納所なっしょ)” の例文
と、納所なっしょ坊主が寄り集って大ボヤキ。この大石をどかさないと、人が通れない。それを見て、どうかしましたか、と人が集る物見高さ。
その古寺へ四、五年前から二人の出家がはいり込んで来て、住職は全達、納所なっしょは全真、この二人が先ず居すわることになりました。
庫裡くり音信おとずれて、お墓経をと頼むと、気軽に取次がれた住職が、納所なっしょとも小僧ともいわず、すぐに下駄ばきで卵塔場へ出向わるる。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だから納所なっしょにいるお小僧までが——もっとも小寺こでらなのでほかに住僧はないが——びたびたという尻切れ草履ぞうりが寺内に聞えてくると
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして襷掛たすきがけで働いているところを見ると、どうしても一個の独立したあんの主人らしくはなかった。納所なっしょとも小坊主とも云えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一度は一軒置いてお隣りの多宝院の納所なっしょへ這入り坊さんのお夕飯に食べる初茸はつたけの煮たのをつまんでいるところをつかまえました。
第一、正伝寺の墓場には、笹枝家の墓などというものの無いことは、花屋も、納所なっしょの小坊主も保証をしております。
山城やましろ相楽郡木津さがらぐんきづ辺の或る寺に某と云う納所なっしょがあった、身分柄を思わぬ殺生好せっしょうずきで、師の坊のいましめを物ともせず、いつも大雨の後には寺の裏手の小溝へ出掛け
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
お寺の納所なっしょのような感じがした。部屋部屋が意外にも清潔に磨かれていた。もっと古ぼけていた筈なのに、小ぢんまりしている感じさえあった。悪い感じではなかった。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
秋の晩方から宗右衛門は寺の納所なっしょ部屋の隣へ小さな隠居所を建てゝこもつた。寺の世話役も彼の心中を察して別段やかましく言はなかつた。村の者もあまりあやしまうとしなかつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ものにするとは、何かお手のものの商売手に利用してみてやろうじゃないかという謀叛気むほんぎなのであります。このお寺の納所なっしょで、案内係であの小坊主を腐らせてしまうのは惜しい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宝村から追い立てられた其翌日の出来事であるが、昨日までの教員が、今日は青々と髪を剃った納所なっしょ坊主と一変し、名も拳龍けんりゅうと改めたのは、有為転変の世の中とは云えそぞろあわれを催させる。
納所なっしょ二人も尻はしょり、一人は麺棒めんぼう、一人は鉄火箸かなひばしを得物に代えて、威風凜々りんりんというありさま。隅々を見回ってから四人額をあつめひそひそささやき合い、また立ち分かれて見回り歩く。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「お新!」若い納所なっしょが狂気のように叫び出した。「おほ、お、お——しん!」
納所なっしょの雛僧の末々に至るまでもかように権を誇っていたのは当り前です。
と先刻納所なっしょをして、持ってこさした、桐の箱を開けると、中から出たは、パサパサになった女の黒髪と、最早もう曇って光沢のない古鏡こきょうであったので、当時血気な私初めかたわらに黙って聞いていた兵卒も
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
此間こねえだこうだいを見たいという話だからお寺へ頼んだ処が、何んだか浪人者が山へかくねたとか云うんで、八州さまが調べに来てヶましいので、知んねえものはれねえだが、おらが納所なっしょへ頼んでネ
ほかに善了という二十一歳の納所なっしょと、英俊という十三歳の小坊主と、伴助という五十五歳の寺男と、あわせて三人がこの寺内に住んでいた。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここでは納所なっしょの僧が、く起きていたらしく、僧の影はひとりも見えないが、二斗きの大釜をかけたかまどの下には、まききつけてあった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老僧か、小坊主か納所なっしょかあるいは門番が凝性こりしょう大方おおかた日に三度くらいくのだろう。松を左右に見て半町ほど行くとつき当りが本堂で、その右が庫裏くりである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……その勢だから……向った本堂の横式台、あの高い処に、晩出おそで参詣さんけいを待って、お納所なっしょが、盆礼、お返しのしるしと、紅白の麻糸を三宝に積んで、小机を控えた前へ。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人ともに、この寺院の荒涼たる広間で、白衣を着て対坐したところが、行者か亡者かみたようだが、事実は、寺院備えつけの納所なっしょの坊主の着用を一時借用に及んだものらしい。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
結構な打ち菓子をあつらへて仏前や老師に供へた。しまひには納所なっしょ部屋にまでも、それを絶やさなかつた。泰念といふしずか朴訥ぼくとつな小僧が居て、加減よく茶を立てゝは宗右衛門によくすゝめた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「今までは住職と納所なっしょばかりだ。そこへ何処からか虚無僧二人が舞い込んで来て、一緒に死んでいたんだから、何がどうしたのか判らねえ」
そんな筈はない、きまりが悪いのじゃろう、明日は江戸へ連れて帰る——と重ねて佐渡がいうと、伊織は、納所なっしょ坊がしたように、アカンベーをして
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず拝して、絵馬をて、しばらく居ました。とにかく、廚裡くりへ案内して、拝見……を願おうと……それにしても、竹の子上人は納所なっしょなのかしら、法体ほったいした寺男かしら。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、ときめきだけが胸に残つて、いくら眼を閉ぢても無駄むだになつた。今度は納所なっしょ部屋の角を曲ると直ぐ宗右衛門は横を向いた。その上にまたかたく眼を閉ぢた。しかし、矢張りいけない。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
味噌をすっていた納所なっしょは、摺古木すりこぎを担ぎ出しました。そのほかいろいろの得物えものを持って、このすさまじい風来犬ふうらいいぬを追い立てました。門外へ追い出そうとしてかえって、方丈へ追い込んでしまいます。
納所なっしょにも住持じゅうじにも、坊主はまだ一人も出て来ないんだ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寺の玄関へ廻って案内を乞うと、奥から納所なっしょが出て来た。留吉はさっき提灯を借りに行ったので、納所もその顔を識っていた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると、外から帰ってきた奥蔵院の納所なっしょが、うさん臭い者を見るような眼で、武蔵をじろじろながめて通りかけた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうそうなりますとね、一人じゃ先へ立つのもいやがりますから、そこで私が案内する、と背後あとからぞろぞろ。その晩は、鶴谷の檀那寺だんなでら納所なっしょだ、という悟った禅坊さんが一人。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本堂も庫裡くりも山門も納所なっしょもごっちゃなんで。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし吉五郎は寺の納所なっしょにたのんで、あしたの朝は駕籠を迎いによこすから、今夜だけはここへ寝かして置いてくれと云った。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
和尚様は今日は留守なり、お納所なっしょ、小僧も、総斎そうどきに出さしった。まず大事ねえでの。はい、ぐるぐるまきのがんじがらみ、や、このしょで、転がし出した。それさ、そのかたでがすよ。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
納所なっしょ坊は、調子に乗って揶揄からかいながら、眼の玉をいて、ぬっと顔を突き出した。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なるほど、そういえば此の頃は、うちの御住持さまは大変に犬を嫌っていなすった」と、時光寺の納所なっしょも云った。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう一人の頭陀、これは気絶していただけなので、すぐ息を吹っ返し、裸のまま拉致らっちされた。頭陀は報恩寺の納所なっしょ胡道人こどうじんというやつ。彼の白状で事はあらまし奉行所の調書にのぼった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内心如夜叉ないしんにょやしゃどころか、夜叉神の面をかぶって悪事を働きやがる。貴様は一体どこの納所なっしょ坊主だ。素直に云え」
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たしかめた上、ちと話があるのじゃ。今まで、あの沢庵坊主や、姫路の御家来たちと話していたが、ここの納所なっしょ、茶も出さぬ。喉がかわきました。まず先に、ばばに茶を一ぱい汲んでおくりゃれ
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
納所なっしょの了哲に番をさせて置いたのですが……」と、僧も面目ないように云った。「その了哲がちょっとほかへ行った隙に……。どうも不思議でなりません」
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
納所なっしょの僧が、せんじ薬を持って入ったりかゆの土鍋を運んで行ったりしていた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺の納所なっしょたちへ聞こえよがしに、彼はこんなことを云って、わざと苦しそうに顔をしかめていた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どじょう髯の大将は、この寺の納所なっしょと思っているらしく、遂に
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時光寺の納所なっしょの善了も本山派に内通していたという疑いをうけて、寺をい出されたそうです。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いっしょに洗い物を手伝っていた納所なっしょ坊も、口をそろえて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三崎町の大仙寺というお寺の納所なっしょが檀家の法要に呼ばれてかえる途中、丁度その時刻に坂下町を通りかかると、谷中の方角から十歳とおか十一ぐらいの女の子が長い振袖を着て
怪談一夜草紙 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの店から、五、六軒先の法衣屋ころもやの筋向うに徳法寺という寺があります。そこの納所なっしょあがりに善周という若い坊主がいる。娘の死んだ明くる朝にやっぱり頓死したんだそうで……。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこらを四、五日うろ付いた揚げ句に、宗慶寺という寺へはいって、住職と納所なっしょに疵を負わせて十五両ばかりの金を取ったのから足が付いて、ゆうべ板橋の女郎屋で挙げられたそうです。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寺の納所なっしょたちが銅鑼どらをたたいて騒ぎ立てたので、近所の者も駈けつけて来る。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)