はち)” の例文
そうして釣竿を右と左とはちの字のように振込ふりこんで、舟首みよし近く、甲板かっぱのさきの方にわたっているかんこの右の方へ右の竿、左の方へ左の竿をもたせ
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あの廣々ひろ/″\とした富士ふじ裾野すそのには、普通ふつう登山期とざんきよりもすこおくれてはち九月くがつころには、ことうつくしい秋草あきくさがたくさんきます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
はちヶ峰というのは、鹿島槍ヶ岳と五竜岳との間にある山稜の一大断裂に名付けられた称呼であって、峰とは呼ばれているが実は隆起した地点ではない。
八ヶ峰の断裂 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
米「こう遣ってはア命を助かりまして達者で居りますも旦那様のお蔭で、一日でも旦那様のお噂ばかりして…鹿はちおい、の時お目にかゝった旦那様」
産所すなわち山陰地方でいうハチヤ或いはハチと同類で、越中でトウナイというのもつまりは「とうい」で、「はち」ということを避けた隠し言葉でありましょう。
すなは初期微動繼續時間しよきびどうけいぞくじかん秒數びようすうはちといふ係數けいすうけると、震原距離しんげんきよりおよそのあたひきろめーとるるのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
はちさア」百姓女はホッとしたように息をついて、「お、小浜の旦那が死んでるだアよ」
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
でも、三十五氏はまだいいが、三十六みそろく、三十しち、三十はち、それから三十はをかしい。
三十五氏 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしいつか知らず識らず芸術的衝動に支配されるくまさんやはちさんは亡びないね。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで平岡ひらをかはちせて、庭の模様を眺めしたが、不意に語調をへて
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大概お総菜そうざいなど、朝は、しばのお汁、中飯にはちハイ豆腐か、晩は鹿尾菜ひじきに油揚げの煮物のようなものでそれはつましいものであった(朔日ついたち、十五日、二十八日の三日には魚を付けるのが通例です)
うね/\とうすひかみづすぢかげえない船脚ふなあしなみ引残ひきのこされたやうなのが、あたままるとがどうながくうねり、あし二つにわかれて、たとへば(これ)がよこの(はち)の向合むかひあつて、みづうみなかばりやうしてうか
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おそらくこれもやはり「はち」と云う言葉を隠して、半分の「四ツ」と云ったのではないかと思われる。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
前様まえさまア丹波屋でまんまアたべて居たが、雨たんと降らねえうち段々人が出て来たが、まだ沢山客がえうちうらと此の鹿はちはすけえに並んで飯たべて居ると、お前様ア斯う並んで酒え呑んで
その「はち」の語を隠して、とおに足らぬ「十無とおない」だと、隠語で云ったのが本であろう。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)