわねばならぬのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
死刑される当の人は、中納言藤原泰文やすぶみの妻の公子きんこと泰文の末娘の花世はなよ姫で、公子のほうは三十五、花世のほうは十六、どちらも後々のちのちの語草になるような美しい女性だったので
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は忘れる事のできない印象の一つとして、それを後々のちのちまで自分の心に伝えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
会費と、後々のちのち影向料えこうりょうとがあつめられたりした。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
後々のちのちその嫁引移りの際に大祝宴を開かぬ婚姻は、さも不合法のもののように考えられることになったのであって、仮にもし必ずそういうものだったら
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「わしが側について会うのじゃ。会うて、きっぱりしておいた方が、そなたの後々のちのちのためにもよかろうが」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老婆との問答の、後々のちのちに関係のある重要な点は、以上に尽きていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ともかくも日本本土ではただ幼い者が、遊戯としてしか採り用いなくなったものが、彼方かなたではずっと後々のちのちまで、実地に使われていたというのは意味がある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もって、日本の正しいすがたを、昭々しょうしょうと千古にのこし伝え、後々のちのち億兆おくちょうの臣民が、世々よよの文化の推移にも、国系国体の大本たいほんに惑ったり見失ったりすることのないような、史林しりんの源泉をつくっておく。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうした俗眼には何の価値もない植物類が、無限に水の都では珍重せられていたという話のみは、借りものでもなくまた後々のちのちの附け加えでもなく、つとにこの方面の島人たちの観念に
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただし日本の幣帛が、後々のちのち神事に限られるようになったのは、かかる用法が先に立った故に、他にはその名をはばかり避けたと見られる以上に、今一つ特殊の事情が有ったと考えられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)