からだ)” の例文
そんな状態でからだがつかれていたのか、尾崎さんはもう秋になろうとしている頃、国から出て来られたお父さんと鳥取へ帰って行かれた。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
夫人は、灯もない夕暮の自室に、木乃伊ミイラのようにせ細ったからだを石油箱の上に腰うちかけて、いつまでもジッと考えこんでいた。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
なさけない……なになにやら自分じぶんにもけじめのない、さまざまの妄念もうねん妄想もうそうが、暴風雨あらしのようにわたくしおとろえたからだうちをかけめぐってるのです。
真向と脾腹ひばらを存分に斬られて、二人のからだまりのように飛ぶ、と見た次の刹那には、三樹八郎の躰は左手の一団のまっただ中へ
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
見る見る、錦子の耳朶みみたぶが、葉鶏頭はげいとうのような鮮紅あかさの色になって、からだをギュッと縮め、いよいよ俯向うつむいてしまった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
きみごろからだは何うかね。」としばらくして私はまた友にたづねた。私たちふとかならどツちかさきの事をく。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
葉子の好きな言葉のない映画よりも、長いあいだ見つけて来た歌舞伎の鑑賞癖が、まだ彼のからだにしみついていた。暗くて陰気くさい映画館にはなじめなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
途端に「あッ」という悲鳴が起こり、刀をふりかぶったまま、鶴吉はからだねじりましたが、やがて、よろめくと、ドット倒れました。脇腹わきばらから血が吹き出しています。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
思想の重圧のために眠りがたいからだには、起つてロココ風の肘掛椅子に腰を下ろすことが必要である。
忠告 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
そのうち、濠端ほりばたると、くるまかずすくなくなり、やなぎかぜになびいていました。そしてガードのしたに、さしかかると、つめたいかぜいてきて、からだがひやりとしました。
隣村の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
足にふむ力なきゆゑおのれがちからにおのれからだ転倒ひきくらかへし、雪の裂隙われめよりはるかの谷底へおちいりけるが、雪の上をすべり落たるゆゑさいはひきずはうけず、しばしは夢のやう也しがやう/\に心付
熱いからだや紅い唇、切ないあえぎなどを。それを忘れるために、彼は心で念じた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ただからだは強健で、性格は強く、頭も鋭く、男まさりのところがあります。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
湯に馴染なじめそうには見えず、花のしぼむような気の衰えが感じられるのだったが、湯を控えめにしていても、血の気の薄くなったからだに、赤城あかぎおろしの風も冷たすぎ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一尺足らずの獲物ながら、名人の構えた扇であった、浪之助にはその扇が、差しつけられた白刃より凄く、要介のからだがそれの背後に、悉皆すっかり隠れたかのように思われた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おそらく萩の廊下で袂へ入れられたものだろう、とすれば自分はその人を見たかもしれない。——奈尾のからだをしびれるような感覚がはしり深いあえぐような溜息ためいきが出た。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
廓の女でも、からだは売っても心は売らないと、口はばったく言えた時代で、恋愛遊戯などする女は、まだだいぶすけなかったのだ。——すけなかったというので、なかったとはいえない。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
錦糸堀でも、裏に小体こていな家を一軒、その当座時々からだを休めに来る銀子の芸者姿が、近所に目立たないようにと都合してあるのだったが、今はそれも妹たちが占領していた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ふと人の気勢けはいを感じたので、からだおおうている草の間から、わたしはそっちを眺めました。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……彼らはいま互いにからだを寄せ合い、来太の眠りを護るかのように沈黙した。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
昼間葉子は庸三の勧めで幌車ほろぐるまに乗って町の医院を訪れ、薬をもらって来たのであったが、医者は文学にも知識をもっているヒュモラスな博士はかせで、葉子のからだをざっと診察すると
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「切れ——ッ」と差し出したのは娘のからだ
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どうです、いいからだでしょう旦那」
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)