質朴しつぼく)” の例文
ジェレミアス・ゴットヘルフは、もう愛し合わなくてたがいに監視し合ってる夫婦の痛ましい状態を、無慈悲な質朴しつぼくさで描いている。
それも併し、此上もなく質朴しつぼくで地味な單衣に包んで、化粧さへも忘れた、お關の底光りのする美しさには比ぶべくもありません。
いかにも厳然とした口調でいうと、質朴しつぼくな百姓どもは、神財配分の恩にひれふして、きっと誓約にたがわぬことを口々に答えるのでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見かけはどう見直しても質朴しつぼくなお百姓に過ぎないこの男、義気だか、客気だか分らないが、飛んで火に入る勇気を十二分に持ち合わせている。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして、このとき梅の花は、その中央に雌芯雄芯めしべおしべの色や、ふくらんだ褐色かっしょくつぼみと調和して、最も質朴しつぼくに見え、古典的クラシックな感じを与えるのです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
東北のなまりを感じ、質朴しつぼくなその人柄に深く心を打たれたが、その山本正雄が岡田良造であったことを太田はずっと後になって何かの機会に知ったのであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
彼女はこんな女にどうしてあんなつるのような娘が出来たかと思われる、むくつけな婆さんであったが、それでも話の様子には根からの廊者でない質朴しつぼくのところがあって
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
讀むとき程彼のよい聲が美しくまた張りのある響になつたことはなかつた——また彼の態度がひんのいゝ質朴しつぼくさの内にそんなに感銘を與へるやうになつたこともなかつた。
酒を飲み宴を開くの風を生じ(元来飲酒いんしゅ会宴かいえんの事は下士に多くして、上士はすべ質朴しつぼくなりき)、ことに徳川の末年、諸侯の妻子を放解ほうかいして国邑こくゆうえすの令をいだしたるとき
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「代地様代地様ちょっと来てくだされ」——と、玄関に近い部屋から、男の答える声がしたが、すぐに襖をあける音がして、二十八、九歳の質朴しつぼくらしい、代地という武士が姿を現わした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
質朴しつぼくあいするに堪へたり、余炉辺にし一客にふて曰く、是より山奥にいたらば栗樹くりありや否、余等一行探検たんけん中途ちうとにして飢餓きがおちゐることあらん乎、栗等の果実くわじつりて餓死がしのがれんとすと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
これらも又輴哥をうたうてかへるなど、質朴しつぼく古風こふう目前もくぜんそんせり。
男の子が二人、女の子が一人あった。長男の太郎は質朴しつぼくで素直で、よく家業に精を出した。二番目の女の子は大和やまとの人から嫁にもらわれて、大和にかたづいた。三番目の子に豊雄というのがあった。
しかし彼らは今の学生にない一種質朴しつぼくな点をその代りにもっていたのです。当時私の月々叔父からもらっていた金は、あなたが今、お父さんから送ってもらう学資に比べるとはるかに少ないものでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそれ以上に、このさり気ない質朴しつぼくな武家娘が、どうして自分を見込んだかと——ふと恐ろしいような心地もしていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百姓のように狡猾こうかつ頑固がんこで、根は正直だが小心翼々たるところはなく、非常な働き者で快活であって、ずるい質朴しつぼくさや露骨な話しぶりや財産などのために
極めて古風な質朴しつぼくそのものでござる、人を信ずることのみを知って、疑うということを知らない、旅人に危険を与えざるのみか、旅人を愛すること、至れり尽せりですが、それだけ
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これらも又輴哥をうたうてかへるなど、質朴しつぼく古風こふう目前もくぜんそんせり。
自分が学生時代の質朴しつぼくさに比べていろいろ話した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
独立独歩と、不平家気質と、偉大にたいする軽蔑とを、彼はよく装っていたけれども、しかも富や、権勢や、名誉や、社会的優越にたいして、質朴しつぼくな賛嘆の情をもっていた。
月あかりをけているが、やつれた姿すがたがかげでもわかる。年は三十五、六、質朴しつぼくらしい木綿着物もめんぎもの、たくさんの子供をうんだ女と見えて、大きなちちが着物の前をふくらましている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえって、極めて質朴しつぼくにして、好意に満ちた親切を表わしてくれました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分じぶん學生時代がくせいじだい質朴しつぼくさにくらべて色々いろ/\はなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
祖父は鉛筆の大きな字体で、各章を読んだり読み返したりした日付を、書き入れていた。黄ばんだ紙片がいっぱいはさんであって、それには老人の質朴しつぼくな感想がしるされていた。
「見れば、質朴しつぼくそうな坂東巡ばんどうめぐりの者、道にまよってきたものならば、深くはとがめないが、一おう吟味ぎんみの上でなくてははなしてやるわけにはゆかない。しばらくそこでひかえていろ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ドコまでも質朴しつぼく田舎者いなかもので、前髪がダラリと人のよいかおつきの広い額の上にさがっているところは、もうかれこれ二十歳はたちであろうのに、どこかに子供らしいところがあり、草鞋わらじがけでかなりの道中を
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
クリストフは祖父から大人並に話しかけられるのを感謝していて、その質朴しつぼくな言葉に内心動かされた。彼の子供らしい堅忍と生まれながらの傲慢ごうまんとは、その言葉をよく受けいれた。
みな艱苦かんくによく耐え、質朴しつぼくにしていやしからず、気骨稜々きこつりょうりょうたかのごとき概を感じるが、正信は、素朴にして、言語温和、人に接してかどがなく、しかもどこかにふくみのある腹据はらずわりがうかがえる。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この駕籠舁かごかき海道筋かいどうすじの雲助と違って、質朴しつぼくなこの辺の百姓。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると彼は気分を和らげ、それらの人々に晴やかな顔を見せた。その上に、水上の麗かな午後、舟をぐ楽しさ、質朴しつぼくな人々の快活さなどは、ついに彼の不機嫌さをすっかり消散さしてしまった。
質朴しつぼくな山家ことばで、その岩の近くで兄弟の虚無僧が返り討ちにされたという古い話や、この絶壁の下の渓流を星影川ということなどを、問わず語りに話してやまないものですから、二人もつい
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)