嵩張かさば)” の例文
お葉の差出した縫つぶしの、洒落しやれた紙入。小型ではあるが、少し嵩張かさばつた感じのを受取つて、平次は銀の小ハゼをはづしました。
そしてそのひまに近所で昼食をしたためて来てから、自分も若夫婦に手を貸して、ほこりうずたか嵩張かさばった荷物を明るい縁先へ運び出した。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
店のかみさんに、土産を買えと勧められて、何か嵩張かさばらないものをと、楊枝入ようじいれやら、煙草箱やらを、二つ三つり分けていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「まあ、出しなさい。なるほど嵩張かさばる割に軽いもんだね。見っともないと云うのは小野さんの事だ」と宗近君は屑籠をりながら歩き出す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玄関をかこうように網代の袖垣がある、その垣の下に厚い布子絆纒ぬのこはんてんでくるんだ赤児とかなり嵩張かさばった包みとが置かれてあった。……はま女は
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
勘定は大分嵩張かさばっていた。なぜと云うに、宿料、朝食代、給仕の賃銀なんぞの外に、いろいろな筆数が附いている。
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
それはしきたりを無視した現れかもしれないが、みていて自然ではなく、男の方だけが嵩張かさばっている感じだった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
人間豹が魔術師のようなゼスチュアで箱の中から引きずり出したものは、ひどく嵩張かさばった黒くてグニャグニャした、何かしらゾッとするようなものであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母は押入の隅に嵩張かさばっている三尺ほども高さのある地球儀の箱を指差した。——私は、ちょっと胸を突かれた思いがして、かろうじて苦笑いをこらえた。そうして
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
たとへ費用が嵩張かさばつても、すぐれた醫師を招かなければ村の惡疾の消滅する望みがないやうに思はれた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
彼は自分でも、自分が今、しかかる素振りに驚きつつ、彼は権威者のように「出せと云ったら、出さないか」と体を嵩張かさばらせて、のそのそとみち子に向って行った。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「すると十一時三十五分前後ですね。動物の食うものというと、随分嵩張かさばったものでしょうね」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その葛籠つづらや荷物がおそろしく嵩張かさばっている上に、この騒ぎの中だというのに、ある者は金糸銀糸の衣裳を着、ある者は毛脛けずね白粉おしろいをなすりつけており、気をつけて見ると
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
簡單かんたん普請ふしんには大工だいくすこのみ使つかつただけその近所きんじよ人々ひと/″\手傳てつだつたので仕事しごとたゞにちをはつた。なが嵩張かさばつた粟幹あはがら手薄てうすいた屋根やねれも職人しよくにんらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
見ると、何か嵩張かさばる箱のようなものを背負しょって、額に汗をいて大分疲労くたびれたていである。
こんないつ売れるともわからぬ嵩張かさばった物なぞはいてしまいたかったのでございましょうが、今こちらが落ち目になりかかっているところだけに、万戸屋からこれを言われたのでは
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
実際軽いけれどこんな嵩張かさばるものとは思いがけなかった。巧く一杯食わされたよ
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「何だ、焼物だつて。嵩張かさばらないとこを見ると、一輪挿りんざしの瀬戸物かな。」
テーブルの上に置かれた、物々しい紙挾みと嵩張かさばった白い大きな角封筒を、珍らしい生物でも眺めるような眼つきで、眼の隅からジロジロと見物していたが、そのうちに、なんともいえない重苦しい不安と
嵩張かさばつた紙包がバタリと疊の上に落ちた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そういう物が、少し嵩張かさばると、父は
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
嵩張かさばった手土産がありました。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何か嵩張かさばった重そうな包みを寝台の下からずるずる引きずり出しながら、出て行く弘のうしろかげへ眼をやって高夏は云った。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今度はさして大幅でなかつたためか、ぢくから切り離すやうなことはしませんが、嵩張かさばつた桐の二重箱は持つて行きません。
荷物其他嵩張かさばり候ものは皆当地にて売払い、なるべく手軽に引き移るつもりに御座候。唯小夜所持のこと一面は本人の希望により、東京迄持ち運び候事に相成候。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
全身、蒼黒あおぐろくなりその上、やせさらばう骨のくぼみの皮膚にはうす紫のくままで、漂い出した中年過ぎの男は嵩張かさばったうしろくびこぶに背をくぐめられ侏儒しゅじゅにして餓鬼のようである。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「鳥羽は真珠の名産地だよ。嵩張かさばらない物だから何程いくらでも買って行き給え」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「随分嵩張かさばるだらうからな。」
買う金もなし第一あんな嵩張かさばるものを担ぎ込む訳に行かないので三味線から始めたのであるが調子を合わせることは最初から出来たというそれは音を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「小判といふと、千兩箱の事ばかり考へて嵩張かさばるものと思つたからいけなかつたんだ。サア、行かう、八」
そのうちで一番重くて嵩張かさばった大きな洋書を取り出した時、彼はお延に云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手土産の果物籠が嵩張かさばるから円タクで行った。近間へ差しかゝった時、以前その辺を悄然しょうぜんとして通ったことを思い出した。門前で下りて玄関へ進むと、先生が一人の男を送り出すところだった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
僕ハ妻ガ、嵩張かさばラナイデ音ノシナイアノ紙ヲ何ノ用途ニ使ッテイルカヲ直チニ想像スルヿガデキタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
懷中ふところはあまり豐かでないが、新鳥越の知合を訪ねて、觀音樣へお詣りして、雷門前で輕く一杯呑んで、おこしか何んか、安くて嵩張かさばるお土産を買つて、明神下の錢形の親分のところへ辿たどり着くと
とお父さんに何だか妙に嵩張かさばった新聞包を渡した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そこに収めてあった筈の武具やその他の嵩張かさばった荷物が戦争のためにことごとく取り出されてしまったらしく、土間の大部分ががらんどうになっていて、一方の隅に急拵きゅうごしらえで拵えたかまどが築いてある。
妻戸つまどと壁とで仕切られたその部屋の中は、大輪の花のような嵩張かさばった衣裳を着けている上﨟の体をれるために十分なゆとりが取ってあって、茶の間程の面積に一杯に畳が敷き詰めてあるので
両側からすくい上げるようにして辛うじてその嵩張かさばるものを車へ入れた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)