前途さき)” の例文
前途さきの見越しがつかぬから、それだけで満足の出来よう道理がない……とお国はシンミリした調子で、柄にないジミな話をし始めた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
前途さきはどうなっても構わない……というような、一切合財をスッカリ諦らめ切ったような、ガッカリした気持ちになってしまった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こりゃ仰有おっしゃりそうな処、御自分の越度おちどをお明かしなさりまして、路々念仏申してやろう、と前途さきをお急ぎなさります飾りの無いお前様。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
した事は生れて初めてだ。荷物の重いばかりでなく、箆棒べらぼう前途さきばかり急いで、途中ろくろく休む事も出来ねえ。どこまでも付従くっついて行ったら生命いのち
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「そう言って頂けば私も難有ありがたいんですけれど……でも、何んとか前途さきの明りが見えないことには……何処まで行けばこの事業しごとが物に成るものやら……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なんぼ争って居たところが前途さきの事が分らぬでは駄目ですから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「辰さん——道普請があるはずだが前途さきは大丈夫だろうかね。」「さあ。」「さあじゃないよ、それだと自動車は通らないぜ。」
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして何か話し合ったり、思い出したりしていると思うと、それが過去のことであったり、前途さきのことであったりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この昼飯ひるめし分は剛力に担がせて持って来たのだが、この前途さき山中に迷わぬものでもないから、なるべく食物しょくもつを残しておけと、折りから通り掛かった路傍みちばた
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
やうやく煙草のむことを覚えた程の年若な準教員なぞは、まだ前途さきが長いところからして楽しさうにも見えるけれど、既に老朽と言はれて髭ばかりいかめしく生えた手合なぞは、述懐したり
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
飯坂いひざか前途さきやまからの、どん/\とますだで。——いゝ磨砂みがきずなだの、これ。」と、たくましい平手ひらてで、ドンとたゝくと、たはらからしろが、ふツとつ。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前途さきに見込みがないから、私もうあすこを逃げてしまおうかとも思っているんです。」と、お庄は思いって伯母や糺にも、自分の心持を打ち明けてみたが
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この前途さきもう半里はんみちばかりというところまで来かかると、ここにもあめン棒など並べて一軒茶屋。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
帳場ちやうばから此處こゝまゐうちも、とほりの大汗おほあせと、四人よつたり車夫しやふくちそろへ、精一杯せいいつぱい後押あとおしで、おともはいたしてまするけれども、前途さきのお請合うけあひはいたされず。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雲の白さが一団ひとかたまり残って、底にかすか蒼空あおぞらの見える……はるかに遠い所から、たとえば、ものの一里も離れた前途さきから、黒雲を背後うしろいておそい来るごとく見て取られた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目の寄る前途さきき抜けもせず、立寄ってくれたので、国主こくしゅ見出みいだされたほど、はじめ大喜びであったのが、あかりが消え、犬がえ、こうまた寒い風を、欠伸あくびで吸うようになっても
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だって口惜くやしかろう。その川一条ひとすじ前途さきは、麗々と土が出て、うっすりと霧がって、虫の声がするんだもの。もう近いから、土手じゃ車の音はするし、……しばらくにらみ詰めて立っていた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前途さきの獅子浜、江の浦までは、大分前に通じましたが、口野からこちら……
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にんをおろしたらしくると、坂上さかがみも、きふには踏出ふみだせさうもなく、あし附着くツついたが、前途さきいそむねは、はツ/\と、毒氣どくきつかんでくちから吹込ふきこまれさうにをどつて、うごかしては
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
前途さきは直ぐに阿部の安東村になる——近来ちかごろ評判のAB横町へ入ると、前庭に古びた黒塀をめぐらした、平屋の行詰った、それでも一軒立ちの門構もんがまえ、低く傾いたのに、独語教授、と看板だけ新しい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついこの前途さきをたらたらと上りました、道で申せばまず峠のような処に観世物みせものの小屋がけになって、やっぱり紅白粉べにおしろいをつけましたのが、三味線さみせんでお鳥目ちょうもくを受けるのでござります、それよりは旦那様
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)