奉納ほうなふ)” の例文
短い太皷型たいこがたの石橋を渡ると、水屋みづやがあつて、新らしい手拭に『奉納ほうなふ』の二字を黒々とにじませて書いたのが、微風びふううごいてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
供へいづれも豐島屋十右衛門と云ふ奉納ほうなふめいあり是れ亦今以て存すと云ふ或日此豐島屋の店へ往來者大勢入り込みれいの如く居酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みち太郎稻荷たらういなりあり、奉納ほうなふ手拭てぬぐひだうおほふ、ちさ鳥居とりゐ夥多おびたゞし。此處こゝ彼處かしこ露地ろぢあたりに手習草紙てならひざうししたるがいたところゆ、いともしをらし。それより待乳山まつちやま聖天しやうでんまうづ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あふれる水にれた御手洗みたらしの石がひるがへる奉納ほうなふ手拭てぬぐひのかげにもうなんとなくつめたいやうに思はれた。れにもかゝはらず朝参あさまゐりの男女は本堂の階段をのぼる前にいづれも手を洗ふめにと立止たちどまる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
近江屋「なに、それはもつと小さい丸いので、ぶら提灯ぢやうちんといふのだが、あれは神前しんぜん奉納ほうなふするので、周囲まはりあかつぶして、なかくろで「うをがし」と書いてあるのだ、周囲まはりなかくろ
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あのがくなかには『奉納ほうなふ』といふ文字もじと、それをげたひとうまれたとしなぞがいてあるのにがつきましたか。とうさんのおうちうらまつつてあるお稻荷いなりさまのやしろにも、あの繪馬ゑまがいくつもかゝつてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
問糺とひたゞされしに委細申立たる故勘太郎がなせわざと知れ拷問嚴敷詮議あれども何分白状なさず因てなほまた大岡殿白洲へ呼出され其方は一通りならぬ惡黨あくたうなれ共斯程かほどせめあふて白状致さぬは又大丈夫なりさりながら汝が妻の詞に百兩の金かみつゝみ奉納ほうなふかき水引にてむすび有しと申立て有る上は白状せずとも差免さしゆるすと云ふ事なし日々苦痛するは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
用立ようだて申べし其上は自力じりきに及びがたしといふ彌次六申やう御入用高は未だとく相伺あひうかゞはねばまづ貴殿方きでんかたの御都合つがふもあれば夫だけ御用立下さるべしと云に肥前は委細ゐさい承知しようちなして歸宅きたくせしが早速さつそく右の金子三百兩持參ぢさんしければ此むね天一坊大膳へ申し談じ則ち天一樣御出世の上は永代米三百俵づつ毎年まいねん奉納ほうなふ有べしとしたゝめし證文しようもん引替ひきかへにし金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)