公方くぼう)” の例文
「だが、お前のお養母っかさんの浜中屋の女将おかみときては、公方くぼうの肩持ちで、ちゃきちゃきな江戸ッ児だからな。万一、密告されると……」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてのことに、ご奏者番からご老中職へ、ご老中からご公方くぼうさままで、道々のご警備その他ぬかりのない旨、ご言上が終わると
家はおろか、父兄ててあには愚か、公方くぼうの威光までも、恋のために土足にかけようとするとは、あのお人も、思い詰められたものと見える——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その前の年は観世の河原猿楽御覧、更には、これは貴方あなたさまよく御存じの公方くぼうさま春日社御参詣、また文正ぶんしょうの初めには花の御幸。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
ハハハハハハ、公方くぼう河内かわち正覚寺しょうがくじの御陣にあらせられた間、桂の遊女を御相手にしめされて御慰みあったも同じことじゃ、ハハハハハハ。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ことに信長公たび/\の御上洛にもかゝわらず、一ども使節をさし上げられたこともないので、それでは禁裏きんりさまや公方くぼうさまにも恐れ多い。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恐れ多くも公方くぼう様の御落胤ごらくいんという天一坊が数人の主だった者と共に江戸表に参ろうという噂が早くも聞えたのでございました。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「それは、相当の役所になって、公方くぼうの命令という事にしよう。もし、公方の命令で集らなかったら、それは是非もない事だ」
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そのうちに公儀から召出されて公方くぼう様の糸脈を引くんだなんて大法螺おおぼらを吹いているところをみると、あんまり信用のできる医者じゃありませんね。
それはそれまで人民の主人であった公方くぼうと藩主とをはっきり臣下とよぶ天皇であり、その制度であると示された。
平和への荷役 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
其中そのうちに將軍家の長州進發といふ事になつた。それが則ち昭徳院せうとくゐんといふ紀州きしう公方くぼう——慶喜けいき公の前代の御人ごじんである。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
仔細しさいもなしに喧嘩けんかを売る。おのれ等のような無落戸漢ならずものが八百八町にはびこればこそ、公方くぼう様お膝元ひざもとが騒がしいのだ」と、彼は向き直って相手の顔をにらんだ。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そういえば、毎年おりるお堀のかもが今年は一羽も浮かんでいない、これは公方くぼうさまの凶事をしらせるものだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……あまり物欲しそうにはしねえ公方くぼうさまが、これだけはお待ちかねで、前の月はなから、もう、あと何日で加賀の氷がくると待ちかねておいでになるというその氷。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
世間のうわさくらいは、おれの耳へもはいる。俗に人の口には戸がたてられぬというとおり、誰しもかげでは公方くぼう将軍の悪口も申すものだ。云いたい者には云わせて置くがよい。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それが、日本の長いあいだの慣例であり、不文ふぶんほうであった。また「公方くぼう」という名をもって、主権が行使され、「大君たいくん」という名目をもって、対外主権が行使されていた。
禁裏さまは公方くぼうさまよりも貴きものなるゆえ、禁裏さまの心をもって公方さまの身を勝手次第に動かし、行かんとすれば「まれ」と言い、止まらんとすれば「行け」と言い
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「陰では公方くぼうのお噂もする。どうじゃ、殿のお腕前は? 真実のお力量は?」と、左太夫は、かなり真剣にきいて、じっと息をらして、右近の評価を待っているようであった。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
主人の主人にそむかせ、その主人の子供を自分が殺して主家を乗とり、公方くぼうを殺し、目の上のコブを一つずつ取って、とうとう天下の執政にとぐろをまいて納ったが、このやり方では味方がない
織田信長 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もと公方くぼうさまから戴いた物で、いえにも身にも換えられねえと云って大事にしている宝だから、毀した者は指を切れという先祖さまの遺言状かきつけが伝わって居るので、指を切られた奴が四五人あります
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
公方くぼうから下し置かれる内々の御褒美金てやつが、生やさしいものじゃげえせん、そこへ持って来て、月々のお手当が、隊長は新御番頭取の扱いとして月五十両——副長は大御番組頭として月四十両
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その前の年は観世の河原猿楽御覧、更には、これは貴方あなたさまよく御存じの公方くぼうさま春日社御参詣、また文正ぶんしょうの初めには花の御幸。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
いろ勝ちの臥床ふしどの上に、楚々そそと起き直っている彼女を一目見て、なるほど公方くぼうちょうをほしいままにするだけの、一代の美女だと思った。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「皇居にお近いから、ふと内裏をおおどろかせ申してもならぬ。しゅくとして、馬蹄喊声ばていかんせいをつつしみ、ただ横着公方くぼうの罪を責めればそれで足る——」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
詮議せんぎに来たんだ。どういう了見から七ところも捨て駕籠をやって、お正月そうそうお公方くぼうさまのお住まい近くを騒がせやがったか、その詮議に来たんだからね。
それが世間に知れ渡ると、公方くぼう様でさえも御参詣なさるのだからと云うので、また俄かに信心者が増して来て、わたくし共の若いときにも随分参詣人がありました。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「嫌になるぜ、親分。朝顔なんざ、たらいほどに咲かせたって、公方くぼう様から褒美が出るわけでもなんでもねエ。それより両国から代地へかけては銭形の親分の縄張内ですぜ」
もしってとのおおせならば、越前に代って、南町奉行を余人に申しつけ下されく、越前が、職におりまする限り、御老中の仰せ、公方くぼう様の仰せで御座りましょうとも
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
一、初鳥、初肴、公方くぼう様へさしあげ候事
公方くぼうさまのお顔を見る気があると思うているのであろうか? わたしは、そのような破目になったら、いつでも、いのちを捨ててしまう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
これは、この国だけの、地侍じざむらいの風儀ではない。公卿くげもそう。室町むろまち公方くぼうの武家たちもそう。総じてその頃の酒席の風だった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤入道(山名宗全そうぜん)なんぞは、とり分けて蔭凉の生涯失わるべしなどと、わざわざ公方くぼうに念を押しおる。それほどに憎らしいか、それほどに怖ろしいか。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
仔細もなしに半鐘をつき立てて公方くぼう様の御膝元をさわがす——その罪の重いのは云うまでもない。第一に迷惑したのは、その町内の自身番に詰めている者共であった。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
公方くぼう様の糸脈を引く——と大法螺おおぼらを吹くだけあって、なかなかの見識です。
救い難い公方くぼう——と、思ってか苦々しげであったが、むしろ、その義昭が、従順であるよりは、幸いのようにも思った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤入道(山名宗全そうぜん)なんぞは、とり分けて蔭凉の生涯失はるべしなどと、わざわざ公方くぼうに念を押しをる。それほどに憎らしいか、それほどに怖ろしいか。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
人参を飲んできっと癒るものならば、高貴のお方は百年も長命する筈だが、そうはならない。公方くぼう様でもお大名でも、定命じょうみょうが尽きれば仕方がない。金の力でも買われないのが人の命だ。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
公卿くげ公方くぼうとの間や、微妙な政治的のうごきもていて、これを信長のほうへ、ながらにでも、分るように諜報する機関ともならなければならない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このとき公方くぼう様より下された御喜捨はなんとただの百貫もんと申すではございませんか。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
そのうちに、朝倉と足利公方くぼうとの、密盟がむすばれ、甲州の信玄とも、叡山とも、あらゆる反信長聯盟の構成のうちに、いつか長政もひきこまれていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このとき公方くぼう様より下された御喜捨はなんとただの百貫もんと申すではございませんか。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
このおとこは、松永弾正だんじょう久秀という者で、もはやよい年でござるが、生涯、人にはできないことを三つなしとげておる。——第一は、足利公方くぼう光源院こうげんいん殿をころした。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「かような狭き寺門の内では、仮の御宿所とはいえ、公方くぼう様の御威厳にもかかわる」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかのみならず毛利家との聯携れんけいの越後上杉、甲州武田、叡山えいざん、本願寺などの盟国もみな亡び去って、それらの与国よこくも毛利家も一つの名分としてうたっていた旧幕府の形態も、公方くぼうという人物も
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ毛利家がいかに強大でも、公方くぼうの残存勢力を擁する三好党みよしとうがどんなに抗戦してみても、織田信長のまえには、到底、焼かれる燎原りょうげんの草でしかないことを、その信念で繰返したにとどまる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三好みよし氏は紀伊きい、伊賀、阿波あわ讃岐さぬきなどに、公方くぼう与力よりきと旧勢力をもっている点で無視できないが、これとて要するにことごとく頭の古い過去の人々であるばかりで、世をみだし民を塗炭とたんに苦しめた罪は
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公方くぼうが、逃げたそうな」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)