山内さんない)” の例文
葉子は岡を見るともう一つのたくらみを心の中で案じ出していた。岡をできるだけたびたび山内さんないの家のほうに遊びに行かせてやろう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
女装の三谷が、山下やましたで自動車を降りて、山内さんないを通り抜け、図書館裏の暗闇にたどりついたのは、丁度約束の十二時少し前であった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところがそれからだいぶ経って、私が例の達人たつじんといっしょに、芝の山内さんない勧工場かんこうばへ行ったら、そこでまたぱったり御作に出会った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
公使アールコツクが日本国民の霊場として尊拝そんぱいする芝の山内さんないに騎馬にて乗込のりこみたるが如き言語ごんごに絶えたる無礼なりと痛論したるふしもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
秀造さんは上野の(山内さんない寺院おてら)のおちごさんで美貌びぼうで評判だったそうだ。振袖姿で吉原へ通って、吉原雀というあだ名だった。
折から相手の弦之丞は、都合よく人通りのある道を避けて、芝の山内さんないへ歩いてゆく様子——、増上寺の山内は、もうドップリと暮れていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
谷中やなかの方にチト急な用があって、この朝がけ、出尻をにょこにょこうごかしながら、上野山内さんないの五重の塔の下までやってくると、どこからともなく
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
というようなことで、貧乏の苦しまぎれに、見すぼらしい杉苗を、あの街道筋と山内さんない一帯に植えて、献納したのだった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すると山内さんないの方から、二人曳ににんびきで威勢よくけて来た車が、いずれ注意をしたものだろうが、私はそれが耳にも入らず中央まんなかに、ぽつりと立っていたので
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
神田へ出て、日本橋を通って、丸の内へ入って、芝へ出て、愛宕下あたごしたの通りをまだ真直ぐにどこまでともなく飛ばせる。ついに駕籠は芝の山内さんないへ入る。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浄光寺じょうこうじと申す山内さんない末院まついん所化しょけにて、これも愚僧などゝ同様、折々悪所場あくしょば出入でいり致し候得念とくねんと申す坊主にて有之候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
折しも湯島台から、近道を、上野山内さんないへと急ぐ人と見えて、大なし絆纒はんてん奴姿やっこすがたしもべを供につれた若衆わかしゅひとりと、そで擦り合わんばかりに行き違ったのであります。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
道元禅師はその『正法眼蔵しょうぼうげんぞう』に強くこういった。「道心ありて名利をなげすてん人いるべし」と。つまり名利に仕える如き人間は山内さんないには入れぬというのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この黒塀のそば小溝こみぞに添うて、とぼとぼと赤羽橋の方へやって来た、眼の前には芝山内さんないの森が高く黒い影を現しておる、うしろの方から吹いて来る汐風しおかぜやつくので
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
吾妻橋あずまばしを渡って田原町たわらまちから東本願寺へ突当つきあたって右に曲り、それから裏手へまいり、反圃たんぼ海禅寺かいぜんじの前を通りまして山崎町やまざきちょうへ出まして、上野の山内さんないを抜け、谷中門へ出て
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ここまで来れば興福寺の宿坊はつい鼻の先だが、応仁の乱れに近ごろの山内さんないは、まるで京を縮めて移して来たような有様で、連歌師風情ふぜいにはゆるゆる腰をのばす片隅もない。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
上野の山内さんない清水きよみずの観音堂。鶯谷うぐいすだにという順に、その到る処、花が咲いていたように思います。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そいつは元は上野の山内さんないの坊主で、歌女寿よりも年下なんですけれども、女に巧くまるめ込まれて、とうとう寺を開いてしまって、十年ほど前から甲州の方へ行って還俗げんぞくしていたんですが
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中村楼の雨傘を借りて、それを片手にさしながら、片手には例の折詰をげて、少し、ほろ酔い加減に、い気持で、ぶらぶらと、智恩院ちおんいん山内さんないを通って、あれから、粟田あわだにかかろうとする
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
紀州家の二人をまくために、芝の山内さんないのほうまで遠まわりをした。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
岡は言葉すくなながら、ちかちかとまぶしい印象を目に残して、降り下り降りあおる雪の向こうに隠見する山内さんない木立こだちの姿を嘆賞した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「江戸から、当山内さんないの作阿弥という者をたずねてまいった者です。どうぞ、作阿弥にお会わせくださいますよう……」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
芝の山内さんないの松原で、あなたから、こんな目に逢わされてしまいました、この乳の下のがずいぶん深うございますよ、地獄へ来て、かかりのお医者様も驚きました
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここまで来れば興福寺の宿坊はつい鼻の先だが、応仁の乱れに近ごろの山内さんないは、まるで京を縮めて移して来たやうな有様で、連歌師風情ふぜいにはゆるゆる腰をのばす片隅もない。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
彼女と私とはそこに並んでいた陳列品について二言三言口をき合ったのが縁となって、それから博物館を一巡して、そこを出て上野の山内さんない山下やましたへ通り抜けるまでの長い間
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人目がうるさいと考えたか、二人は、露八をらっして、増上寺の山内さんないへ引っ立てた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
麻布あざぶ古川ふるかは芝山内しばさんないの裏手近く其の名も赤羽川あかばねがはと名付けられるやうになると、山内さんないの樹木と五重塔ごぢゆうのたうそびゆるふもとめぐつて舟揖しうしふの便を与ふるのみか、紅葉こうえふの頃は四条派しでうはの絵にあるやうな景色を見せる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「しかし、良源院は芝の山内さんないで、愛宕下あたごしたのお屋敷からはひとまたぎだし、此処からもさして遠くはない、母や私は、これからもできる限りお二人のちからになろう、どうかそう思って、向うへいっても心丈夫に辛抱して下さい」
今度は山内さんないの家のありさまがさながらまざまざと目に見るように想像された。岡が夜ふけにそこを訪れた時には倉地が確かにいたに違いない。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
だが、よくのふかい呂宋兵衛は、もう南蛮寺を拝領はいりょうしたようなつもりで、すっかりここに根をやし、またボツボツと浪人者ろうにんもの山内さんないへあつめて、あわよくば、一こくじょうあるじをゆめみている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよりも、二人が気になってならない聞きこみというのは、護摩堂の壁とやらへ人柱を塗りこめることになって、もう、その母娘おやこ犠牲いけにえが、どこかの山内さんないの秘密の場所に、養われているという。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)