跡形あとかた)” の例文
その跡形あとかたが残っているのか、両方の氏神様うじがみさまに特別厳重な工作が認められる。扉に大きな錠前が七つかけてある。これにも経緯いきさつがある。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
神樣にも流行廢はやりすたりで、今は跡形あとかたもありませんが、その頃大變流行つた徳藏稻荷の門前は、何があつたのか、朝から黒山の人だかりです。
かぜは、ますますつよいてきました。くろくもると、せっかく、のぞいたきよらかなほしひかりも、跡形あとかたもなくかくしてしまいました。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
棺桶かんおけなぞは無論、跡形あとかたもなく腐って、ただバラバラの白骨が、小さく固っているのが、星の光りでほの白く見えるばかりです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
カロチ教授たちは、みんな死滅しめつしてしまって跡形あとかたもない。川上、山ノ井の二少年だけはさいわいにも一命を拾った。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
直線から成る割菱わりびし模様が曲線化して花菱模様に変ずるとき、模様は「派手はで」にはなるが「いき」は跡形あとかたもなくなる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「それは、ぽつりとやんで跡形あとかたもないのだから、こいつ、我々の来ることを知って、怖れをなして隠れたな」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
申せしに長庵儀右樣の金子預りし覺え無之ことあひしこともなきひとなりとて更に取合申さず餘りのことに千太郎段々と掛合に及び候處かへつて長庵大いに立腹りつぷくなし跡形あとかたも無事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親兄弟もある人物、出来る限り、手を尽くして捜したが、皆目跡形あとかたが分らんから、われわれ友だちの間にも、最早もはや世にない、死んだものと断念あきらめて、都を出た日を命日にする始末。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此間このあひだむかふの土手にむら躑躅つゝぢが、団団だんだんと紅はくの模様を青いなかに印してゐたのが、丸で跡形あとかたもなくなつて、のべつに草がい茂つてゐる高い傾斜のうへに、大きなまつが何十本となく並んで
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
奈良の大仏よりは一丈ほど小さいが、鎌倉の大仏よりよほど大きなもの、今日では佐竹の原も跡形あとかたなくちょっと今の人には想像もつかないし、無論その大仏の影も形もあることではない。
「おのれを知り、敵をはかるためには、どこの国とも睨みあわせておらねばならぬ必要からです。——武田に比せば中国の毛利というものは、なかなか跡形あとかたもなく亡ぼし去ることはできません」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾日いくにちかののちねむまち」にきました。けれども、いつのまにかむかしたような灰色はいいろ建物たてもの跡形あとかたもありませんでした。
眠い町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「しかし博士の部屋は、跡形あとかたなくなってしまったので、博士はもうそこにはいられず、或るところへ移った」
大岡殿打聞れ斯ては長庵其方のいつはりに相違なし子宮病まへのやまひと有ばよも奸通かんつうは致されまじ然る上は其方先月密會みつくわいをり忠兵衞に見顯はされしと言ひしは跡形あとかた無事なきことならんと言はれるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし、あの海を畳同様に心得ている奴等が、ああやってオゾケをふるうのだから、全く跡形あとかたのないことでもあるまい。何か怪しいものか、見慣れないものが、この浦に漂いついているかも知れぬ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しや、昨夜ゆうべの幽霊の足跡はついていないかと行って見ると、ほんのそれらしい跡形あとかたもなかったという。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
相勤めます殊に惣内歸役きやく相談さうだんの儀などは一向承まはりし事も御座なく假令右體の儀御座ればとてそれを遺恨ゐこんに思べきはずもなく右體の儀は跡形あとかたもなきいつはり事と存ずると云語を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そうすれば、あのおそろしいくるまや、うまにふまれて、わたしのからだは、跡形あとかたもなくくだかれてしまうでしょう。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けるのをちました。やがて、あらしの名残なごりをとめた、鉛色なまりいろあさとなりました。浜辺はまべにいってみると、すでにはこなみにさらわれたか、なんの跡形あとかたのこっていません。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うみみずはますますしてきて、そののうちに、とうものみつくしてしまいました。くるになると、一めんうみとなっていました。もう、むかしまち跡形あとかたもなかったのです。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
全く昔の建物は跡形あとかたもなく亡びている。旧家の人々は何処にいるか? 座敷牢に入れて人目に触れさせるのを恥じたという、凄い美しい不思議な娘は、姿を何処に隠しているか。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)