具足櫃ぐそくびつ)” の例文
具足櫃ぐそくびつを開けて、親譲りの紺糸縅こんいとおどしの一番を着込むのと、侍部屋の方へ向って股肱ここうの面々を呼び立てるのを彼は同時に行っていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家康は即座に正信に言ひつけて、何番目かの具足櫃ぐそくびつを持ち出させ、自分の巾着はばきのなかから取り出した鍵でそれを開けさせました。
小壺狩 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
はらされよと云つゝかね省愼たしなおきたる具足櫃ぐそくびつならびに差替さしかへの大小までも取出し此通り國難まさかの時の用意も致し居る拙者なり他人の物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此方こなたには具足櫃ぐそくびつがあつたり、ゆみ鉄砲抔てつぱうなど立掛たてかけてあつて、ともいかめしき体裁ていさい何所どこたべさせるのか、お長家ながやら、う思ひまして玄関げんくわんかゝ
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
左馬助は具足櫃ぐそくびつに身をひそめ、具足を本丸へとゞけるからと称して小姓に担ぎださせ、無事氏直の前に立戻ることができた。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
その画像の前には具足櫃ぐそくびつがあって、それと釣合いを取って刀架かたなかけがある。長押なげしにはやりがある。薙刀なぎなたがある。床の間から襖にそうてうずたかく本箱が並んでいる。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
四辻のあたりに敵の遺棄した品々を拾ひ集めたのが、百目筒ひやくめづゝ三挺さんちやう車台付しやだいつき木筒きづゝ二挺にちやう内一挺車台付、小筒こづゝ三挺、其外やり、旗、太鼓、火薬葛籠つゞら具足櫃ぐそくびつ長持ながもち等であつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
正武隊付きを命ぜられた諏訪の百姓降蔵は片桐から背負しょって来た具足櫃ぐそくびつをそこへおろして休んでいると、いろは付けの番号札を渡され、一本の脇差わきざしをも渡された。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家来は二人連れた。その一人は槍を持って行く。それから別に人足を雇って具足櫃ぐそくびつを舁がせる。この槍と具足櫃とは侍たる者の片時も身を離してはならぬ物であった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
平吉は傍の長櫃の上に重ねた蒲団の一枚をった。お高は渋紙包を持ってち、それを傍の具足櫃ぐそくびつの上へおいた。平吉はそこで蒲団の萌黄の裏を上にして胡蓙ござの上へ敷いた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つきヤレ/\有難き仰せ畏まり奉つると蘇生よみがへりたる心地こゝちにて直樣すぐさま馳歸はせかへり多くのかぎを持參なし種々いろ/\あはせ見て具足櫃ぐそくびつ錠前ぢやうまへあけけるとなり此事錠前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
龍耳老人の残して行った謎のような具足櫃ぐそくびつが、人の疑目ぎもくを待っていた。お綱もあやしさにうたれて見つめあった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見拔みぬきたれば申し殘す一儀あり我死なば具足櫃ぐそくびつの内に貞宗さだむねの短刀と用金のたくはへ五百兩あり其内金二百兩と短刀たんたうはお花が行衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
袈裟筥けさばこへおさめておけ。そしてまず朝飯を食おう。それからすぐ身仕度だ、具足櫃ぐそくびつを取出して来い」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清盛は、具足櫃ぐそくびつから、胴、すねあて草摺くさずりなど、つかみ出しては、手ばやく、身に着けながら
日吉は、ボリボリそれを喰べながら、長押なげしの槍を仰いだり、具足櫃ぐそくびつの紋を眺めたり——それから眼のまえに坐っている加藤弾正の顔を、穴のあくほど、じろじろ見つめたりした。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そっと仰臥ぎょうがさせてもらい、かねて生前からととのえておいた具足櫃ぐそくびつの中の数珠じゅずと法衣を求めて、かたわらに置かせ、瞑目めいもく、ややしばらくであったが、やがて細目にあたりを見まわして
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曳馬ひきうまの飾りには、鈴がついているとみえ、松虫の啼く音のようにりんりんと揺れてくる。具足櫃ぐそくびつ、二本の槍、誰彼と、四、五名の供も来る。このお長屋としてそう見苦しい程でもない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肩からおろした具足櫃ぐそくびつを眼で示すと、老人はとくと見て、きげんよくうなずいた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆかに清浄なむしろべてあった。具足櫃ぐそくびつがそこに出されてある。籠手こて脛当すねあて、胴、腹巻などの物具はいうもおろか、金創薬きんそうやく燧打ひうち、弾薬入れ、すべて身にまとうばかりに揃えてあるのだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらば——と別れて、秀吉はたって作戦の用意にかかり、伊那丸は、はからずも手にもどった御旗みはた楯無たてなし具足櫃ぐそくびつ忍剣にんけんの背に背おわせて、陣のうらかられんげ草のさく野道へ走りだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけても、伝右衛門が眼をひかれたのは、一隅に置かれてあった十七絃の唐琴からことと小鼓であった。明珍みょうちん作りの南蛮鉄に銀の吹返ふきかえしのあるかぶとは、そのわきの具足櫃ぐそくびつのうえに常住の宝物のごとくすわっていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、官兵衛はすぐ具足櫃ぐそくびつから取出して示した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ごんぞ。——具足櫃ぐそくびつを。具足櫃を」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)