蔑視べっし)” の例文
事物の底に徴するためには、世間体や、礼儀や、遠慮や、人の心を窒息せしむる社会的虚飾などを、あえて蔑視べっししなければいけない。
私は一人の婦人教育家をも加えない教育会議というものは全く世界の趨勢すうせいを透察せず、日本の女子を蔑視べっしした不親切きわまる組織だと考えます。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
あるいははなはだしくこの国を蔑視べっししたる外国人の説に従えば、「とても日本の独立は危し」と言いて、これをかたんずる者あり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ところが、あなたはどなるばかりじゃない、煙草までふかしておいでになる。それは僕ら一同を蔑視べっしすることになります」
もし平民の子供にして華族の子供に対し怒りの余りに尊敬語を用いずして対等語あるいは蔑視べっしした言葉を用います時分には
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
と、村重も陰で、光秀を口ぎたなくののしった。いったい以前から彼は明智光秀とか細川藤孝という文化人的なにおいのある武将をひどく蔑視べっししていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾家わがやへ帰るべきを忘れたのをうらんだも好いが、相手の女が稲荷様の禰宜ねぎの女というので、杉村ならば帰ったろうにと云ったのは、冷視と蔑視べっしとを兼ねて
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ユダヤ人とサマリヤ人とは互いに他を蔑視べっしして、平生交際せざる間柄であったから、ユダヤ人はガリラヤとユダヤを往復するに際しても、サマリヤを避け
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
ただ彼の歌の中に恋の体験に関する歌の多いことが、一つの暗示を与える。彼に二十三歳で世俗を蔑視べっしする態度を取らせたのは、若い頃の恋愛であったろう。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
この簡単な言葉に迷わされて感覚というものの基礎的の意義効用を忘れるのはむしろ極端な人間中心主義でかえって自然を蔑視べっししたものとも言われるのである。
物理学と感覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その熱のために、とうとう腎臓じんぞうをわるくした。ひとを、どんなひとをも、蔑視べっししたがる傾向が在る。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
かつ、この事実と衝突する論理は、自己に無関係な命題をつなぎ合わして出来上った、自己の本体を蔑視べっしする、形式に過ぎないと思った。そう思って又椅子へ腰を卸した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ですから、私は東洋思想に溶けこんでいるせいか、有色人蔑視べっしをやる白人種を憎みます。ナチスの浄血、アングロサクソンの威——かえって彼らは、じぶんらにある創成の血をさげすんでいる
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「ヘ長調の四重奏曲第二番」は不満と蔑視べっしを報いられ、大ピアニストなるアントン・ルービンシュタインの如きは、チャイコフスキーが献じた「一つの主題による六つの小曲」に対して
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
旧物に対する蔑視べっしと、新らしき物に対する憧憬とが、前述のようにはげしかったその当時は、役者は勿論のこと、三味線を手にしてさえも、科人とがにんのように人々からおとしめられたものであった。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
といって、私は如何にして過去の凡てを蔑視べっしし、未来の凡てを無視することが出来よう。私の現在は私の魂にまつわりついた過去の凡てではないか。そこには私の親もいる。私の祖先もいる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「小説中に於ける事件」への蔑視べっしということは、子供が無理に成人おとなっぽく見られようとする時に示す一つの擬態ではないのか? クラリッサ・ハアロウとロビンソン・クルーソーとを比較せよ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ブーラトリュエルはその地方の人々から蔑視べっしされていた。
今はただ、ひそかな悩みと、自分および他人にたいする気恥ずかしい蔑視べっしと、子供にたいする愛とだけが、なお残ってるばかりだった。
心の底には常に上士を蔑視べっししてはばかるところなしといえども、その気力なるものはただ一藩内に養成したる気力にして、所謂いわゆる世間見ずの田舎者なれば
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
現今のように、学生と大人とが対立し、蔑視べっしし合うことはなかった。大人の狡才こうさいならって、抜け道や横丁を巧みにくぐろうとする智恵を持たない若さだった。
にくいにはあくまで憎いであろうが、一つはこの女の性質が残忍ざんにんなせいでもあろうか、またあるいは多くの男に接したりなんぞして自然の法則を蔑視べっしした婦人等おんなたち
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
西欧科学を輸入した現代日本人は西洋と日本とで自然の環境に著しい相違のあることを無視し、従って伝来の相地の学を蔑視べっしして建てるべからざる所に人工を建設した。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その偏狭は時に可憐だとして小鳥の如くに男子から愛せられる原因とはなったが、大抵はその盲動と共に女子と小人とは養いがたしとて男子から蔑視べっしせられる所以ゆえんであった。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
その次に「トルストイ」の事が出ている。「トルストイ」は先日魯西亜ロシアの国教を蔑視べっしすると云うので破門されたのである。天下の「トルストイ」を破門したのだから大騒ぎだ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ポチは、れいによって上品ぶった態度を示し、何を騒いでいるのかね、とでも言いたげな蔑視べっしをちらとその赤毛の犬にくれただけで、さっさとその面前を通過した。赤毛は、卑劣ひれつである。
相反するあらゆる党派の人々が、今まで憎み蔑視べっししていた力のまわりに、フランスを代表してる力のまわりに、本能的に集まっていた。
ソレで私は中津なかつに居て上流士族から蔑視べっしされて居ながら、私の身分以下の藩士は勿論もちろん、町人百姓にむかっても、仮初かりそめにも横風おうふうに構えてその人々を目下に見下みくだして
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
富山城にある佐々成政さっさなりまさがそれである。彼こそ、無二の柴田党で無二の秀吉嫌い、また秀吉蔑視べっしの男でもある。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女子の権力は再び地に落ち、ていのよい男子の奴隷となった。父の血統を重んずる所から、「女の腹は借り物」と蔑視べっしせられ、「子なき女は去る」といって遺棄する事を何とも思わなかった。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ことに女に取っては、一生を全く墨塗りにされるのだから、定基の妻は恨みもしたろう、にくみもしたろう、人でも無いもののように今までの夫を蔑視べっしもしたろう、行末あしかれ、地獄にちよ
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さすがに身辺の者から受ける蔑視べっしには堪えかねる事があって、それから三年目の春、またもや女房をぶん殴って、いまに見ろ、と青雲の志をいだいて家出して試験に応じ、やっぱり見事に落第した。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただ一人ミケランジェロにたいしては、その悲壮な苦悶くもんや崇高な蔑視べっしや貞節な情熱の真摯しんしさなどのために、彼もひそかに敬意をいだいた。
(なまじ、地下人ちげびとの息子どもに、学問などかじらせたところで、なんになろう……)と、蔑視べっしする一方と
前にもいった通り、私の父は勿論もちろん漢学者で、身分は私と同じ事であるから、さだめて上流士族から蔑視べっしされて居たでしょう。所が私の父は決して他人を軽蔑しない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
然様そういう軽視もしくは蔑視べっしを与える如き男が、今は嫌厭けんえんから進んで憎悪又は虐待をさえ与えて居る其妻に対しては、なまじ横合からその妻に同情して其夫を非難するような気味の言を聞かされては
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蔑視べっしせられてしまうものです。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この虚偽な生活中に大なる位置を占めている、知的な全然無用なそのうえ退屈なそれらの事柄にたいして、一種敬遠的な蔑視べっしをいだいていた。
という風に見られて、そこは戦場や表方では、使い途にならない人間の捨場のように、蔑視べっしされていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(前略)ひっきょう、支那人がその国の広大なるを自負して他を蔑視べっしし、かつ数千年来、陰陽五行の妄説に惑溺して、事物の真理原則を求むるの鍵を放擲したるの罪なり。
物理学の要用 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは最もつらい苦痛だった……彼女の純潔な心のうちでは、彼から蔑視べっしされることよりも、さらに残忍な苦痛だった。
いやしくも、成政は、人でおざれば、犬との交際つきあいには、事ごとに、蔑視べっしをくれておるにはおるが——このたび徳川どのへ申し入れた一儀いちぎは決して私怨しえんなどではない、公憤でござる
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとみずから尊大にして他国人を蔑視べっしするは、独立自尊の旨に反するものなり。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
それは、すでにモンテーニュが言ってるとおり、「知識を鼻にかけてる人々の厚顔さや法外な不遜ふそんさ」にたいする、蔑視べっし的な反動の純な態度だった。
そういう気もちは、知らぬまに、彼にも彼の女性観や恋愛観をつちかっていた。恋という文字が、ぴったり来ないのも、それに起因していよう。女性の美へ崇拝的にひざまずく男を彼は蔑視べっしする。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ハスレルは心の底に、敵味方を問わず万人にたいして、全然の蔑視べっしをいだいていた。そしてこの苦々にがにがしい嘲弄ちょうろう的な蔑視は、彼自身と全人生とにまで広がっていた。
遥かに宮津七万石の城主大名たる京極の内容のない膨大ぼうだい蔑視べっししていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
社交界にたいする蔑視べっしの念において、彼らは彼と意見が合わずにはいなかった。彼はグラチアが社交界を好んでるという理由で、それにたいして恨みを含んでいた。
「……なんの、寝返り者が」と、蔑視べっしのお心すらなくはない。宮直参の諸将もまた、口々に宮へおもねる。自然、この宮将軍のお耳には、戦後の高氏の行動が、いちいち人もなげなものにみえた。
悪者どもがのさばって、うそをつき奪い盗み人殺しをしている。しかしその他の者を——彼らを蔑視べっししながら勝手なことをさせてる人たちを、僕ははるかに多く軽蔑する。