取繕とりつくろ)” の例文
平次が妾のお源の神妙らしく取繕とりつくろつた顏をかへりみると、お源は少しあわてて、大きくうなづきました。平次の推理には一點の隙もありません。
京都大学にある内田氏の研究室は、あの人のへやだけにきちんとしたものだが、たつた一つ取繕とりつくろはないものが中にまじつてゐる。
わたくしはそれをぼんやり眺めて亡父の思い出にふけりながら、どうやら外出着の着物に着替えました。化粧も取繕とりつくろい、階下へ降りて行きました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
室中しつちゆう以上いじやうは、なに見解けんげていしないわけかないので、やむをさまらないところを、わざとをさまつたやう取繕とりつくろつた、其場そのばかぎりの挨拶あいさつであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
平田氏が一寸口をすべらしたのがいとぐちだった。若し相手が普通の人間だったら、なんなく取繕とりつくろうことが出来たであろうけれど、青年には駄目だった。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
成程汗みづくになつて自分ばかり働いて、娘にはほんの上面うはつらばかり撫でるやうにねさせて人前を取繕とりつくろつて置く。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
取繕とりつくろひ申にぞ次右衞門三五郎口をそろへて然らば其石塔せきたふ參詣さんけい致し度貴僧きそうには先へ歸られ其用意よういをなし置給へと云に祐然かしこまり候と急ぎ立歸りて無縁むえんの五りんたふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
心安い台所女中の口からなりと引き出して署長の機嫌を取直したい……当座の不面目を取繕とりつくろいたいと、暫くの間そればっかりを気にして考え直していたが、しかし
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
尚お視廻みまわすと、壁は元来何色だったか分らんが、今の所では濁黒どすぐろい変な色で、一ヵ所くずれを取繕とりつくろったあとが目立って黄ろいたまを描いて、人魂ひとだまのように尾を曳いている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
盗み出し、根津の清水の花壇に埋め、あまつさえ萩原様を蹴殺けころしてていよく跡を取繕とりつくろ
「げに親子の情二人が間におこらば源叔父が行末いくすえ楽しかるべし。紀州とても人の子なり、源叔父の帰り遅しとかどに待つようなりなば涙流すものは源叔父のみかは」つまなる老人おきな取繕とりつくろいげにいうも真意なきにあらず。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と定兼君はしきりに取繕とりつくろっていた。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
取繕とりつくろつたところを見ると、紛れもありません。それは人形町で踊の師匠をして居る、有名過ぎるほど有名な女だつたのです。
極端に云えば、黄金おうごんの光りから愛その物が生れるとまで信ずる事のできる彼には、どうかしてお延の手前を取繕とりつくろわなければならないという不安があった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで、どこかからにせ札を仕入れて来て——支那人なんかに頼むと精巧なものが手に入るといいますから——私や信者の前を取繕とりつくろっていたのかも知れません。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たのみ傳吉が助命ねがひしがかなはず然ながら種々いろ/\取繕とりつくろひ牢屋まで飯を送りしと先達て申立しが其節そのせつ役人へ何を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大方おおかた駒下駄のぬしも奥の座敷に取繕とりつくろってチンと澄しているに違ないと思うと、そのチンと澄している処が一目なりと見たくなったが、生憎あいにく障子が閉切たてきってあるので、外からは見えない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
咄嗟とつさの間にお二人で相談して、刀を隱して格子戸を外し、曲者が外から入つて父上を害めたことに取繕とりつくろつたのです。それに間違ひはないでせうな
室中しつちゅうに入る以上は、何か見解けんげを呈しない訳に行かないので、やむを得ず納まらないところを、わざと納まったように取繕とりつくろった、その場限りの挨拶あいさつであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
忌々いま/\しく思ひ仁田村の八と云ふ獵人かりうどたく引越ひつこしる處へ手先のかう八と云ふ者此事を嗅付かぎつ郡代役所ぐんだいやくしよへ引行入牢させけるをあに九郎右衞門聞こみ流石さすが憫然あはれに思ひ内々ない/\取繕とりつくろひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
確かに狼狽を取繕とりつくろおうとしていらっしゃるのだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
八五郎の顔を見ると、手代徳松はちょっとイヤな表情をしましたが、物馴れた商人あきんどらしく一瞬の間に取繕とりつくろって
取繕とりつくろふ積りで、左近太夫樣は萩と廣島に上陸して、毛利まうりと淺野の居城の繩張りから防備の樣子を見、毛利と淺野の家中に騷がれたことはお前も知つてる通りだ