うえ)” の例文
これが、お茶でない何かほかのもののつもりになどはなれないくらいでした。二人はうえも寒さも忘れ、すっかり楽しい気持になりました。
うえたり、しかしてのち世界億千万の食足らずして饑餓に苦しむを推察せり、(醍醐天皇寒夜にころもを脱して民の疾苦を思いし例を参考せよ)
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
うえ苛責かしゃくとに疲れ果てて、もはや助けを呼ぶ力もなく、わずかに顔を挙げて夢心地に、灯をかざしている救いの手の、誰彼の顔を眺めるのでした。
如何いかんとなれば、人間にんげん全体ぜんたいは、うえだとか、さむさだとか、凌辱はずかしめだとか、損失そんしつだとか、たいするハムレットてき恐怖おそれなどの感覚かんかくから成立なりたっているのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そりゃいけない。そんな事をしたならばきっとあなたは獄屋ひとやに入れられて、遂にはうえこごえとに死なねばならん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
広崎栄太郎という父の旧友が、賭将棋で勝った金十七銭也を持って来て、私の一家のうえしのがしてくれたのもその頃の事であったと、その後に父から聞いた。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
打ち明けて都合が悪いとは露思わぬが、進んで同情を求めるのは、うえせまって、知らぬ人の門口かどぐちに、一銭二銭のあわれみを乞うのと大した相違はない。同情はの敵である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はうえと寒さに抵抗しながら、疲れた足で絶望的な努力を続けているに違いないのだ。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
他方においては幾千万の人間は漸々ぜんぜん貧困となりうえに迫られてはだんだん安い給金にも甘んじて、牛馬のごとくに労働せざるを得ず、ついには露命をつなぐことさえ容易でなくなる。
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
何処どこからとも知れずひとつの石が飛んで来て其男の頭に命中あたり、即死する、そのために其男の妻子はうえに沈み、其為めに母と子は争い、其為に親子は血を流す程の惨劇を演ずるという事実が
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
されどひたすらに妾との別れを悲しみ、娑婆しゃばに出でて再びうえに泣かんよりは、今少し重き罪を犯し、いつまでもあなた様のおそばにてお世話になりたしなど、心も狂おしう打ちかこつなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いわんや数頭をあやめ、わずかに一頭のうえすくうべきものにおいてをや。その餓るやその勢必ずあいくらうに至らん。あに上世の虎は目今もっこんの猫のごとく、太古の熊は今日の犬のごとしというべけんや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
筒袖つつそで野袴のばかまをつけたのや、籠手こて脛当すねあてに小袴や、旅人風に糸楯いとだてを負ったのや、百姓の蓑笠みのかさをつけたのや、手創てきずを布でいたのや、いずれもはげしい戦いとうえとにやつれた物凄ものすごい一団の人でしたから
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
東京を焼かれた我我は今日のうえに苦しみながら、明日の餓にも苦しんでいる。鳥は幸いにこの苦痛を知らぬ、いや、鳥に限ったことではない。三世の苦痛を知るものは我我人間のあるばかりである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一時は朝夕にも差支さしつかえて幼き弟妹がうえに泣くほどのドン底に落ちた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
病犬やみいぬのように蹌々踉々そうそうろうろうとして、わずかの買喰かいぐいにうえをしのぐよりせんすべなく、血を絞る苦しみを忍んで、漸くボストンのカリホルニア座に開演して見たものの、乞食こじきの群れも同様に零落おちぶれた俳優やくしゃたち
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
家庭のうえは日に日にその身を実際生活に近づけて行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ほとんどうえが極まった。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
凶作の後の恐ろしいうえは、江戸中を濡れた灰のように冷たく不活溌にしてしまいましたが、吹屋町の後藤の屋敷は、栄華と歓楽が渦を巻いて居りました。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
かんし、うえしょくするはこの人格を維持するの一便法に過ぎぬ。筆をすずりするのもまたこの人格を他の面上に貫徹するの方策に過ぎぬ。——これが今の道也の信念である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兵書には蝮蛇まむし茯苓ぶくりょう南天なんてんの実、白蝋はくろう、虎の肉などを用い、一丸よく数日のうえを救うと言われている
中にはずいぶん馬鹿馬鹿しいのもありますが、十中八九は理詰めで、梅干大の兵糧丸が三つか五つで、少なきは半日一日、多きは三日七日のうえしのいだと伝えております。
それよりも気の毒なのは、幾十年の苛歛誅求かれんちゅうきゅうに、親子離散、夫婦別れ別れになる領内の百姓達、明日の米も無いまでに絞り取られた幾万人のうえを救うのが大事では御座らぬか
その時もたった一人で、打ち続く雨と、恐ろしいうえとにさいなまれ乍ら、それでも仲間のところへ救いを求めに行こうともせず、一張羅の筵を引っかついで、宵のうちから眠りこけて居ました。