発奮はず)” の例文
旧字:發奮
と転がして、発奮はずみかかって、ちょいと留めて、一つめておいて、ゆらりと振って放す時、得も言われず銀鈴がこだまに響く。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……いや、愚に返った事は——もし踊があれなりに続いて、下り坂を発奮はずむと、町の真中まんなかへ舞出して、漁師町の棟を飛んで、海へころげて落ちたろう。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大巌おおいわの一枚戸のような奴がまた恐しくすべりが良くって、発奮はずみかかって、がらん、からから山鳴り震動、カーンとこだまを返すんです。ぎょっとしました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
響に応じて、コロコロとったが、こっちは一吹きで控えたのに、先方さき発奮はずんだと見えて、コロコロコロ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伸過ぎた身の発奮はずみに、蹌踉よろけて、片膝をいたなり、口を開けて、垂々たらたらそそぐと——水薬の色が光って、守宮の頭をもたげてにらむがごとき目をかけて、滴るや否や
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見る内に、額にたらたらとと汗を流し、死声しにごえを振絞ると、あごから胸へあぶらを絞った……あのその大きな唇が海鼠なまこを干したように乾いて来て、舌がこわって呼吸いき発奮はずむ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
発奮はずんで、ずるずると来たやつが、若衆わかいしゅの足許で、ころりとかえると、クシャッと異変な声を出した。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
対手あいては学士の方ですって、それまで申して占て貰いましたら、とても縁は無い断念あきらめものだ、といましたから、私は嬉しくって、三銭の見料へ白銅一つ発奮はずみました。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
景物の福引に十両二十両という品ものを発奮はずんで出しますんで、一番引当てよう了簡りょうけんで、禁厭まじないに蛇の袋をぶら下げて、杖をいて、お十夜という形で、夜中に霜を踏んで
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄漿溝おはぐろどぶというのについて揚屋町あげやまちの裏の田町の方へ、紺足袋に日和下駄ひよりげた、後の減ったる代物しろもの、一体なら此奴こいつ豪勢に発奮はずむのだけれども、一進が一十いっし二八にっぱちの二月で工面が悪し
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つんぼひがみの向腹立むかっぱらたちが、何おのれで、わたりをききも、尋ねもせず、足疾あしばやにずかずかと踏掛ふんがけて、二三間ひょこひょこ発奮はずんで伝わったと思うと、左の足が、ずぶずぶと砂に潜った。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汗が冷く、慄気ぞっと寒い。息が発奮はずんで、身内が震う処から、取ったのを放してくれない指の先へ、ぱっと火がついたように、ト胸へ来たのは、やあ!こうやって生血を吸い取る……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世に美しい女のさまに、一つはうかうかさそわれて、気の発奮はずんだ事は言うまでもない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
靴足袋を長くあらわした服筒ずぼん膝頭ひざがしらにたくし上げた、という妙な扮装なりで、そのおんなたち、鈍太郎殿の手車から転がり出したように、ぬっと発奮はずんで出て、どしんと、音を立てて躍込おどりこんだのが
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土木の小官吏、山林見廻りの役人か、何省おやといの技師という風采ふうさいで、お役人あつかいには苦笑するまでも、技師と間違えられると、先生、陰気にひそひそと嬉しがって、茶代を発奮はずむ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ごくごく吝嗇けちに行った処で、うなぎか鳥ね、中な処が岡政で小ざっぱり、但しぐっと発奮はずんで伊予紋となろうも知れず、わっしゃ鮨屋だ! 甘いものは本人が行けず、いずれそこいらだ、まあ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人あるじの医学士は、実は健康を損ねたため、保養かたがた暢気のんきを専一に、ここに業を開いているのであるが、久しぶりのこの都の客と、対談はなし発奮はずんで、晩酌の量を過したので、もう奥座敷で
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
義士の人数にんず、六人の同勢は、羽根のように、ぽんぽんと発奮はずんで出てく。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
扉に身体からだ附着くッついて、発奮はずんで出たが、またいだ足が、そう苦なしには大穴から離りょうとはせぬので、地獄から娑婆しゃばへ踏掛けたていで、ひとりもがいて、どたんばたん、扉のおもてと、や、組んだりける。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と一言掛けて、発奮はずむばかりに身をひるがえすと、そこへ、ズンと来た電車が一だい目前めさきへカラカラとつかりそうなのに、あとじさりにされ、圧され、あおられ気味に蹌踉々々よろよろとなった途端である。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ、団扇、それ、ははは……大きな女の嬰児あかさんだな。」と立ちも上らず坐ったまま、縁側から柄ばかり庭の中へ差向けたが、交際つきあいにも蛍かといって発奮はずみはせず、動悸どうきのするまで立廻って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしこれはじょうに激して、発奮はずんだ仕事ではなかったのでございます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芸妓げいしゃも自家これに客となって、祝儀を発奮はずみ、ぎょくを附けて、弾け、飲め、唄え、酌をせよ、と命令を奉ぜしめた時ばかり、世の賤業を営むものとおとしめてよろしいけれども、臂鉄砲ひじでっぽう癇癪玉かんしゃくだまを込めた
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)