垂木たるき)” の例文
しばらく棲んだ自分の小屋でありながら、下からしみじみ見あげる自然木の垂木たるきや小枝の木舞こまいはひどく馴染なじみのないものであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
垂木たるきは、年寄としよりのおもみさえささえかねたとみえて、メリメリというおととともに、伯父おじさんのからだ地上ちじょうっさかさまに墜落ついらくしたのでした。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
肥った年輩の父親とその息子らしい二人の少年が、まだ骨組ばかりの屋根の上にあがって、専念に新らしい不足の垂木たるきをぶちつけていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
軒の垂木たるきまでも漆喰しっくいで包んだ土蔵作りの店の構え、太い角材を惜しげもなく使った頑丈がんじょう出格子でごうし、重い丸瓦でどっしりとおさえた本葺ほんぶきのいらか
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その火の中で、お駒ちゃんは、垂木たるきでも焼け落ちるような、大きな音であった。お駒ちゃんが、磯五の頬をなぐったのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「然し何か一つ成功して見たいではないか」と、義雄も渠についてそこを出たが、玄關のけた垂木たるきがカツラだと云ふのを名殘り惜しさうに見てゐる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
裏の大きな垂木たるきは落ち、壁は崩れて本堂の中はいて見え、雨は用捨なく天井から板敷の上へと落ちた。仏具なども、金目のものはもう何もなかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
私たちは窓のないがらんどうの部屋へはいって、建物の幅木はばきを取りのけ、それから床板ゆかいたをめくると、垂木たるきの下に屑をもっておおわれたね上げの戸が発見された。
天井は低く、頭に掩い被さらんばかり、柱や垂木たるきが乱雑に、もはやここは楼門の、天井裏と思われます。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もっともその人はこの雪をふみ分けて、あの山を越え、向こう側の垂木たるき村へ下りて行くのだと言っていたから、こっちへは下りて来ないことになっていたんでがすよ
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
屋根の垂木たるき、廊の勾欄こうらんまでが、雪とうつり合って面白い。浴室の鎧窓よろいまどから、湯煙の立ちのぼるのも面白い。湯滝の音が、とうとうと鳴るのも歌になると思いました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その死骸を、大骨折で庇の垂木たるきつたのは、深い怨のある者の仕業と思はせるためだ。が、人間の身體を宙に吊上げるには、その人間より重い身體の人でなきや出來ない
そうづくりのいただき、四ほう屋根やね、千ぼんびさし垂木たるき勾欄こうらん外型そとがたち、または内部八じょう書院しょいん天井てんじょうまどなどのありさま、すべて、藤原式ふじわらしきの源氏づくりにできているばかりでなく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太陽は入江の水平線へしゅの一点となって没していった。不弥うみみや高殿たかどのでは、垂木たるき木舞こまいげられた鳥籠とりかごの中で、樫鳥かけすが習い覚えた卑弥呼ひみこの名を一声呼んで眠りに落ちた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
大きな、荒けずりの、がっしりした原始的な広間で、天井も塗り壁もなく裸の垂木たるきと横木とが、いわば、より低い天を頭上にささえており、それが雨や雪をふせぐ役をしているのである。
一、松は二寸に一寸五分角の垂木たるきのやうな棒にして出す、これを松わりと呼ぶ事
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
小屋に使ってある丸太はどす黒く古びており、多くの屋根はふるいのように穴だらけになっている。中には上に棟木むなぎと、その両側へ肋骨のように張り出した垂木たるきだけしか残っていないのもある。
床の間の天井に鼠が巣をつくっている。お母さんは此れを大層気にしていた。乃公は留守の中に退治して置いてやろうと思って、天井へ登った。天井は湯殿ゆどの垂木たるきを匍って行けば訳なく入られる。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この伽藍は熱帯のなんとかいふ特殊な材木を用ひてゐるさうですが、まづ用材にからまることは度外視して、ここに仮りに根太ねだ垂木たるきや棟によつてぎつしりつまつたひとつの脳味噌を想像します。
女占師の前にて (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
出し組ばかりなるもあり、雲形波形唐草からくさ生類しょうるい彫物のみを書きしもあり、何よりかより面倒なる真柱から内法うちのり長押なげし腰長押切目長押に半長押、縁板えんいた縁かつら亀腹柱高欄垂木たるきます肘木ひじきぬきやら角木すみぎの割合算法
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
緑青のんだあかがねの門の垂木たるきから
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
壁の屋根の垂木たるきが取れていた。
火は火を呼びぬ、今、垂木たるき
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
七彩の垂木たるきの下に蹲まり
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
それと気が付いたときにはあッとくず折れそうであったにかかわらず、それでもふみ耐えて、手近かな垂木たるきをわしづかみにすることが出来たのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そこで、内儀より輕い人間が、内儀の身體を庇に吊り上げるためには、綱の端つこを立木に縛るか、重い石か何んかを卷きつける外はあるまい、庇の垂木たるきは檜だし、綱はよく滑る
廂うらの垂木たるきをガリガリとはしってきた小猿こざるが、咲耶子のかたにとびついて手をやるとまた足もとへとび、おそろしくなにかに恐怖きょうふしたらしく、彼女のまわりをグルグルまわりだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床脇はシロコの地板、サビタ瘤の地袋ばしら、ヤチダモ根の木口包み、オンコの上棚板、ブナの下げづか。縁側はトド丸太のけた、アカダモのえんぶち、並びに板、蝦夷松及びヒノキの垂木たるき
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
この場合において恰好かっこうな見付物であり、機敏な思いつきでもあると感心し、二人の浪士はお辞儀なしに、梯子を登り出し、垂木たるきのあたりへ手をかけて、上手に屋根の上へはね上りました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
構成と云ふことは、垂木たるきは垂木、縁側は縁側、二階は二階と云ふ風に、それ/″\位置を定めて、単純の中に複雑を示し、簡易の中に豊富を示し、混乱の中に統一を示すものでなければならない。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
細引でひさし垂木たるきに吊つてありました、あわてゝ居るので、綱は容易に解けません。
天から降りてきたようにかんじたが、とにかく、自分に異議いぎをいう権利けんりはないので、かれのたのみをゆるすと、この美少年、三太郎猿さんたろうざるほどのあざやかさではないが、垂木たるきにすがって欄の上へ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柱や垂木たるきにつかまりながらのびあがって川向うを見わたした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)