つぶ)” の例文
旧字:
白蝋のかおの上に、香りの高い白粉おしろいがのべられ、その上に淡紅色ときいろの粉白粉を、彼女の両頬につぶらなまぶたの上に、しずかにりこんだ。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかも、瞬きを忘れた、つぶらな瞳は、じっと私に向けられ、何か胸の中を掻きみだすような、激しい視線を注ぎかけて来る。
脳波操縦士 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
いまや夜が、それを平和な睡眠ねむりのなかへつゝまうとするとき、そのどれもが、つぶに肖た灯を点けたまんま…
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
冬次郎が遠江守であるかのように、郡兵衛は巨大なつぶらの眼を、白身だけにして睨むよう見詰め、声涙下るというような声で、そういって様子をうかがった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この里に大山大将住むゆゑにわれの心のうれしかりけり」におほどかなる可笑しみを伝へてゐる。「くろぐろとつぶらに熟るる豆柿に小鳥はゆきぬつゆじもはふり」
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
巡査の護衛せるを見て、乗客はきもをつぶしたらんが如く、まなこつぶらにして、ことに女の身のしょうる。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
此女らの動かして見せるおさの扱い方を、姫はすぐに会得した。機に上って日ねもす、時には終夜よもすがら織って見るけれど、蓮の糸は、すぐにつぶになったり、れたりした。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
青く銀色に冴えた肌、体側に、正しく十三個ならんだ紫ぼかしの小判形の斑点、頭のてっぺんにつけたつぶらかな眼、なんと山女魚は、華艶の服飾と、疎麗な姿の持ち主であろう。
魔味洗心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
愛くるしい二重あごのついた丸顔で、たいして美人と云うほどではないが、つぶらな瞳と青磁に透いて見える眼隈と、それから張ち切れそうな小麦色の地肌とが、素晴らしく魅力的だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
返事は多分、向うに着いて貰えるだろうと思いましたが、その、つぶらなひとみをした、お嬢さんには、すでに恋人こいびとがあったかも知れないとおもうと、気恥かしくなって来て、めにしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
眉に柳のしずくをかけて、しっとりと汗ばんだが、その時ずッと座を開けて、再びともしびおおうてすまった、夫人を見つつ恍惚うっとりと、目をつぶらかにみまもった、胸にぶらりと手帳のくくりに、鉛筆の色の紫を
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つぶらな眼を恐怖に見開いて、どうなることかと、侍たちを見上げています……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの薄い素絹を敷いた様なつぶらな両の瞳を見開いて、柔かな、でもむさぼる様な視線を私のこの顔中へ——それはもう本当に「ああいやらしいな」と思われる位に、しつこく注ぎ掛けるのです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
而してただぢつと一列の子供達を凝視みつめた。同じやうな冷たい顔がぢつと同じやうに此方こちらを眺めてほろりほろりとつぶらな大きい眼の底から涙を流してゐる。私の頬にもほろほろ涙が流れてきた。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つぶらな彼女の眼は、濡れしとった忘勿草わすれなぐさのようでした。
また釣瓶落つるべおちにちるという熟柿じゅくしのように真赤な夕陽が長いまつげをもったつぶらな彼女のそうの眼を射当いあてても、呉子さんの姿は
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けれど、彼女は舳先へさきの方にかがんだまま、ただそのつぶらなを二三度瞬いたきりである。
植物人間 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
機に上つて日ねもす、時には終夜よもすがら織つて見るけれど、蓮の絲は、すぐにつぶになつたり、れたりした。其でも倦まずさへ織つて居れば、何時か織れるものと信じてゐる様に、脇目からは見えた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
水のごと白き寝台の下冷えていのざるらし子らがつぶ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして頤の張った顔を正面に向け、高い鼻をツンと前に伸ばし、その下に切り込んだ三日月形の口孔こうこうの奥には高声器が見え、それからつぶらな二つの眼は光電管でできていた。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夢幻織シャムルーズのワンピースが、まるで塑像をみるように、ぴったりと体の線を浮出さしていた、そして、その艶々と濡れたようなつぶらな瞳を、ジッと私にそそぎかけていた。しかし一ト言も口をきかなかった。
白金神経の少女 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
つぶら眼の童子かまどの前に居りあなひもじさよ焔のをど
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
可愛かわいい桜桃さくらんぼのように弾力のある下唇をもっていて、すこし近視らしいがつぶらな眼には湿ったように光沢こうたくのある長い睫毛まつげが、美しい双曲線をなして、並んでいた——というと、なんだか
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
空見ると強く大きく見はりたるわがつぶら眼に涙たまるも
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼女のつぶらな眼の奥には強い決意の色が閃いていた。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
盲目めしひ弾き、おうし聾者ろうじやつぶかさなりのぞく。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)