鵜呑うのみ)” の例文
「どこの主人も慾張よくばっておりますから、大層縁起がって、つるりと鵜呑うのみ。地震の卵と知れてからは、何とも申されぬ心持。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鵜呑うのみで大抵間に合う。間に合わんのは作文に数学ぐらいのものだが、作文は小学時代から得意の科目で、是は心配はない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おそるべき示唆を鵜呑うのみにしたのが明治二年十一月五日、岩倉右大臣邸で持たれた日英秘密会談のありようであった。
明治の五十銭銀貨 (新字新仮名) / 服部之総(著)
美妙はディッケンスもサッカレーも鵜呑うのみにした批評をしたが、紅葉はやはり難かしくて少しも解らないといった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それでもお延はお秀の手料理になるこのお世辞せじの返礼をさもうまそうに鵜呑うのみにしなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それもね、玄関番の歯太郎はたろうさんが噛砕かみくだいてよこしてくれればいいけれども、今朝なんぞは歯太郎さんが遊んでいてまるで鵜呑うのみだからね。その代りおかしい事があったゼ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と見てうちたちまち五六十りやう金子かね鵜呑うのみにしたからたまらない、悶掻もがき𢌞まはつて苦しみ出し。源
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
蜥蜴の体は最早トラの胃の中にあるに、切れて落ちた鋼鉄色こうてついろの尾の一片は、小さな一疋の虫かなんぞの様にぐるっといたりほどけたりして居る。トラめは其れも鵜呑うのみにして了うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
独逸哲学と一緒に、伯林ベルリンの汽車の時間表まで鵜呑うのみにしてゐる桑木博士なども
休日問題に限らず、何事にも欧米の慣習を鵜呑うのみにするのは危いと思われた。
かれ非常ひじやう讀書どくしよこのんで、屡〻しば/\倶樂部くらぶつては、神經的しんけいてきひげひねりながら、雜誌ざつし書物しよもつ手當次第てあたりしだいいでゐる、んでゐるのではなく間合まにあはぬので鵜呑うのみにしてゐるとふやうな鹽梅あんばい
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
無拠よんどころなく教程を鵜呑うのみにする結果は知識に対する消化不良と食慾不振である。
後から後からと他の学科が急立せきたてるから、狼狽あわてて片端かたはしから及第のおまじないの御符ごふうつもり鵜呑うのみにして、そうして試験が済むと、直ぐ吐出してケロリと忘れて了う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
つまり鵜呑うのみと云ってもよし、また機械的の知識と云ってもよし、とうていわが所有とも血とも肉とも云われない、よそよそしいものを我物顔わがものがおにしゃべって歩くのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
立向う山のしげりから、額を出して、ト差覗さしのぞさまなる雲の峰の、いかにそのすその広く且つ大なるべきかを想うにつけて、全体を鵜呑うのみにしている谷の深さ、山の高さが推量おしはかられる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仲間には、高村光雲氏の弟子で、泰雲といつた、蛞蝓なめくぢの好きな男もまじつてゐた。白砂糖にまぶして三十六ぴきまで蛞蝓を鵜呑うのみにしたといふ男で、悪食あくじきにかけては滅多にひとひけは取らなかつた。
かれ非常ひじょう読書どくしょこのんで、しばしば倶楽部くらぶっては、神経的しんけいてきひげひねりながら、雑誌ざっし書物しょもつ手当次第てあたりしだいいでいる、んでいるのではなく間合まにあわぬので鵜呑うのみにしているとうような塩梅あんばい
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
心配なのは数学の奴だが、それをも無理に狼狽あわてた鵜呑うのみ式で押徹おしとおそうとする、又不思議と或程度迄は押徹おしとおされる。尤も是はかねあいもので、そのかねあいを外すと、おっこちる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いくら鵜呑うのみにしたって咽喉に傷のできっこはあるまいが、その代り咽喉がいっぱいにふさがって、芋が食道を通り越すまでは呼息いきの詰る恐れがある。それを小僧はいっこう苦にしない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
沢はざるに並んだ其の柿を鵜呑うのみにしたやうに、ポンと成つた——実は……旅店りょてんの注意で、暴風雨あらし変果かわりはてた此のさき山路やまみちを、朝がけの旅は、不案内のものに危険けんのんであるから、一同のするやうに
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もはやこう成ッてはおだやかに収まりそうもない。黙ッてもていられなくなッたから、お鍋は一とかたけ煩張ほおばッた飯を鵜呑うのみにして、「はッ、はッ」と笑ッた。同じ心に文三も「ヘ、ヘ」と笑ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
エピクテタスなどを鵜呑うのみにして学者ぶるよりもはるかにましだと思う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)