造作ぞうさく)” の例文
その部屋は日本座敷に作ってあって、長押附なげしつきのかなり凝った造作ぞうさくだった。「もとは父の住む部屋に作ったのでございます」
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
の大きな、鼻の細い、唇の薄い、はちひらいたと思ふ位に、ひたひが広くつてあごけた女であつた。造作ぞうさく夫丈それだけである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
主人は近所の工場こうじょうか何かへつとめに行った留守るすだったと見え、造作ぞうさくの悪い家の中には赤児あかご乳房ちぶさを含ませた細君、——彼の妹のほかに人かげはなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここは地方から出て来た商売用の客を接待する座敷であるらしく、床の間、ちがい棚の造作ぞうさくもなかなか整っていた。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこは瀟洒しょうしゃ演戯しばいの舞台に見るような造作ぞうさくで、すこし開けた障子しょうじの前に一人の女が立っていた。それは三十前後の銀杏返いちょうがえしのような髪にった女であった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
障子しょうじ欄間らんま床柱とこばしらなどは黒塗くろぬりり、またえん欄干てすりひさし、その造作ぞうさくの一丹塗にぬり、とった具合ぐあいに、とてもその色彩いろどり複雑ふくざつで、そして濃艶のうえんなのでございます。
自分の描想びょうそう以上に、描かれた人物の性格などが、はっきりと出ていたりすると、その日一日は、顔の造作ぞうさくを崩して、自分でも恥かしいくらい、喜ぶのである。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
言い立てて、離屋は松前屋が娘にのこしたものだと申し、自分で造作ぞうさくを直して、ここに立てこもってしまいました
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
店の造作ぞうさくするに金が入るとかの為に少しの間女郎になれとか、抵当かたに書入れるとか云うなれば、夫婦相談で出来まいものでもないけれども、私は本当に呆れたよ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それに社長はもうお年の所為せいで頭の造作ぞうさくが多少いたんでいるから、物忘れをして同じことを幾度も話す。
社長秘書 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
が、両の眼を何げなさそうに走らせて、部屋の造作ぞうさくや置物、調度、さては手廻りの小道具へまで鋭い評価と観察を下すのに忙しかった。おろくが茶を持って這入って来た。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
どうも話の風向きが悪い、こうなって来ると、とゞのつまりは大事な顔の造作ぞうさくを切られることになるかも知れない。命はやっと取り止めたが、鼻だけは助かりそうもない。
「ずいぶん掛かるだろうなあ。コレ位の造作ぞうさく理髪屋とこやを一軒開くとなると……ええ?……」
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かなりきちんとしていて、造作ぞうさくなどもよく出来てはいましたが、家にあるものは何もかもぶざまでした。椅子いすも、絨氈じゅうたんの模様も、真四角で、柱時計まできびしい顔つきをしていました。
「色が白いだけ、さ——お前のおほびさしと顏の造作ぞうさくとが釣り合つてゐない。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
よろしゅうございます、それだけの絵図面で、造作ぞうさくと建具の細かいところは、しかるべき相棒あいぼうを見つけて俺共わっしどもの方で万事気をつけることに致しまして、早速、仕組みにかかることに致しましょう
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一口に云うとこうなるので『彼女は其眼を持っていたため、そうして其眼を活用したため、「めん」とならずに「女」となった』と……どうしたって女というものは、どうしたって顔の造作ぞうさくの中に
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船はいろいろ造作ぞうさくを加えられて、ある日の夕方、潮の満ち始めを見計って家の下の浜まで回されてきた。明日から一家のかてを得るための新しい使命をになって船は家族の一員のように迎えられた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
代地の方は建具造作ぞうさく入替いれかえ位にてどうにか住まへるかと存じ候へども場所がらだけあまり建込たてこ日当ひあたりあしく二階からも一向に川の景色見え申さず値段も借地にて家屋だけ建坪三十坪ほどにて先方手取一万円引ナシとは大層な吹掛ふっかけやうと存じ候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いや、主筆の葉巻は鼻と同じように顔の造作ぞうさくの一部分じゃなかろうかという疑問が起ったんです」
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わたくし此方こちらへお供をして参りましたが、何分御普請が此の通りでらちが明きませんし、建前たてまえが済んで造作ぞうさくになってから長くって、折角片付いてもまた御意に入りませんで
その頃の旅籠屋には押入れなどを作っていないのが普通であったが、この座敷は特別の造作ぞうさくとみえて、かたばかりの床の間もあった。それに列んで一間の押入れも付いていた。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
容貌ようぼうの印象は頬が豊かに、あごの骨が四角に突き出で、決して醜男ぶおとこではないけれども、顔の割り合いに目鼻口の造作ぞうさくが総べて大きく、いかにも沈毅英邁ちんきえいまいな豪傑の相たるにそむかない。
二階が押入、床の間附の六畳で、下が店の三畳に、便所に台所という猫の額みたいな造作ぞうさくでね。引かされたといっても自前になっただけで、お座敷はやっぱり勤めさせられていた。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
能弁なる彼は我輩に一言の質問をもさしはさましめざるほどの速度をもって弁じかけつつある。我輩は仕方がないから話しは分らぬものとあきらめてペンの顔の造作ぞうさくの吟味にとりかかった。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう言いながら、老人は、いちはやく、倒れた遣戸やりどの向こうへとびのいて、すわと言えば、逃げようとするけはいを示しながら、紫がかった顔じゅうの造作ぞうさくを、憎々しくゆがめて見せる。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これも立派な造作ぞうさくでした。
造作ぞうさくのつかない広い空家あきや洋灯ランプともしてすまっているのかと思った。這入るとすぐの大広間に置いてあったオルガンさえ、先の持主が忘れて置いて行ったものとしか受取れなかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今更鼻が缺けたぐらいに驚くことはなかろうから、そんなに耻ずかしがるには及ばない、弓矢取る身に大切なものは容貌よりも精神にある、顔の造作ぞうさくがちっとやそっと破損していても
っかあには月々五両ずつ小遣こづかいを贈ろうと云ったが、毎月々々まいげつ/\送ったことがあるか、やれうちを越したの、やれ品物を仕入れるの、店を造作ぞうさくするのと云って丁度金を送ったことはありゃアしねえ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)