寐入ねい)” の例文
こんな事を考えながら女は寐入ねいってしまったが、ある一刹那せつなにその眠りが突然めた。あたりを見廻みまわせば、ほとんど真っ暗になっている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
よいの内はピアノなど鳴している様でございましたが、九時頃私が見廻りました時には、もうよく寐入ねいっておりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
日あたりの納戸に据えた枕蚊帳まくらがやあおき中に、昼の蛍の光なく、すやすやと寐入ねいっているが、可愛らしさは四辺あたりにこぼれた、畳も、縁も、手遊おもちゃ玩弄物おもちゃ
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは小さい子供を持った寡婦がその子供を寐入ねいらせたり、また老いて疲れた親を持った孝行者がその親を寝入らせたりするのにちょうどよい話である。
とうとう寐入ねいるまでいたことやら、妹がなぜ直ぐに馴染んだかと不思議に思った看護婦が、やはり長く附き合って見たら、一番い人であったことやら
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうしていつの間にかもう寐入ねいってしまわれたようだったので、私は急に気抜けがしてそのまま黙っていると、その時ふいとあの方は薄目をお開けになって
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
肖像画をかせるために著席している人との類似を更に完全にしようと、ロリー氏はうとうとと寐入ねいってしまった。朝食が運ばれて来たのに彼は目を覚された。
我我は文明を失ったが最後、それこそ風前の灯火のように覚束おぼつかない命を守らなければならぬ。見給え。鳥はもう静かに寐入ねいっている。羽根蒲団ぶとんまくらを知らぬ鳥は!
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
んなはなしをしてゐるうちに宗助そうすけまた寐入ねいつて仕舞しまつた。御米およね依然いぜんとして、のつそつとこなかうごいてゐた。するとおもてをがら/\とはげしいおとてゝくるま一臺いちだいとほつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちに道傍みちばたに地蔵様のお堂がありましたからその縁外えんそとあがって、そこで一夜を明すことにしました。ところが真夜中頃でした。寐入ねいっている二郎次の肩を揺すぶって
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかしまたしては、「やっぱりそうなった方が、あいつのためには為合しあわせかも知れない、どうせ病身なのだから」と思っては自分で自分をなだめて見るのである。そのうち寐入ねいってしまった。
(新字新仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
大きな帽子を被った両棲動物がうるさく附き纏って、おれの膝に腰を掛けて、「テクサメエトルを下さいな」なんと云う。そのうち寐入ねいった。翌朝と云いたいが、実際もう朝ではなかった。
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
そして男のあたまを引き寄せて、自分の肩へ寄り掛からせた。男は優しく女と顔を見合って、目を閉じたが、ぐに寐入ねいった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そして、よく寐入ねいっている彼を無遠慮に叩き起し、しかしあたりをはばかる囁き声で、事の仔細しさいを語るのでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小六ころく藥取くすりとりからかへつてて、醫者いしやどほ服藥ふくやくましたのは、もう彼是かれこれ十二ちかくであつた。それから二十ぷんたないうちに、病人びやうにんはすや/\寐入ねいつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こっちで見るのは好いが、向うから見られるのはいやだと思って、君は部屋に這入はいった。向側の騒ぎは夜遅くなるまで続いた。君は床に這入って、三味線さみせんの声をやかましく思いつつ寐入ねいった。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そっと膝から下すと、お雪はやはりそのままに、すやすやと寐入ねいっている。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何も知らずにいても好い。ただその時は、おれかれて、今のように寐入ねいって、それからもうめないばかりだ。そしてそれをたしかめた上で、自分がるのだ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
本當ほんたうに、こはいもんですね。もとはあんな寐入ねいつたぢやなかつたが——どうも燥急はしやぎるくらゐ活溌くわつぱつでしたからね。それが二三ねんないうちに、まるべつひとやうけちまつて。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一旦助けんと思い込みたる婦人おんななれば、このままにて寐入ねいらんは口惜し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは今此書物のなかに、茫然としてすはつた。やゝあつて、これほど寐入ねいつた自分の意識を強烈にするには、もう少し周囲の物をうかしなければならぬと、思ひながら、へやなかをぐる/\見廻みまはした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、直ぐに寐入ねいったものの呼覚よびさまされる時刻でない。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は今この書物の中に、茫然として坐った。ややあって、これほど寐入ねいった自分の意識を強烈にするには、もう少し周囲の物をどうかしなければならぬと、思いながら、室の中をぐるぐる見廻した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すやすやと寐入ねいったも同じ事で。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)