相方あいかた)” の例文
また或る人たちが下司な河岸かし遊びをしたり、或る人が蒲団ぶとんの上で新聞小説を書いて得意になって相方あいかたの女に読んで聞かせたり
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
三代目小稲と称していたのは前の小稲の突出つきだし右近である。香以は玄魚と魯文との相方あいかたを極めさせ、自分は有中、米八を連れて辞し去った。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は少しくふところをあっためたので、すぐに港崎町の廓通くるわがよいをはじめて、岩亀楼の小秀という女を相方あいかたに、身分不相応の大尽風だいじんかぜを吹かせていたが
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私が顔を洗っている間、彼女は私のたもとが水にれないように両掌りょうてでつかんでいた。私の脇にも客が一人いて、やはりその相方あいかたがなにかと気を配っていた。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
なん商買しようばいなどがおありなさらう、そんなのではいとひながら蒲團ふとんうへせてきし紙入かみいれをとりあげて、お相方あいかた高尾たかをにこれをばおあづけなされまし
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さればや僕少壮の頃吉原よしわら洲崎すさきに遊びても廓内かくない第一と噂に高き女を相方あいかたにして床の番する愚を学ばず、二、三枚下つたところを買つて気楽にあそぶを得手えてとなしけり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
求馬はその頃から人知れず、吉原のくるわに通い出した。相方あいかた和泉屋いずみやかえでと云う、所謂いわゆる散茶女郎さんちゃじょろうの一人であった。が、彼女は勤めを離れて、心から求馬のために尽した。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その顔色が真蒼まっさおにでもなっていたものか、相方あいかたも驚きながら、如何どうしたのかと訊ねられたが、その場では別に何もはなさず、風邪の気味か何だか少し寒気さむけがするといって
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
いつもこの「松の間」の話の洩れないところにきめてあったの、西郷さんのお相手は小太夫といって、月照げっしょうさんと一緒に遊びに来られて、その相方あいかた花桐太夫はなぎりだゆうであったなど
出方の藤吉の眼は、とっさのことではあり、それに、相方あいかたが、ぼんやりした影法師なので間違っているかもしれないが、とにかく、その、障子にうつった影は——傴僂だったという。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
相方あいかたを定めて熟睡せしが、深夜と思う時分不斗ふと目をさまして見ると、一人であるべき筈の相方あいかた娼妓しょうぎ両人ふたりになり、しかも左右にわかれてく眠っているのだ、有るき事とも思われず吃驚びっくりしたが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
相方あいかたはかねて知っている静枝の妹女郎が来た。顔の丸い肥った女だッた。清三は黙って酒を飲んだ。黙ってその妹女郎と寝た。妹女郎は行った人の話をいろいろとして聞かした。清三は黙って聞いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
五百いおが藤堂家に仕えていた間に、栄次郎は学校生活にたいらかならずして、吉原通よしわらがよいをしはじめた。相方あいかた山口巴やまぐちともえつかさという女であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その一軒の吉野屋という暖簾をかけた店から、ひとりの若い男が傘もささずに出て来ると、又あとから其の相方あいかたらしい若い女が跣足はだしで追って来た。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さいわい、その侍の相方あいかたくじを引いた楓は、面体めんていから持ち物まで、かなりはっきりした記憶を持っていた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分も再び腰をえて、時にとっての相方あいかたに、多少の張合いを持つことができたようです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女中が相方あいかたをきめるのに困っているらしいのを見て、駒田はかわやから帳場へ姿をかくし、それから清岡を呼出し、座敷には招待した記者二人を残して好きな芸者をり取らせる事にした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そんなのでは無いと言ひながら蒲団ふとんの上に乗せて置きし紙入れを取あげて、お相方あいかたの高尾にこれをばお預けなされまし、みなの者に祝義でもつかはしませうとて答へも聞かずずんずんと引出ひきいだすを
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
妙義の妓はふくみ水でその血を洗うことを知っているので、今夜の客も相方あいかたの妓のふくみ水でその疵口を洗わせていた。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五百いお里方さとかたでは、先代忠兵衛が歿してから三年ほど、栄次郎の忠兵衛は謹慎していたが、天保十三年に三十一歳になった頃から、また吉原へ通いはじめた。相方あいかたは前の浜照はまてるであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
連れのひとりは此の時代の江戸の侍にありがちないきな男であった。相方あいかたの玉琴にも面白がられていた。外記は初めてこの里の土を踏んだ初心しょしんの男であった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここは友蔵の娘が奉公している店で、そのお国が清七の相方あいかたに出た。お浅という女が幾次郎に買われた。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その鑑定は適中して新宿の伊賀屋といふ店へ登楼した一人の客が右の小指に火傷やけどをしたと云つて、相方あいかたのおせんと云ふ女郎から山崎の守符まもりふだを借りたことが判つた。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
次郎左衛門の相方あいかた八橋やつはしという若い美しい遊女であった。八橋は彼を好ましい客とも思わなかったが、別に疎略にも扱わなかった。彼はひととおりに遊んで無事に帰った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相方あいかたの遊女はおそのといって、六三郎よりも三つの年かさであった。十六の歳から色里いろざとの人となって今が勤め盛りのお園の眼には、初心うぶで素直で年下の六三郎が可愛く見えた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いつもの事であるから相方あいかたのお駒も心得ていて、中引け前にはきっと起して帰すことになっていたのであるが、その晩はお駒も少し酔っていた。吉助も酔って寝込んでしまった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勿論、大名のお忍びですから、頻りにと云ったところで、月に二三度ぐらいのことでしたが、それでも殿様は大執心で、相方あいかたの女に取っても、その店に取っても、大変にいゝお客様であったのです。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お前さまのお相方あいかたはどなたでござります」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)