尾鰭をひれ)” の例文
うむを見て男魚をなおのれ白䱊しらこ弾着ひりつけすぐ女魚めな男魚をなほりのけたる沙石しやせきを左右より尾鰭をひれにてすくひかけてうづむ。一つぶながさるゝ事をせず。
尾鰭をひれを付けて人は物を言ふのが常、まして種牛の為に傷けられたといふ事実は、些少すくなからず好奇ものずきな手合の心を驚かして、いたる処に茶話の種となる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
實はかう/\と尾鰭をひれを附けて報告すると、同役笹野新三郎の若さと人氣を苦々しがつてゐる堀江又五郎は
半纏着はんてんぎは、みづあさいしおこして、山笹やまざさをひつたりはさんで、細流さいりう岩魚いはなあづけた。溌剌はつらつふのはこれであらう。みづ尾鰭をひれおよがせていははしる。そのまゝ、すぼりと裸體はだかつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
実は当時のゴシツプ好きの連中が尾鰭をひれをつけていろいろ面白さうに喧伝けんでんしたのが因であつて、本人はむしろ無口な、非社交的な非論理的な、一途いちずな性格で押し通してゐたらしかつた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
父母が梅子に対する悪感情を、ほこりがに伝達しつ、又た姉の悲哀の容態をば尾鰭をひれを付けて父母に披露す、芳子は流石さすがにお加女かめ夫人の愛児なり、梅子の苦悶くもんを見て自ら喜び、姉を讒訴ざんそして
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
千べん万べん命のかぎり玻璃鉢の金魚はあはれ尾鰭をひれうごかす
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
産終うみをはるまでの困苦こんくのために尾鰭をひれそこなやせつかれ、ながれにしたがひてくだり深淵ふかきふちある所にいたればこゝにしづつかれやしなひ、もとのごとく肥太こえふとりてふたゝながれさかのぼる。
萬兩分限ぶげんの地主の子に生れた駒次郎は、この春伊丹屋の主人になつて、もつともらしい尾鰭をひれを加へたにしても、平次の眼にはまだ道樂者の若旦那でしかなかつたのです。
そのあし恰好かくかうわるさといつたらない。うつくしい、金魚きんぎよおよいでる尾鰭をひれ姿すがたや、ぴら/\と水銀色すゐぎんいろかゞやかしてねてあがるあゆなんぞの立派りつぱさには全然まるでくらべものになるのぢやあない。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御緩ごゆつくさまで、』と左側ひだりがはの、たゝみ五十畳ごじふでふばかりの、だゞつぴろ帳場ちやうば、……真中まんなかおほきつた、自在留じざいとめの、ト尾鰭をひれねたこひかげから、でつぷりふとつたあかがほして亭主ていしゆふ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)