一家いっけ)” の例文
矢島優善やすゆきが隠居させられた時、跡をいだ周禎しゅうてい一家いっけも、この年に弘前へうつったが、その江戸を発する時、三男三蔵さんぞうは江戸にとどまった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こう、おめえたちにゃ限らねえ。世間にゃそうした情無なさけねえ了簡な奴ばかりだから、そんな奴等へ面当つらあてに、河野の一家いっけ鎗玉やりだまに挙げたんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕の十六の時、父は東京に転任したので大塚一家いっけは父と共に移転しましたが、僕だけは岡山中学校の寄宿舎に残されました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
河上一家いっけの事を聞くつもりなら、わざわざ麻布あざぶくんだりまで出張する必要はない。河上を持ち出したのは河上対某との関係が知りたいからである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしまたあやまってマホメットしゅうモルモンしゅうなぞの木偶もくぐう土像などに近づく時は現当二世げんとうにせ御罰おんばちあらたかにして光輪ごこう火輪かりんとなし一家いっけをも魂魂こんぱくをも焼滅やきほろぼし玉うとかや。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「慾のない小伜こせがれめが。一家いっけ一族の面目ってことを知りくさらねえのか。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「先生、あのうどんやと一家いっけ(親類)かな?」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
園田一家いっけの者は朝から観菊行きくみゆき支度したくとりどり。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その中心にすわろうというさいなんだから、おおいに慎重の態度を取らんけりゃならんじゃないか。詰り一家いっけ女王クウィインなんだから
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
邸内にすまわせてある長尾の一家いっけにも、折々多少の風波ふうはが起る。そうすると必ず五百いおが調停にかなくてはならなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それでも一家いっけ無事に平和に、これぞという面白いこともない代り、又これぞという心配もなく日を送っていた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
手創てきず負いてたおれんとする父とたよりなきわれとを、敵の中より救いたるルーファスの一家いっけに事ありと云う日に、ひざを組んで動かぬのはウィリアムの猶好まぬところである。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浜町の鳥屋は、すぐつぶれた。小浜屋一家いっけは、世田ヶ谷の奥へ引込ひっこんで、唄どころか、おとずれもなかったのである。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日蓮宗にちれんしゅうの事だから、江戸の市人いちびとの墓が多い。知名の学者では、朝川善庵あさかわぜんあん一家いっけの墓が、本堂の西にあるだけである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
言うことを忘れて居ましたが、其頃は父が岡山地方裁判所長の役で、大塚の一家いっけは岡山の市中に住んでたので、一家が東京に移ったのは未だ余程後のことです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
代助の一家いっけはこれだけの人数にんずから出来上っている。そのうちで外へ出ているものは、西洋に行った姉と、近頃一戸を構えた代助ばかりだから、本家には大小合せて五人残る訳になる。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君の一家いっけは、およそどのくらいな御門閥ごもんばつかは知らん。河野から縁談を申懸けられる天下の婦人は、いずれも恥辱を蒙るようで、かねて不快に堪えんのだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これからかたばかりではあるが、一家いっけ四人のものがふだんのようにぜんに向かって、午の食事をした。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
元来叔父は余り海辺うみべを好まない性質たちなので、一家いっけのものは毎年軽井沢の別荘へ行くのを例にしていたのだが、その年は是非海水浴がしたいと云う娘達の希望をれて、材木座にある
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
内の都合で、生れると直ぐ音信いんしん不通の約束で他へ養女に遣わしたのが、年を経て風の便たよりに聞くと、それも一家いっけ流転して、同じく、左褄ひだりづまを取る身になったという。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔には一種の苦笑にがわらいのような表情が現われている。この男は山椒大夫一家いっけのものの言いつけを、神の託宣を聴くように聴く。そこで随分情けない、苛酷かこくなことをもためらわずにする。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
主人がこの禿を見た時、第一彼の脳裏のうりに浮んだのはかのいえ伝来の仏壇に幾世となく飾り付けられたる御灯明皿おとうみょうざらである。彼の一家いっけは真宗で、真宗では仏壇に身分不相応な金を掛けるのが古例である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三十有余人を一家いっけめて、信州、飛騨ひだ越後路えちごじ、甲州筋、諸国の深山幽谷ゆうこくの鬼を驚かし、魔をおびやかして、谷川へ伐出きりだす杉ひのきかしわを八方より積込ませ、漕入こぎいれさせ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一家いっけを挙げ、親族を尽し、腰弁当を提げて、早朝より晩夜まで、幾日間炎天に脳汁をられて、徒汗むだあせきたるともがらは、血眼ちまなこになりぬ。失望してほとんど狂せんとせり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余りの思懸けなさに、鴨川の一家いっけ、座にある三人、呆気に取られるひまもなく、とばかりに目を見合せた。中にも才子はその衝に当ったから、風がんだようにじっとする。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されば巨万の財産を挙げて娘の所有ものとなし、姉の下枝に我をめあわせ後日家を譲るよう、叔母はくれぐれ遺言せしが、我等の年紀としわかかりければ、得三はもとのまま一家いっけを支配して
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)