破目はめ)” の例文
ことに妊娠というようなことにでもなれば、抜き差しならぬ破目はめに陥ることがある。これは充分警戒しなければならぬことだ。
学生と生活:――恋愛―― (新字新仮名) / 倉田百三(著)
私を此のような破目はめに追いこんだ何物かに、私は烈しい怒りを感じた。突然するどい哀感が、胸に湧き上った。何もかも、徒労とろうではないか。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「どうすると言うて、逃がれぬ破目はめじゃ。」と、小坂部は再び嘆息した。「夜のあけぬ間に都を落つる。それよりほかに仕様はあるまい。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんな破目はめになることをちゃんと見抜いていたのだ。明智にはいつもこの手でやられるのだ。ボーイの合鍵でドアは開かれた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
若し房一達の来るのがもう少し遅れたら、加藤巡査の報告もあやふやになり、署長はじめを現場へ案内せざるを得ない破目はめにもなつただらう。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
身代を作るよりは減らす方が上手じょうずで、養家の身代を少しも伸ばさなかったから、こういう破目はめとなると自然淡島屋を遠ざかるのが当然であって
ちょっと抜きしならぬ破目はめになってしまったのも、私が最初からの茶屋を通して話を進めなかったことの手ぬかりを言うのであろうと思った。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ついに、その刀を打ち折り、その箭種やだね射尽いつくされたとでも申しましょうか……どうしても自殺されなければならぬ破目はめに陥って来られたのです。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あがけばつまづき、躓いては踠き、揚句あげくに首も廻らぬ破目はめに押付けられて、一夜あるよ頭拔づぬけて大きな血袋ちぶくろ麻繩あさなわにブラ下げて、もろくもひやツこい體となツて了ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そんな破目はめにある甚三郎を、悪く云うではないが、日頃からいやに君子ぶッて、い男を鼻にかけ、交際つきあいはしない奴だから、誰も同情する者はない。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中畑というのにも僕は一度あってるきりだし、世間さまに云わせたら、僕が君をなんとかしてケチをつけたい破目はめに居そうにみえるのではないかしら。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
結局のところ濠洲黄金狂時代の申し子であった巨船「グレート・イースタアン」が、結局のところ大西洋を——他人のうみを——稼がねばならん破目はめとなった。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
長屋の胴腹に穴をあけて造つたトンネル路地まで來ると、周三は、そこの破目はめもたれてしやがんでしまつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
「だけど今じゃもう別れたくっても別れられない破目はめになっている。こんなことだったら、いつか別れかけたときに一思ひとおもいに思い切ってしまえばよかった……」
まごつくとワイアに、はね飛ばされねばならぬ破目はめになるのであった。おまけに鉤は一人で動かない、やつであった。従って作業がはなはだしく困難であった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「何方も拔き差しならねえ破目はめだ。仲間の仕來りは、こんな時には二てうの匕首に物を言はせる外はねえ」
隨分つかはせたあげくだが、その友人と共に店の格子さきに立ち、百圓の金がなければ免職される破目はめになつたから、どうかして呉れないかとの相談を持ち込んだ。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「御冗談でございましょう。お! 御冗談といえばもう一つその御婦人とやらでおなくなりなすったというのもあんまり破目はめをはずした御冗談じゃありませんかね」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お座なりのお世辞がだんだん身を縛つてしまつて、ぬきさしの出来ない破目はめとなつたのでもあらう。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
しかも私の女神はまだ怒っていたので、私が自身に出頭して謝罪しなければならない破目はめになった。
それに、そんなものを書くことは、自分で自分を一層どうしようもない破目はめおとし入れるようなものであることにも気がついたのだ。「アドルフ」の例が考えられた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あのお子が悪者の手にかかってお果てなされなければならない破目はめ立到たちいたったのを、色々苦心の末に、この山奥にお捨て申して、律儀りちぎな百姓の手に御養育いたさせたのだ。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
……こんな事なら仲間に話し、遠巻きさせればよかったんだが、何が烏組と莫迦にしたので、とうとうこんな破目はめに落ち込んでしまった! どうにも足掻あがきがつかないねえ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひょんな破目はめで、敵味方になったといってあんまりつらく当るのも、泥棒仲間の、仁義じんぎ道徳にかけるというもんだ——あれだって、茶碗ざけの一杯も、たまにはやりたいだろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
昔の氣紛きまぐれで(彼のやうな性急せつかちな、我儘な性質のものにはよくある缺點だ)、彼が、弱點を掴まれてしまふやうな破目はめに落ち、今更、ふり拂ふことも、無視することも出來なくなつてゐて
「古土タダアゲマス」屋根に書いて破目はめに打付けてあるその露地へ入って行った女は白足袋しろたびの鼠色になった裏がすっかり見えるように吾妻下駄あずまげたの上でひっくらかえす歩き方を繰り返して行く。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし現在の葉子はたわいもなく敵を手もとまでもぐりこませてしまってただいらいらとあせるだけだった。そういう破目はめになると葉子は存外力のない自分であるのを知らねばならなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
苦しい破目はめもあるというのは、一人の六十あまりになるおばアさんの人があって、このおばアさんの考えでは自分の身内の或る人を嫁に入れようとする。が銀行員の婿さんはその女はやなのだ。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
それは余儀ない破目はめから女優になったとはいえ、こうまでに成功してゆけば、どれからはいって歩んだとしても、道はひとつではないか、けれど、立脚地が違うゆえ、全生命を没頭しきれないで
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼女はわたしが殉道に身を投じてゆく破目はめになるのを知って、いかにも私に勇気づけるように、力強い頼みがいのある顔を見せました。その眼は詩のように、眼の動きは歌のように思われたのです。
自分を保つすべがないやうな破目はめになります。
寒い夜の自我像 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
あの場面に出て来ないように……そうしてアンナ苦しい破目はめに陥らないように……もしくは回復しかけている私の頭を
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここで自分がもろい涙を見せて、男の覚悟をにぶらせるような事があってはならない。所詮しょせんこういう苦しい破目はめに落ちたのが男も自分も不運である。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
併しながら今や絶體絶命ぜつたいぜつめいの場合となつて、何方とも身の振方を付けなければならぬ破目はめに押付けられてゐる。で
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
が、其の吉村という人とそんな仲になって、それから何ういう理由わけで、その男を逃げ隠れをするようになったり、またお前が斯様こんな処に来るような破目はめになったんだ?
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
初めからひそかに咲耶子さくやこすくいだす策略さくりゃくで来たのであるが、とちゅう、馬糧小屋まぐさごやにふしぎなけむりがもれていたため、その疑惑ぎわくにひまどって、ついに、こういう破目はめになったのは
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてこれが私を、盗むことの余儀ない破目はめおとしいれた唯一の理由なのである。
いかに同志のためとはいえ、いかに兵庫の頼みとはいえ、色仕掛けで萩丸を誘惑することなど、彼女としては不本意なのであったが、のっぴきならぬ破目はめとなって、今実行しているのであった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
単に情痴ならばあのような破目はめに落ちずとも、少くとも彼ほどの男なら、もっと悧口りこうに身を処することが出来る筈なのだ。もっと深い処で彼は身を賭けたに違いないのだ。しかしその詳細しょうさいは判らない。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
今更それは嘘だとも云えない破目はめになって、よんどころなしに表へ出たが、もとより越前屋へ行くわけには行かない。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
全く立往生の姿にされてしまったらしい。……のみならずそのうちにWは又、それ以上の手厳しい打撃を受けて、涙を呑んで退却しなければならぬ破目はめに陥った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのため、まもなく仁木、細川、今川、吉良などの味方を加えるには加えたが、鷺坂のふせぎもならず、またぞろ、駿州の手越河原まで敗退するの余儀ない破目はめになってしまった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何事もなければ仔細はないが、こういう事件が出来しゅったいした以上、もう隠すにも隠されない破目はめになって、市之助は当然そのせめを負わなければならなかった。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
加うるに資金欠乏のために当座の仕事を中止せねばならぬ破目はめに陥りましたが、コンドルはこの時も前と同様に親切に妻の世話を致しまして、巨額の金を貸し与え
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
、是が非でも、わがを成敗せねばならぬ破目はめに立たせてしまう
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかし唯者ではござりませぬ。時の破目はめで、こうして誘われては来たものの、彼奴あやついよいよ不審と見ましたら斬って捨つるまでのことでござりまする。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いかに玉藻に口説かれても、千枝太郎は師匠の使命を果たさなければならない破目はめになっていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自然に伊勢屋の旦那の御機嫌を損じるような破目はめになって、その当座はちっともつれたようでしたが、芸者をさせて置けばこそこんな事にもなるのだと云うので、この六月
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
実は八丁堀の旦那(同心)の御新造ごしんぞが産後ぶらぶらしていて、先月から箱根の湯本に行っているので、どうしても一度は見舞に行かなけりゃあならないような破目はめになって
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お鉄は振り切って逃げて帰ろうとするのを、かれは腕ずくで引き留めたので、何事も主人のためと観念して、お鉄はなぶり殺しよりも辛い思いをしなければならない破目はめに陥った。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)