れん)” の例文
船が北の岸につくと、また車を陸地に揚げ、れんを垂れて二夫人をかくし、ふたたび蕭々しょうしょうの風と渺々びょうびょうの草原をぬう旅はつづいてゆく。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひようむなししづかにして高楼にのぼり、酒を買ひ、れんを巻き、月をむかへてひ、酔中すいちゆうけんを払へばひかりつきを射る」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
予は僅に二三の京阪の新聞紙を読んで、国の中枢の崇重しゅうちょうしもてはやす所の文章の何人の手に成るかをうかがい知るに過ぎぬので、たとえばれんを隔てて美人を見るが如くである。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いわく何ぞ下り去らざると、山遂に珍重してれんかかげて出で、外面の黒きを見て、卻回きゃっかいして云く、門外黒しと。潭遂に紙燭を点じて山に度与どよせむとす。山接せむとするにあたって潭便すなわ吹滅ふきけす。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
れんは捲かれ、四方は開け放たれ、ここも濤音なみおとのような松風のなかにって、夏もわすれる涼しさのかわりに、燭の明滅ははなはだしい。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたらしく被仰下候而物わすれは老人のみにあらずと、差彊人意やゝじんいをつようし候。書中に御坐候。松崎ほめ候へ共、れんはいまだ知音を不得候よし申参候。千載の知己をまつの外せんすべなかるべし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「七郎っ。——七郎よっ」くるまの中で、少年の声がした。武家の息子であろう、ばらっと、乱暴に、れんをあげて、首を外へ出した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自ら太政相国だいじょうしょうこくと称し、宮門の出入には、金花の車蓋しゃがいに万珠のれんを垂れこめ、轣音れきおん揺々ようようと、行装の綺羅きらと勢威を内外に誇り示した。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲母坂きららざかを越えて斜めに降りてくる範宴の姿や、その他の迎えの人々が見え初めたのである。くるまれんをあげて、牛飼はわだちの位置を向きかえた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお玄徳のきょうまでの隠忍艱苦いんにんかんくのかずかずを物語ると、れんの裡で聞いていた二夫人もすすり泣き、関羽も思わず落涙した。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌い終るのと一しょであった。彼方かなたの頼朝夫妻の席で、って落したように、ばらりッと、れんが落ちた。——その簾中れんちゅうから洩れる怒りの声だった。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女房連があゆむ細殿のれんの蔭にいて、つぶさに彼女らのしなさだめを味わい、やがて遊宴のあいだには、お名ざしで、別殿の奥へ引き抜いてゆく。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無可むか先生は、そのためか、いつもそっちの折角明るい軒へ、一れんをかけているので、いとど狭い室内は、よけいに薄暗い。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つき当りの大廊下から左の広間に、れんとおして、ひと組の客が見える。幾人もの歌妓かぎ、女中たちに囲まれて、客二人は上機嫌で、はしゃいでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方、こなたの柴進さいしんは、酒肴しゅこうをととのえ、れんを垂れてとりすましていたが、そこへ燕青が連れて来た一官人を見ると
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、ぜひなく、ふだんの古車ふるぐるまに乗って、かれは、楽しまぬ顔をれんにかくし、平門ひらもんから出て行った。やがて、遠いほこりの下に、加茂の群衆が望まれてきた。
巌々がんがんたる岩と岩との間、水晶のれんを懸けたような女滝を浴びつつ、今しも痩せたる一人の行者は、一念一心に右手めての鈴を振りながら、禁慾鍛身たんしんの苦行三昧。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、独り上機嫌になって——いや努めて機嫌よく気を取り直そうとして、れんの内から、従者しもべに任せておけばよいような事まで、自身で世話をやくのであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りゅうりゅうとほこをしごいて、ふたたび関羽に突きかかる様子に、車上の二夫人は思わずれんを払って
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れんのすそが大きく揺れて、紛々とうごいた白い花屑が、狂ッた人影を、妖虫のようにめぐって舞った。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ばらばらっと、牛の草鞋わらじだの、棒切れなどが、わだちや、れんへ向って、暴風あらしみたいに飛んできた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月もなし、わざと、松明たいまつもともさない。おそらくおどろな秋の山風は、御輿みこしれんも吹きちぎって、お肌にあわを生ぜしめていたことだろう。——ただ少々供の人数はふえていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天皇は、み車の内で、女房衣を打ちかずいて、俯っ伏しておられた。——急に、れんを吹く風は、加茂川の冷たい湿しめりをもち、ハタハタと鳴って、ひとしおお胸のときめきを打った。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れんを巻き、牛をとどめさせた。——と、思いがけない人が、外をのぞいて、平太と呼んだ。
瑤々ようようれんをゆるがしてゆく貴人のくるまがある。夕風のなかを美しい魚のように歩く美女の群がある。小薙刀こなぎなたを小脇に左の手に数珠じゅずを持って織屋はたやの門に立ちのぞいている尼さんがある。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いきなり腕を伸ばして、その者はれんすそをつかみかけ、あとは車の後ろへ廻った。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りょうの車は、内院の門へ引きよせられた。二夫人はれんのうちにかくれた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだら牛がひく御車のれんは、わざと高だかと巻かれてあった。おん年三十六、七、色浅ぐろく、ほお肉のうすい、かなつぼまなこの貴人が、むッつり、くちをむすんで、内座ないざいっぱいにすわっておられた。
やにわに、武松はそこのれんを上げて、ぬっと顔を突き出した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひらと、その長い裳裾すそが車のれんを離れたのと、その後ろで
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一艘の船を江岸につないで、孔明は船窓のれんを垂れていた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俊基は、れんねて、車上から半身を見せ
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮は笑って、手ずかられんをパラと下ろした。
車のれんを上げると共に
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れんを上げたがいい」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)