了見りょうけん)” の例文
この野だは、どういう了見りょうけんだか、赤シャツのうちへ朝夕出入でいりして、どこへでも随行ずいこうしてく。まるで同輩どうはいじゃない。主従しゅうじゅうみたようだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ、皆様も御承知の通り、拙者もこれで医者の端くれでございますが、医者は医者でも、ただの医者だと思うと了見りょうけんが違います」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
般若の面の男 見よう見真似みまねの、からざる踊りで、はい、一向いっこうにこれ、れませぬものだでな、ちょっくらばかり面をつけて見ます了見りょうけんところ
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一体自分は、なぜのように了見りょうけんがふわふわして居るのだろう。にもつかない事ばかり考えて居るのだろう。もっと心を
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分たちの助平の責任を、何もご存じない天の神さまに転嫁しようとたくらむのだから、神さまだって唖然あぜんとせざるを得まい。まことにふとい了見りょうけんである。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
了見りょうけんが変わり上野に行って、博物館を見たり、動物園を見たり、理屈もなく遊んでしまった日もある。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それまでは、これから、向島の待合に行って、芸者と遊んだ末、無理心中でもしようかという虫の良い了見りょうけんも起しかけていたのですが、ハッと冷水をかけられた気がいたしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
意気地いくじなしッ、そんな了見りょうけんでこれから先他人に負けずに一人前になれるか。落盤に押しつぶされた万里ワンリのことを考えて見ろ。何万とこの鉱山で殺された子供達のことを考えて見ろ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
……そりゃア悪い了見りょうけんだの、考えがちがう。……あなたを生かしておきたいばっかりに、伝四郎うじとやらが苦労する。それを……、それを、あなたが死んじまったんじゃア身も蓋もない。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
主人がやかましいから一応知っておかなければ、というような了見りょうけんではたかの知れたものであります。好きでおもしろく、楽しんで料理をおやりになられるまで進まれるように希望いたします。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
オヤ/\乃公おれは隠して置いた酒さえも何時いつ他人ひとしりの下にしかれてしまうのか、と自分の運命をのろったのです。詛うと言えばすごく聞えますが、実は僕にはそんなすご了見りょうけんた気力もありません。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
どういう了見りょうけんか侍のくせに、遊女屋の主人となって、目端めはしや才覚もくところから、伏見城の徳川家へ手づるを求め、江戸移住の官許を取って、自分ばかりでなく、他の同業者にもすすめて、続々と
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな事をかくと、何だか剽軽ひょうきん冗談じょうだんを云ってるようだがけっしてそんな浮いた了見りょうけんじゃない。本気に真面目まじめを話してるつもりである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな了見りょうけんでやってるんじゃありませんからね、商売でやってるんだから、当ることもありゃ、はずれることもありまさあね
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかもこのおれを疑ぐってる。はばかりながら男だ。受け合った事を裏へ廻って反古ほごにするようなさもしい了見りょうけんはもってるもんか。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この野郎、扇屋の女中部屋の寝像ねぞうにでも見恍みとれて、またよくねえ了見りょうけんを出したとみえるな、世話の焼けた野郎だ」
「いったいこりゃ、どう云う了見りょうけんだね」と自分で飾りつけた物をながめながら、御米に聞いた。御米にも毎年こうする意味はとんと解らなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頑入はお仕置のつもりであんなことをしたんだから、頑入ばかりが悪いと思っているとお前、了見りょうけんが違うよ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三下みくだはんを請求する方もその覚悟、やる方もその了見りょうけんだから双方共洒然しゃぜんとして形式のためにわずらわされないのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、お言葉でげす、なにもお前さんを苛めるのなんのと、そんな了見りょうけんで追いかけて来たんじゃござんせん、神野の旦那に頼まれて、男ずくでよんどころなく……」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それをこの二面がいつでも偶然平らに並行でもしているかのごとき了見りょうけんで、全体どっちが高いのですと聞かなければ承知ができないのは痛み入ります。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いったいどうしようてえんだ、このおいらと、馬とを、両方から挟み討ちにして、あの竹槍で突っつき殺さずにゃ置かねえという了見りょうけんか——それはいよいよわからねえ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
我々は生きたい生きたいと云う下司げすな念を本来持っております。この下司な了見りょうけんからして、物我の区別を立てます。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いけません、早くお引取り下さい、お引取り下さらなければ、こちらにも了見りょうけんがございますぞ」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何の故にこんな大きな机を新調して、また何の故にその上に寝て見ようなどという了見りょうけんを起したものか、本人に聞いて見ない事だからとんとわからない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よろしうございます、向うがその了見りょうけんなら、こっちもそのつもりで、先生の御用をつとめてつとめて、ぶちこわし役に廻るのも面白うございますね、ずいぶんやりましょう
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分の好きなものは必ずえらい人物になって、嫌いなひとはきっと落ち振れるものと信じている。おれはその時から別段何になると云う了見りょうけんもなかった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それをケチな奴等がねたんで悪口を言ったのが、すなわち近江泥棒、伊勢乞食となったのだ、ひとの成功をうらやむケチな了見りょうけんの奴が、得てして真面目正直の成功人種をとらえては
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
面白かった事、愉快であった事は無論、昔の不平をさえ得意に喋々ちょうちょうして、したり顔である。これはあえてみずかあざむくの、人をいつわるのと云う了見りょうけんではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どういう了見りょうけんか、今まで暗くしてあった大手の方へ向いた番所の室々へすっかり明りを点けて明るくしてしまい、自分はその部屋部屋をめぐって、処分の残るものはないか
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二三分して、細君は障子しょうじ硝子ガラスの所へ顔を寄せて、縁側に寝ている夫の姿をのぞいて見た。夫はどう云う了見りょうけん両膝りょうひざを曲げて海老えびのように窮屈になっている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
取って喰おうの煮て喰おうのという了見りょうけんはございませんと言った言葉を思い起しました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「まあ議論はいいが、それからどうするのだい」と東風君、ことによると、やる了見りょうけんと見えて筋を聞きたがる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あのお代官はお代官でまた極力、この自分を引留めて置きたい了見りょうけんが充分にある。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
禎二ていじさんが蒲団ふとんの横へ来て、どうですと尋ねたが、返事をするのが馬鹿気ばかげていて何とも云う了見りょうけんにならない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誰が——あきれ返っちまうな、あんまり白々しいんで呆れ返っちまうよ、現在、おいらが実地を見届けてるんだ、お前はいったいどういう了見りょうけんで、あんなことをやったんだ、さあ、返事を
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「血でもってふざけた了見りょうけんを洗った時に、第一義が躍然とあらわれる。人間はそれほど軽薄なものなんだよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「与八——お前はまた、何か了見りょうけんがあって、特にあの場所を所望するのかね」
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところへ寒月君が、どう云う了見りょうけんかこの暑いのに御苦労にも冬帽をかぶって両足をほこりだらけにしてやってくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この胴巻ぐるみ投げ込むことに、こうしてちゃんと了見りょうけんをきめてるんですよ
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その中で自分の叔父さんが一番偉いという答を寄こしたのがあると聞いてはなはだ面白く感じました。自分の親父が天下一の人物だなどは至極しごく好い了見りょうけんで結構です。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふしとても、繰返して申し上げるまでもなく、お聞きの通りの拙いものでございますから、とても神様をお悦ばせ申すのなんのと、左様なだいそれた了見りょうけんは持っておりませんのでござりまする。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこへ持って来て、たけのこを三本、景気にいたのは、どう云う了見りょうけんだろう。なあ甲野さん、これはなぞだぜ
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしが思うのには、お徳さんは今度は出かけられないかも知れませんわ、もしお徳さんが出かけられなければ、組のかしらはお浪さんになってもらわなければならないでしょう、まあお徳さんの了見りょうけん
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もっとも別段社からつけてくれたという訳じゃないんだが、本人の特志で社の用事をすっぽかす了見りょうけんらしい。そうしていつの間にか、ホテルへ馬車を云いつけている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どういう了見りょうけんだか知れたものではない——
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その結果だけがこう云う目的にかなっているだけでもいっこう差支さしつかえないのであります。我々が結婚するようなもので、何も必ず子を産む了見りょうけんで嫁を貰うとは限りません。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まあまあ了見りょうけんを聞いてみての上で
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
親しき友の、わが母を、そうと評するのは、面の内側で評するのか、または外側でのみ云う了見りょうけんか。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お前は了見りょうけんの悪い女じゃ」