直段ねだん)” の例文
お登和さん、ホントに今だして下すった松茸は良い品物ばかりですね。何故なぜ良い品ばかり揃えて直段ねだんを高くしてうらないでしょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
見て下さい。これで韃靼人に売れば、直段ねだんはわたくしのいふ通りになります。韃靼人といふ奴は、馬の好いのを、命よりも大切にしますからね。
日本人に少しも変らず、ヘロヘロといひて、猪口ちょく直段ねだんを付け居り申し候。その所へ障子をからりと明け候て、ロシヤといひながら大男入り来る。
空罎 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「金銀は卑しきものとて手にも触れず、仮初かりそめにも物の直段ねだんを知らず、泣言なきごとを言はず、まことに公家大名くげだいみょう息女そくじょの如し」とは江戸の太夫たゆうの讃美であった。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
物の直段ねだんが分らない。いくらと云っても黙って払う。人が土産を持って来るのを一々返しに遣る。婆あさんは先ずこれだけの観察をしているのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
殊に趙太太は直段ねだんが安くて品物がいい皮の袖無しが欲しいと思っていた時だから、遂に家族は決議して鄒七嫂にたのんで阿Qをすぐに喚んで来いと言った。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
あの張板なぞは、宅でまだ川向に居ました時分、わざわざ檜木ひのきで造らせたんですよ。長く住む積りでしたからねえ。とにかく、道具屋に一度見せまして、直段ねだん
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
聞て幸ひぎんの松葉のちひさ耳掻みゝかきほししと有る故直段ねだんも安くうり彼是かれこれする中に雨もやみしかば暇乞いとまごひしてかへりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
炭の荷を揚げるにもごく都合の好い事で、それから直段ねだんを聞いて見たら二十五両だと申しやすが、尤も畳建具残らずで、へっついはありやせんが、それはあとで買っても好いが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
諸国和製砂糖殖え立、旧冬より直段ねだんはたと下落致し、当分に至り、猶以て、直下ねさげの方に罷成り
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それで、直段ねだん何程いくらかと聞くと、三円だというので、その安いのにはまた驚きました。
市日には遠近ゑんきんの村々より男女をいはず所持しよぢのちゞみに名所などころしるしたる紙簽かみふだをつけて市場に持より、そのしな買人かひてに見せて売買うりかひ直段ねだんさだまれば鑑符きつてをわたし、その日市はてゝかねふ。
意形を全備して活たる如きものは名人の作なり。蓋し意の有無と其発達の功拙とを察し、之を論理に考え之を事実に徴し、以て小説の直段ねだんを定むるは是れ批評家の当に力むべき所たり。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
鹽尻の茶店ちやゝの爐に暖まり温飩うどん掻込かつこみながら是よりなら井まで馬車一輛雇ふ掛合を始む直段ねだん忽ち出來たれど馬車を引來らず遲し/\と度々たび/\の催促に馬車屋にてはやがてコチ/\とこはれ馬車を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
彼処かしこに到り此処ここい、ぎょうにありかんと欲する時、我貧なるが故に彼より要求さるる条件多くして我の受くべき報酬はすくなく、我は売人うりてにして彼は買人かいてなれば直段ねだんを定むるは全く彼にあり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
それで直段ねだんは胡麻の油の三倍も高く取ってもうかる儲かるとよろこんでいます。実に今の世の不徳義な商人ほど不埒ふらちなものはありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
黒いびんの肩の怒ったのに這入っている焼酎しょうちゅうである。直段ねだんが安いそうであったから、定めて下等な酒であったろう。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
貰ふとは申さぬと云れて左仲は力身りきみけ齒の根も合ずくづ/\と是非なく懷中より金百兩のつゝみを取出し盜賊に渡せば是々夫ではまぬ惡ひ根性こんじやうかく直段ねだんの極つて居る者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
久「何方様どなたさまで、藤野屋様で、是は誠に有難いことで、なるたけお直段ねだんを宜く頂戴致しますから、外へお払いにならず、わたくしが頂戴致しとうございます、えゝ樽はお幾つございます」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その肉を同じ直段ねだんに売るとしても倍以上の利益があるのに、仏蘭西辺の如く去勢肉が三倍の高価になれば合せて六倍の利益になる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これは実は私のうちに有りました品でございまするが、幾らでお求めに相成りましたか知らんが、私に取っては大切な道具でござるが、お求め遊ばしたお直段ねだんを仰せ聞けられますれば
あたひ十匁と申を九つか十か御こし被下度候。これは人にたのまれ候。皆心やすき人也。金子は此度之便遣しがたく候。よき便の時さし上可申候。直段ねだん少々のぼも不苦候。必々奉願上候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
此儘このまゝ流して仕舞は餘り殘念ざんねんなりさらば先此金子にて請出し我が年來の懇意こんいなる稻葉丹後守樣の藩中へ持參してよき直段ねだんに賣拂はんと文右衞門は漸々やう/\承知なし市之丞が遺したる金子廿五兩の内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
妻君は料理に夢中なり「薩摩芋がこんなに美味おいしくなるなら直段ねだんの高い物ばかり買わないで毎日お芋料理を致しましょう。そのセンはどうなさいます」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
バラーは直段ねだんやすい処で内ロースの半分位でしょう。ロース肉はシチュウにすると筋張すじばってかえっていけません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
料理法に一番大切な事は原料を択ぶのです。同じ直段ねだんの物を買ってもらび方によって大層な違いがあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
或る華族さんはこのレブロースをヒレ肉だといって一年の余も毎日牛肉屋から売付けられたお方があります。ヒレとレブロースとは直段ねだんが半分も違います。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私がお友達に料理の話をしても誰でも手軽なお料理はありませんかと直ぐ言い出します。手軽で美味おいしくって直段ねだんの安いものというのが大抵な人の注文です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その代り日本料理の原料なら大概外の人にも直段ねだんが分りますけれども西洋料理では分らん人が多いから、御馳走を出すと同時に一々その説明をしなければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)