逆茂木さかもぎ)” の例文
石弩いしゆみ、針縄、逆茂木さかもぎなどで守られた柵門さくもんを三つも通って、一群の百姓と縄付きの大坊主が、大勢の賊に前後をかこまれて登って来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜻蛉とんぼでも来て留まれば、城の逆茂木さかもぎの威厳をいで、抜いて取ってもつべきが、寂寞じゃくまくとして、三本竹、風も無ければ動きもせず。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
義仲勢は、宇治も勢多も橋板をはずし、川底に乱杭らんぐいを打ちこみ、そこへ縦横に大綱を張り廻らし、またこれに逆茂木さかもぎをつないで流してある。
本間、渋谷の手の者が、真っ先立って突き進み、堀の中へこみ入りこみ入り、忽ち切岸きりぎしの下まで押し進み、逆茂木さかもぎを引きのけ打ち入ろうとした。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
挙げてさしまねかるることもあらば返すにこまなきわれは何と答えんかと予審廷へ出る心構えわざと燭台しょくだい遠退とおのけて顔を見られぬが一の手と逆茂木さかもぎ製造のほどもなくさらさらときぬの音
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
こうしてムクの歩み行く方向を見ると、暗い中でも物を見るに慣らされた眼が、ハッキリと、自分のこしらえた生田いくたの森のへいと、それからき出した逆茂木さかもぎへと続いて行きました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吹き通しも夏はせいせいして心持ちがいいものだ、不用心だって金のないところに盗難のあるはずはない。だから主人の家に、あらゆるへい、垣、乃至ないし乱杭らんぐい逆茂木さかもぎの類は全く不要である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
逆茂木さかもぎがしつらえてあるので、頭をれて、入ろうとしたが、入れそうもないので、恨めしそうに佇んで、ジッと見詰めている、私たちは逆茂木と牛の間に割り込んで、身を平ったく、崖につけて
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ねじけくねった木がその間に根を張り枝を拡げて、逆茂木さかもぎにも似ているが、それがなければ到底とても登れぬ場所がある。岩壁や木の根には諸所に氷柱つららが下っていた。雨の名残りのしずくが凍ったものであろう。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ふところ深くつけ入ってつばぜり合いといこうとそのまま、飛び込んで来る……そこを! 腰をおとしざま、逃げるように退った喬之助、低めた剣を立て直して、つるぎの逆茂木さかもぎ、下正眼につけたうえ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「水練の達者なものは名のりでよ。河底へもぐって、逆茂木さかもぎへ縦横に張りめぐらしてある荒縄をち切れ。——われと思わんものはないか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城の前には、能美河のうみがわ新道しんどう河が流れ、この二つの川の落ち合うところは、大木をって逆茂木さかもぎとし、水流をせき止めるために杭を打ち渡した。
根を掘上げたばかりと思う、見事な蓮根がさく内外うちそと、浄土の逆茂木さかもぎ。勿体ないが、五百羅漢ごひゃくらかん御腕おんうでを、組違えて揃う中に、大笊おおざる慈姑くわいが二杯。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ところでおとしあなは掘ったかな? 逆茂木さかもぎをうんとこさこしらえて置け!」またも銅兵衛わめき立てる。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
逆茂木さかもぎから海辺へかけての生田の森が、ワッと喚声でわき上ったことです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「このたびは、そちの部下のみで、小勢になるぞ。その小勢をまぎらすため、敵の逆茂木さかもぎ、道の木々、所きらわず、火をかけろ、火を用いろ!」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一時ひとしきり、芸者の数が有余ったため、隣家となりの平屋を出城にして、桔梗ききょう刈萱かるかや女郎花おみなえし、垣の結目ゆいめ玉章たまずさで、乱杙らんぐい逆茂木さかもぎ取廻し、本城のてすり青簾あおすだれは、枝葉の繁る二階を見せたが
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木戸をしつらえ、逆茂木さかもぎを植え、関を設けた玉置たまきの荘司の、物々しい館が遥かあなたに、木立ちの間にすけて見える、そういう地点まで辿りついた時には、昼を少し過ごしていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人は馬にも乗らず藁草履わらぞうりをはき、弓杖をついて、その夜城内へ忍び入った。生田の森の逆茂木さかもぎを乗り越えて城の中へ乗りこめば、星空の夜に城郭はおぼろにかすみ、お互の鎧の色さえも見えぬ。
そこは、また、石岡へ出る道路みちすじでもある。当然、そこへも万一をおもんぱかって、逆茂木さかもぎを仕掛けておいたはずであるのに——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これぞ、自然おのずからなる要害、樹の根の乱杭らんぐい枝葉えだは逆茂木さかもぎとある……広大な空地じゃな。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空濠からぼり逆茂木さかもぎなどの工はただちに止めさせたがいい。敵は三万にちかい大軍と聞きおよぶ。途上、あんじてまいったが、ここは守るに利のある地形とも見えぬ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渭水いすいの流れもかれるほど、魏の軍馬はいちどに浅瀬へ馳け入った。一ヵ所や二ヵ所ではない。蜀軍はもちろん逆茂木さかもぎを引き、要所要所は防寨ぼうさいで固めている。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加うるに、干潟にも、逆茂木さかもぎやら粗朶垣そだがきやらの障害はあったろうから、新田勢がここでの死闘は、これまでの、どこの戦闘よりは苦しかった。おそらくは義貞も、心中
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも平家方では、夜来の情勢に緊張して、寝もやらず諸所にかがりを焚き明かしている。陣所陣所の仮屋、はためく幕、城戸きど逆茂木さかもぎなど、美しいばかり明滅して見える。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのため寄手は自分たちが設けておいたさく逆茂木さかもぎにさまたげられ、道にふみ迷い、あるいは谷にころげ落ち、十万余騎の攻囲軍も、残り少ないまでに討たれてしまった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜ注意したといえば、あそこは逆茂木さかもぎの柵も古く、城壁も修理したばかりで、かわらは古いのと新しいのと不揃いに積み畳まれている。……要するに、防塁の弱点が見えるのです
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呂布は、城をめぐる泗水の流れに、逆茂木さかもぎを引かせ、武具兵糧も、充分城内に積み入れて
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか。……城外の河には逆茂木さかもぎをうちこみ、縄を張りめぐらし、鈴をゆわいつけ、岸には高くさくを結いまわしてある寄手の警備に恐れて、所詮しょせん、そちには突破できぬというのか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敗軍をひきまとめた曹操は、河を隔てて岸一帯に逆茂木さかもぎを結いまわし、高札を立てて
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしろには大山たいざんがそびえ、その麓をめぐる三十余里の官渡の流れは、自然のごうをなしている。曹操は、その水流一帯に、逆茂木さかもぎを張りめぐらし、大山の嶮に拠って固く守りを改めていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南皮城なんひじょうの八門をとざし、壁上に弩弓どきゅうを植え並べ、濠には逆茂木さかもぎって、城兵の守りはすこぶる堅かったが、せては返し、襲せては返し、昼夜新手を変えて猛攻する曹軍の根気よさに
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「甲賀坊、矢頃やごろの所へ逆茂木さかもぎは」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)