紙捻こより)” の例文
不圖、旅人は面白い事を考出して、と口元に笑を含んだ。紙屑を袂から出して、紙捻を一本ふと、それで紙屑を犬の尾にへつけた。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「をツさん、また詰まつてるな。素人の煙草呑みはこれやさかいな。」と、俯いて紙捻を拵へ、丁寧に煙管の掃除を始めた。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「世の中には、女の心を知り過ぎて、藝事と言へば、鼻へ紙捻を入れてクシヤミをする藝當しか知らない奴もゐますよ、——この八五郎見たいに」
これだけ? ——これだけなものか——ほかに、もう一通、弁馬の奴からよこした猪口才な果し状も、紙捻のようにって、結いつけておいたのだ。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ、誰も……」と前後を見廻し、き、帯の間に秘持てる紙片を取出だしつ、くるくると紙捻にして、また左右に眼を配り、人のあらぬを見定めて。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の眼の前には神中の白い左の手の指が、美麗きとおるように見えていた。彼はそのままその紙捻を人さし指に巻きつけて、三度まわしてきちんと縛った。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わたしは仕方なしに後方の人込みに揉まれて舞台を見ると、ふけおやまが歌をっていた。その女形は口の辺に火のついた紙捻を二本刺し、側に一人の邏卒が立っていた。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
卯平いた戸口からさくめたた。紙捻ゑたやうな桑畑乾燥しきつた輕鬆黄褐色つてくのがえる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その間に抽斗の草稿は一枚二枚と剥ぎ裂かれて、煙管を拭う紙捻になったり、ランプの油壺やホヤを拭う反古紙になったりして、百枚ほどの草稿は今既に幾枚をも余さなくなった。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一つの端緒から手繰り手繰りしてゆくうちにそれからそれと五日間も書き続けてまだその項が終らないような事もあった。おのおのの項が終るごとにそれを一つに纒めて紙捻で綴じた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
これを読んで寝ようとお思ひになつてあなたが二階から態々の中へ持つて来ておありになるのを見附けますが、私の生前にねられた儘の紙捻の結び目は一度もまだ解いた跡がないのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「をツさん、また詰まつてるな。素人の煙草呑みはこれやさかいな。」と、俯いて紙捻を拵へ、丁寧に煙管の掃除を始めた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
その手さきに眼をやった彼は、そこに奇怪な物を見つけて血が逆上したように驚いた。それはその人さし指にが結んだと同じような紙捻がまいてあることであった。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
細い刃金が三本通してあって、その上を、雁皮紙紙捻で実に根気よく巻きしめた物なのである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白紙手頼手頼り、紙捻手頼りにい……」と巫女さんの前齒けて句切不明であるがそれでも澁滯することなくずん/\とうてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「これを裂いて紙捻にしようよ、——人を呪わば穴二つさ。見たが可い。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どういふもので分るのか、それは文吾も知らないが、兎に角、源右衞門の汚い握り拳を透いて、中の紙捻がギヤマンの鉢に浮く慈姑の根のやうに見えてゐた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
同地発行の新聞は、なぞの死人のことを書きたてたが、死因も判っていなければ、どこの者とも判っていなかった。そして、指の紙捻のことなどは問題になっていなかった。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
茶碗つた紙捻がだん/\にうて點頭いたにくたりとつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
紙捻で耳をほっていた赤埴源蔵
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七人の親指食指とが、皆源右衞門の擧の上に集つたところで、源右衞門は「よしか。」と一聲、パツと指を開くと、七つの手に一本づゝ紙捻がブラ下つた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「まア/\。」と、源右衞門は、さながら若い主人を宥める家老のやうにして、文吾のいきり立つのを押へながら、最初の定めの通り籤親の自分だけが拔けて、一同に紙捻の籤を抽かした。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)