見初みそ)” の例文
「何でも、町芸妓まちげいしゃだったということだが、詳しいことは誰も知りませんよ。荻野左仲様が見初みそめて三千五百石のお部屋様に直して——」
菊太郎君は虎の門で女学生を見初みそめたのだった。注意を学問に払わないで妙な方面へ向ける。心得が違っているから仕方がない。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この時宗右衛門は安を見初みそめて、芝居がはねてから追尾ついびして行って、紺屋町の日野屋に入るのを見極めた。同窓の山内栄次郎の家である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すると本所ほんじょ北割下水きたわりげすいに、座光寺源三郎ざこうじげんざぶろうと云う旗下が有って、これが女太夫おんなだゆうのおこよと云う者を見初みそめ、浅草竜泉寺りゅうせんじ前の梶井主膳かじいしゅぜんと云う売卜者うらないしゃを頼み
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
江戸ものおぼしき見目うるわしき女子を見初みそめ、この七年間、何ものにも眼をくれず、黄金のみ追い来りし文珠屋佐吉もんじゅやさきち
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし今度の場合のやうにる若い男が娘を見初みそめて、それを自身の両親に打明けて、さて話の第一歩が当方に向けられたといふやうな成立の婚約は
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
どこで見初みそめたものか今の奥さんに思い付かれて夢中になったらしく、とうとう子爵家へ引っぱり込んでしまった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あいつがまだ浅草田原町たわらまちの親の家にいた時分に、公園で見初みそめたんだそうだ。こう云うと、君は宮戸座みやとざ常盤座ときわざの馬の足だと思うだろう。ところがそうじゃない。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
じて蛇になった例は、陸前佐沼の城主平直信の妻、佐沼御前やかたで働く大工の美男を見初みそめ、夜分ねやを出てその小舎を尋ねしも見当らず、内へ帰れば戸が鎖されいた。
私は、この「服装」でスカラ・サンタへおまいりしたわけではありませんが、私の尾行者は、どこかで私を見初みそめて、それから、この尾行を始めたものに相違ありません。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そのお君を別にして……まさか米友を見初みそめて附文つけぶみをしようという女があろうとは思われません。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そもそも人間の生涯に思想なる者の発萌はつばうし来るより、善美をねがふて醜悪を忌むは自然の理なり、而して世に熟せず、世の奥に貫かぬ心には、人世の不調子不都合を見初みそむる時に
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
友達は年久しく恋していた女をば、両親の反対やら、境遇の不便やら、さまざまな浮世の障害を切抜けて、見初みそめて後の幾年目、やッとの事で新しい家庭を根岸ねぎしつくったのだ。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
色廓くるわはつい程近く絃歌は夜々に浮き立ちて其処此処そこここの茶屋小屋よりお春招べとの客も降るほどなれど、芸道専一と身を占めて、ついぞ浮名うきなも流さぬ彼女も、ふと呉羽之介を見初みそめてより
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
きゝなされませ書生しよせい千葉ちば初戀はつこひあはれ、くにもとにりましたときそと見初みそめたが御座ござりましたさうな、田舍物いなかものことなればかまこしへさして藁草履わらぞうりで、手拭てぬぐひに草束くさたばねをつゝんでと思召おぼしめしませうが
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ジョージ・モルガン氏、お雪さんを見初みそめたのは、勘平さんの年ごろだったが、その時卅四歳、まとまりそうでなかなかまとまらないのでオスヒスとなって、ある晩、ピストルをポケットに忍ばせ
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
嵯峨さがやおむろの花ざかり、浮気な蝶も色かせぐ、くるわのものにつれられて、外めずらしき嵐山、ソレ覚えてか、きみさまの、袴も春の朧染おぼろぞめ、おぼろげならぬ殿ぶりを、見初みそめて、そめて、恥かしの
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徳三郎の優姿やさすがた見初みそめて、顔をあんずのやうにあかくした。
君を見初みそめたそのころ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「仲人に行って先方むこうのお母さんを見初みそめちゃ済まないが、実際の話、あれじゃ若い時が思いやられます。ヘッヘヽヽって、君のような笑い声だったよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのお菊が、大名に見初みそめられて下屋敷に上がることになってからというものは、人を人とも思わぬのさばりようで、さすがの私も見るに見兼ねました。
例の殺生石せっしょうせきの伝説で名高い、源翁げんおう禅師を開基としている安穏寺あんおんじに預けて置くと、お蝶が見初みそめて、いろいろにして近附いて、最初は容易に聴かなかったのを納得させた。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
どうかした拍子に或る一人の男を見初みそめたとする……寝ても醒めても会いたい、見たい……一緒になりたいといったような事ばかりを繰返し繰返し考え続けて行く事になると
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ウチの親玉の女狩りにもたいていあきれるじゃありませんか、きのう、市場でもってちょっと渋皮のむけた木地師の娘かなにかを見初みそめてしまったんですとさ、そうして、草の根を分けて
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山だろう——このあいだの山の旅で、何か知らねえが、おんなを見初みそめて来たのだ、と与助、おかしいが笑いもならず、それにしても、いったい何しに山などへ? と胸の隅で不審いぶかりながら
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕のところほどのことはないにしても、わば旧家の端くれだ。東金君のお父さんが町の大金持の娘を嫁に貰ったのでも分る。好男子だから見初みそめられたのだという。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
野幇間のだいこのような千三つ屋が、とんだ良い娘を持っていることや、その娘が、同じ町内の千両分限、米屋では神田でも屈指と言われた、出羽屋伝右衛門のせがれ伝次郎に見初みそめられたとか
「僕は一度とても豪いのを見初みそめかけたことがあるよ。身分が違い過ぎると諦めが早い」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
上総国かずさのくに勝浦一万一千石の領主植村土佐守、遠乗りの帰りお楽の茶店に立寄り、お菊を見初みそめて、下屋敷へ入れることになり三百両の支度金まで出しましたが、それほどの事が、いくら隠しても
嫁入りも婿取りもあきらめていると、江戸で五番とは下らぬ大町人室町の清水屋総兵衛の倅総太郎が見初みそめて、人橋ひとはしけて嫁にくれるか、それがいやなら、持参金一万両で婿に来てもいいという話だ。
「結構さ。それに社長の方で見初みそめたんだから、恋女房だ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あの時長男の方が安子を見初みそめたらしいのよ」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
見初みそめたって次第わけだね」
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)