仲店なかみせ)” の例文
前の仁王門におうもん大提灯おおじょうちん。大提灯は次第に上へあがり、前のように仲店なかみせを見渡すようになる。ただし大提灯の下部だけは消えせない。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浅草の観音堂について論ずれば雷門かみなりもんは既に焼失やけうせてしまったが今なお残る二王門におうもんをば仲店なかみせの敷石道から望み見るが如き光景である。
そこに立って右手の部屋を覗くと、狭い路次ろじから浅草の仲店なかみせるようなおもむきがある。実際仲店よりも低く小さい部屋であった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仲店なかみせの通りから宏大こうだいな朱塗りのお堂のいらかを望んだ時の有様ばかりが明瞭めいりょうに描かれ、その外の点はとんと頭に浮かばなかった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、あの、田圃たんぼ大金だいきん仲店なかみせのかねだをはしがかりで歩行あるいたひとが、しかも當日たうじつ發起人ほつきにんだとふからをかしい。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三月二十日の朝八時頃、浅草仲店なかみせの商家の若いおかみさんが、千住せんじゅ用達ようたしに行く為に、吾妻橋の汽船発着所へ来て、船を待合せる間に、今の便所へ入った。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
金五郎が立ち止まったのは、仲店なかみせの一軒に、たくさん並んでいるライターを見つけたからだった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
仲店なかみせはまだ縁台を上げたままの家も多かった。お庄は暗いような心持で、石畳のうえを歩いて行ったが、通りの方へ出ると間もなく、柳の蔭の路側みちわき腕車くるまを決めて乗った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
茶屋町で駕を降りる——そして二人は二人の湯女を連れて、いい身分でもありそうに、仲店なかみせから観音堂の界隈かいわいへわたる、羽子板市はごいたいちのすばらしい景気の雰囲気ふんいきにつつまれて行った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのは空に薄雲うすぐもがあって月の光が朦朧もうろうとしていた。人通りはますますすくなくなって、物売る店ではがたがたと戸を締める音をさしていた。仲店なかみせ街路とおり大半おおかた店を閉じて微暗うすぐらかった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから大神宮の大きな花崗石みかげの鳥居をくぐり(この鳥居は後で見たら、中央からポックリとふたつに折れていました。これは柳川やながわ力士雲竜久吉うんりゅうきゅうきちが納めたもので、その由を彫ってあった)仲店なかみせ
カンノン様を拝んで仲店なかみせへ出る。ヨシツネさんがふっと小さい声で
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
僕も今度は御多分ごたぶんれず、焼死した死骸しがい沢山たくさん見た。その沢山の死骸のうち最も記憶に残つてゐるのは、浅草あさくさ仲店なかみせの収容所にあつた病人らしい死骸である。
兄は仲店なかみせから、お堂の前を素通りして、お堂裏の見世物小屋の間を、人波をかき分ける様にしてさっき申上げた十二階の前まで来ますと、石の門を這入はいって
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「早く行こうよ。わたいお金持ちだよ。今夜は。仲店なかみせでお土産を買って行くんだから。」とすたすた歩きだす。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雷門から仁王門までの、今日の仲店なかみせの通りは、その頃はごく粗末な床店とこみせでした。
まさかと思うから、うむ、いとも大川へ流しッちまえ、といったが災難、仲店なかみせで買物をして、お前紙入は、というと、橋の上から打棄ったと言わあ。本当か、とばかりで真蒼まっさおになったとよ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これ? これはあたしが仲店なかみせへ行って自分で買ったの。どう?」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「早くかうよ。わたいお金持ちだよ。今夜こんやは。仲店なかみせでお土産みやげを買つてくんだから。」とすた/\歩きだす。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
サンドウィッチ・マンは年をとっているものの、どこか仲店なかみせを歩いていた、都会人らしい紳士に似ている。後ろは前よりも人通りは多い、いろいろの店の並んだ往来。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この悲みはお糸が土産物を買うため仁王門におうもんを過ぎて仲店なかみせへ出た時更にまた堪えがたいものとなった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅草あさくさ仁王門におうもんの中にった、火のともらない大提灯おおじょうちん。提灯は次第に上へあがり、雑沓ざっとうした仲店なかみせを見渡すようになる。ただし大提灯の下部だけは消え失せない。門の前に飛びかう無数のはと
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このかなしみはおいと土産物みやげものを買ふ仁王門にわうもんを過ぎて仲店なかみせへ出た時さらまたへがたいものとなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お豊は乗って来た車から急に雷門かみなりもんで下りた。仲店なかみせ雑沓ざっとうをも今では少しも恐れずに観音堂へと急いで、祈願をこらした後に、お神籤みくじを引いて見た。古びた紙片かみきれ木版摺もくはんずり
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とよは乗つて来た車から急に雷門かみなりもんりた。仲店なかみせ雑沓ざつたふをも今ではすこしもおそれずに観音堂くわんおんだうへと急いで、祈願きぐわんこらしたのちに、お神籤みくじを引いて見た。古びた紙片かみきれ木版摺もくはんずり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)