干瓢かんぴょう)” の例文
烏賊いか椎茸しいたけ牛蒡ごぼう、凍り豆腐ぐらいを煮〆にしめにしておひらに盛るぐらいのもの。別に山独活やまうどのぬた。それに山家らしい干瓢かんぴょう味噌汁みそしる
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
羽咋はくい川をもって海と通う千路潟せんじのがた、福野干瓢かんぴょうの産地たる福野潟のごとき、いずれも西南の寄砂のために澗の口がだんだんにつぶれた例である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
苦沙弥先生の如きに至ってはただ干瓢かんぴょう酢味噌すみそを知るのみ。干瓢の酢味噌をくらって天下の士たるものは、われいまこれを見ず。……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大原「小山君、味のい物はなお登和さんの料理だ。少々不出来なものは奥さんの手になったのだし、干瓢かんぴょう焦臭こげくさいのは僕が手伝ったのだ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
干瓢かんぴょうのように懸け並べた無数の白いぬの、花色の布、あかい模様のある布などが、裏町の裏から秋の空に、高々と揺れていた。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
数秒の後、気がついて見ると、私の前に、老婦人いや、老婦人の死体が、干瓢かんぴょうのように見苦しく横たわってりました。
血友病 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
汽車の窓に青田のながめ心ゆくさまなり。利根の鉄橋を越えて行くに夏蕎麦そばをつくる畑干瓢かんぴょうをつくる畑などあれば
滝見の旅 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
水天髣髴すいてんほうふつの間に毛筋ほどの長堤を横たえ、その上に、家五六軒だけしか対岸に見せない利根川の佐原の宿、干瓢かんぴょうを干すそのさらした色と、その晒した匂いとが
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小豆を買い、お頭附きを買い、その他、椎茸しいたけ干瓢かんぴょうの類を買い込んで行ったことは間違いなくわかりましたけれども、どこの何者かどうしても分らないのです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
干瓢かんぴょうと釣り天井で有名な宇都宮の町もうち過ぎ、あれからかけて、徳次郎、中徳次郎、大沢、今市……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さて、それからご飯の時じゃ、ぜんには山家やまがこうの物、生姜はじかみけたのと、わかめをでたの、塩漬の名も知らぬきのこ味噌汁みそしる、いやなかなか人参にんじん干瓢かんぴょうどころではござらぬ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茎のひょろ長い白い干瓢かんぴょうの花がゆれている。私はこの花が好きだ。眼はいつもここで停ると心は休まる。敗戦の憂きめをじっと、このか細い花茎だけが支えてくれているようだ。
(略)さて当日の模様をざっと書いて見ると、酒の良いのを二升、そら豆の塩茹しおゆで胡瓜きゅうり香物こうのものを酒のさかなに、干瓢かんぴょうの代りに山葵わさびを入れた海苔巻のりまきを出した。菓子折を注文して、それを長屋の軒別に配った。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お豆腐の餡掛あんかけ、薩摩芋の梅干韲うめぼしあえ、同じくセン、同じくフライ、同じくマッシ、自分が少し焦付こげつかせたる干瓢かんぴょうなんどいずれも美味ならざるはなし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私があれに干瓢かんぴょうかして見たことが有りましたわい。あれも剥きたいと言いますで。青い夕顔に、真魚板まないたに、庖丁と、こうあれに渡したと思わっせれ。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
干瓢かんぴょう酢味噌すみそが天下の士であろうと、朝鮮の仁参にんじんを食って革命を起そうと随意な意味は随処にき出る訳である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藤吉郎は、毎日、商人あきんどが納品する鰹節かつおぶしむしくいを調べたり、椎茸しいたけ干瓢かんぴょうの記入などを、黙々とやっていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちゃんと世間並みの鳥目ちょうもくを払って、小豆と、お頭附きと、椎茸しいたけ干瓢かんぴょうの類を買って行かれた清らかなあまじゃげな——払ったお鳥目も、あとで木の葉にもなんにもなりゃせなんだがな
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
せに痩せた干瓢かんぴょう、ひょろりとある、脊丈のまた高いのが、かの墨染の法衣ころももすそを長く、しょびしょびとうしろにいて、前かがみの、すぼけた肩、長頭巾もっそうを重げに、まるで影法師のように
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お仙は母に言付けられた総菜そうざいの仕度をしようとして、台所の板の間に俎板まないたを控えて、夕顔の皮をいた。干瓢かんぴょうに造ってもい程の青い大きなのが最早もう裏の畠には沢山っていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうして油揚あぶらげの胴を干瓢かんぴょういわえた稲荷鮨いなりずし恰好かっこうに似たものを、上から下へ落した。彼は勾欄てすりにつらまって何度も下をのぞいて見た。しかし誰もそれを取ってくれるものはなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこに今朝魚屋が章魚たこを持って来ましたから買っておきました。乾物かんぶつでは干瓢かんぴょう椎茸しいたけもあります。お豆腐は直ぐ近所で買えますし、そんなもののうちで何かとつお料理を教えて下さいませんか。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
早く干瓢かんぴょうにでもなりますれば、……とそればかりを待っております。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おれの大きなが、貴様も喧嘩をするつもりかと云う権幕で、野だの干瓢かんぴょうづらを射貫いぬいた時に、野だは突然とつぜん真面目な顔をして、大いにつつしんだ。少しわかったと見える。そのうち喇叭が鳴る。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(やあ、人参にんじん干瓢かんぴょうばかりだ。)と粗忽そそッかしく絶叫ぜっきょうした。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
干瓢かんぴょう煮方にかた 春 第二十三 お豆腐
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)