失敗しくじり)” の例文
さもありさうな事で、酒は酒飲み自身の知らない色々な善い事をするものだから、少し位悪い失敗しくじりがあつたつて少しの差支もない。
天竜寺へ参詣と見せて籠抜かごぬけだ、それにあの坊さんに腹ん中まで見透かされて、命からがら逃げ出して来たなんぞは、近来に無え図の失敗しくじり
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
旦那の心地こころもちは私によく解る。真実に、その方の失敗しくじりさえなかったら、旦那にせよ、正太にせよ……私は惜しいと思いますよ
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
無論むろん千葉ちばさんのはうからさとあるに、おやあの無骨ぶこつさんがとてわらすに、奧樣おくさま苦笑にがわらひして可憐かわいさうに失敗しくじりむかばなしをさぐしたのかとおつしやれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼らは、お江戸日本橋をふり出してから、京の都へ落ちつくまで、東海道の五十三つぎ、どの宿でも、どこの宿場でも、ほんとうに失敗しくじりのし通しです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「先にゃあ、去年の失敗しくじりがある。よもや今年は、のめのめ掠奪かすめられるようなぼんくらを警固としては出かけまい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すんでのことで追っつかれるとこだったが、ついぞない自分の失敗しくじりを考えると、わしは安閑としてはいられないのだ。このごろおっかねえ風が吹いて来たぜ
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
南京米の事ばかり書いて済まないから、もうやめにするが、この時自分の失敗しくじりに対する冷評は、自然のままにしてほうって置いたなら、どこまで続いたか分らない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
容態が思はしくない間は、誰れしも警戒しますが、少しくなるとついお調子に乗つて瑣細なことを等閑なほざりにして、そのために飛んだ失敗しくじりを引きおこし易いものです。
〔婦人手紙範例文〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
おなじ店の若い者や、河岸かしの荷あげの軽子かるこなども四、五人打ちまじって、何か賑やかにしゃべっていた。喜平もその群れにはいって、ゆうべの失敗しくじりばなしをはじめた。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
墨汁の染みた海綿にペンを引っかけて容れ物を落したり、粗忽な良人はよく失敗しくじりをした。
茶粥の記 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
社長の曽我とも知己しりあいなかでこの間の失敗しくじりを根に持ってよほど卑怯な申立てをしたものと見えて、始めは大分事が大げさであったのを、幸いに足立駅長が非常に人望家であったために
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
つまり、そんな人一倍のそそっかし屋だから、人生の戦い、芸の修業にも、はじめにあわてて喜んでしまい、とんだ失敗しくじりをやらかしたようなことになってしまったのかもしれませんや。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その前に入られたのは、中の郷の長源寺ちやうげんじといふ寺、これも手口は同じことですが、奪られたのはほんの二三兩、住職がつましいので、金があるといふ評判に釣られた泥棒の失敗しくじりとわかりました。
「何か失敗しくじりでもしたろ。」主婦あるじはニヤニヤした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何か飛んでもない失敗しくじりでもしなければ、滅多に他人ひとに名前を知られさうもない男だが、幸福しあはせな事には一つ失敗譚しくじりばなしを持つてゐる。
いえ、なあに、つまらないことなのですが、うちの若い者が……いいえ、以前うちに使っていた若い奴が、気が早いものですから、旅に出て、失敗しくじり
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「その場合々々で当然の事を遣るんでしょうけれども、その当然がやっぱり失敗しくじりになるんでしょう」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その他種々様々の失敗しくじりと後悔とはずかしい思いとを残した四年の間の記憶の土地からも離れて行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その前に入られたのは、なかごう長源寺ちょうげんじという寺、これも手口は同じことですが、られたのはほんの二三両、住職がつましいので、金があるという評判に釣られた泥棒の失敗しくじりとわかりました。
「その祭については、実は、失敗しくじりばなしがありますので——」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
キリストは以前西班牙の山の中で羊飼を梟にした失敗しくじりを思い出して、自分が不用意に洩した言葉がそのまま実現せられてゆくのに驚きました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
見世物小屋の失敗しくじりなどはかなり大きな失敗でしたけれども、それがために古市ふるいちにおける場合のように、槍を振り廻すことのなかったのはまだしもの幸いでしたが
ところ丁度ちやうど五月目いつつきめになつて、御米およねまた意外いぐわい失敗しくじりつた。其頃そのころはまだ水道すゐだういてなかつたから、朝晩あさばん下女げぢよ井戸端ゐどばたみづんだり、洗濯せんたくをしなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私があれに言って聞かせて、父親おとっさんも女のことでは度々失敗しくじりが有ったから、それをお前は見習わないように、世間から後指うしろゆびを差されないようにッて——ネ、種々いろいろ彼に言うんだけれど……ええええ
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馬政局長官浅川中将のはなしによると、陸軍当局では、先年の失敗しくじりに懲りずに、今度また馬券を売出さうと計画中だといふ事だ。
「其場合々々で当然の事を遣るんでせうけれども、其当然が矢っ張り失敗しくじりになるんでせう」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
瓦っかけを抱かされちまったのが一代の失敗しくじり、これじゃ商売冥利みょうりに尽きるといったようなわけで、再挙を試みたが、さいぜん申し上げる通りの用心堅固、大津まであとをつけて
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし畜生ながらに賢いもので、その日の失敗しくじり口惜くちおしく思うものと見え、ただ悄々しおしおとして、首を垂れておりました。二重※ふたえまぶちの大な眼は紫色に潤んで来る。かすかもらす声は深い歎息ためいきのようにも聞える。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その新村氏が最近一つの失敗しくじりをした。と言つても何も専門の言語学の事ではないのだから、どうか安心して欲しい。
ところがちょうど五月目いつつきめになって、御米はまた意外の失敗しくじりをやった。その頃はまだ水道も引いてなかったから、朝晩下女が井戸端へ出て水を汲んだり、洗濯をしなければならなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若いうちの失敗しくじりは誰もあることじゃ、そのうちには自分も忘れ、世間も忘れる、その頃合ころあいを見計らって、わしはお前をつれて亀山へ行き、ごとをして、めでたく元へ納めるつもりだ
文学博士芳賀矢一氏は、酔つ払つてよくいろんな失敗しくじりをする。尤も芳賀氏の説によると、それは酒のさせるわざで、芳賀氏自身の知つた事では無いさうである。
「命からがら引上げて来ましたが、いや今度という今度は失敗しくじりつづき、先生のところで失敗しくじって、それから坊さんでまた失敗りました。こうなっちゃ、がんりきもやきが廻って、少々心細くなりました」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ほんとうに忌々いまいましいたらありゃしない。ひとの失敗しくじりを自分の幸福しあわせにするなんて。今度出逢ったが最後、この剣でもって思いきりみなの復讐しかえしをしてやらなくっちゃ。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「はい。」浅葱あさぎ服の職工は飛んだ失敗しくじりでも見つけられたやうに恐縮した。
今日は一つその蛇の失敗しくじりばなしをここに御披露する。
滅多に失敗しくじりなぞしなかつた。
如来によらい失敗しくじり10・16(夕)